8-3
朝一番に集積所へ石炭をもらいに行った。集積所は大変大きなところで洞穴の天井に届くくらいの大きな石炭の山が見えるだけで三つ、奥にはもっとあるだろうが正面にあったそれだけでもドンガガは度肝を抜かれた。
コロンがスコップで山のふもとの石炭をざっとすくった。それを麻袋に流し入れる。
袋の半分ほど入れて「持てるかい?」と問うので持ってみた。まだ持てる。
その後三分の二ほどまで詰め「あまり重いと持って行けなくなるからね」と袋の口を縛った。それをリュックに詰めて背負った。ずっしりと重いが歩けなくはない。女性のキャシーは少し少なめに、その他の人員はドンガガと同じだけもらった。
午後はリュックを置いて
一行の半数ぐらいは行かなくてもよいと言うので彼らを残していった。
道すがらコロンが「何が掘りたい?」と問うとキャシーが真っ先に手を上げて「エメラルド!」と答えたので一同はエメラルドの鉱脈へと向かった。
鉱脈では数人のドワーフが採掘をしている最中だった。
邪魔をせぬようそっと道具置場へ行きつるはしを借りた。ドンガガはひげを編んだドワーフの隣へ行き早速掘り始めた。
黙々と掘っているとひげのドワーフが「もっと腰を入れろ」と言ってきた。重心を低くし掘っていると「もっと高くから振り下ろせ」と言う。なので指示通りにすると「いい調子だ」と褒めてくれた。
一時間ほど夢中で掘ったのだが何も出なかった。休憩をひげのドワーフと一緒に取り、ハオパの実をもらってまた食べた。やはりそんなに美味しいものではない。シャリシャリと噛んでいるとひげのドワーフが懐からがさごそと握りこぶしほどの鉱石を取り出した。
土まみれだが指でこすると鈍く緑に光る。
「加工前のエメラルドの原石だ」
「なんと! 大きいですね」
驚いて目を見開き、借りてそれを見せてもらった。松明の光を当てると向こうがうっすら透けて見える。ドワーフはその鉱石を今日の午前中に見つけたのだと言う。頑張って掘ればきっと見つかると励ましてくれた。
休憩後、ドンガガはより一層頑張った。指にマメを作り掘り続けたが、出てくるのは謎の玉虫色の原石ばかり。エメラルドは一向に出てこない。
玉虫色の原石を打ち捨てながら掘り続けているとコロンがやってきて、目を丸くして笑った。
「ドンガガさん、たくさん原石見つけているじゃないか!」
「へ?」
「それ、ブルータリスだよ」
「ほう、これが」
手を止めて石を拾い上げる。夕べ空で輝いていたものと同じものとは思えないほど地味だ。
「今は地味でも磨くととってもいい色になる。持ち帰るといいよ」
その後、夕方まで掘り進めたのだが結局ドンガガはエメラルドを見つけることが出来なかった。幸いキャシーは小ぶりのものを見つけたようでご満悦だった。
土にまみれた服のまま、コロンに案内され原石をアクセサリー加工する工房へと持ち込んだ。工房はきらびやかな大通りを少し入った小さな路地にひっそりとたたずんでいた。
職人のドワーフはコロンの気心知れた人物らしくとっても親切にしてくれた。代金は掘ったブルータリスで支払いたいと言うと喜んで引き受けてくれた。
キャシーは迷った挙句エメラルドを小さなピアスにするらしい。ドンガガはブルータリスでタイピンとカフスのセットを作ることにした。
「なんだそれは?」と問われたので絵を書いて説明すると「ふむふむ」と頷いてデザイン画を書いてくれた。
すごくおしゃれで気に入ったのでお土産に五セットほど作ってもらい、妻と娘にはお揃いのペンダントをあつらえることにした。
宝石の加工を待つ間、コロンの家でもう一泊し、その晩は泊めてくれたお礼にとドンガガたちが台所を借りて地上の料理を振る舞った。
野菜は違うし調味料も不思議な物ばかりで戸惑ったが一人暮らしで自炊が得意なニッケルが活躍し、料理は何とか完成した。
コロンの一家は大喜びで食べてくれた。その日は採掘で余程疲れていたらしく布団に気絶するように倒れて気が付くとすでに朝だった。
工房に向かうとアクセサリーは全て完成していた。急ぎだと言うので徹夜で作ってくれたらしい。職人たちはへとへとに疲れていた。しおれた職人たちに丁寧に礼を言い工房を後にした。
出立すると言うと別れを名残惜しそうにして採掘場の端までコロンと数名のドワーフが付き添ってくれた。
「リトルフォレストかあ、素敵な町なんだろうな。行ってみたいなあ」
コロンが羨ましそうに言う。
「是非いらして下さい」
ドンガガがにこにこ笑うとコロンは複雑な表情を浮かべた。
「いや、やめておくよ」
「?」
「あんたたちがいい人だってことは分かってる。でも昔のこともあるしさ。何かがあれば国の皆に迷惑がかかる」
「そうですか」
ドンガガは残念そうな表情を浮かべる。コロンはにこっと笑った。
「トロッコ列車を見つけたら忘れず石炭を全て渡すんだよ。面白そうな駅があっても途中で降りちゃいけない。一度下りると元には戻れないからね。降りるのは地中の果てだ、それを忘れないで」
「分かりました。必ずそうします」
感謝の気持ちで別れのあいさつにと手を握った。思ったよりも小さい、小さいけれどたくましくい。そして若いけれどごつごつとしている、やはり鉱員の手だ。
今日も彼らは石を掘り土の中で生きていく。明日も、明後日も、明々後日もこの先ずっと。そう思うと感慨深いものがあった。
「お元気で」
彼らと会うことはもうないだろう、そう思うと別れが急に惜しくなる。ドンガガは涙をこらえて手を放した。
「ドンガガさんたちもお元気で!」
コロンが元気に手を振った。皆も手を振り返す。
手を振るのを止めると急に石炭が重く感じられてくじけそうになった。でも歩くのをやめるわけにはいかない。道はまだまだ続いているのだから。
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