7-2

 カキーン、カキーン、カキーンとドワーフ二人が交互に石を打ち鳴らす。その二つの掘削音の合間に下手くそな音が数個混じる。


 ドンガガたちも必死で手伝っているのだが何しろ素人で掘り進むスピードは控えめだ。これじゃ助けにならないと思ったがドワーフたちは「それでも助かる」と言って笑ってくれた。


 削った石はサンペリオの住人たちが手押し車に乗せて通路の外まで運ぶ。石を運ぶだけなのだが彼らは一生懸命だ。汗を流してせっせと崩れた石を積み込んでいく。普段はドワーフ二人だけで掘削と運搬の作業をこなしていたため、それに比べて格段に作業がはかどると言ってコロンは喜んでいた。


 二時間ほど掘り続け、ドンガガは少しつるはしを使うのが上手になってきた。狙った場所にも五回に三回は振り下ろせるようになり、一回の振り下ろしで崩れる石の量も格段に多くなってきた。


「元市長さん、このままウチで働かないかい」


 コロンが笑う。会話しながらも手は休めない。


「それは困りましたね、サンペリオに行かなくてはならないのですが」

「だったら少し道草食って鉱石を掘っていきなよ」


「鉱石ですか」

「こことは少し離れたところにダイヤモンドの鉱脈がある。別の場所では上質のエメラルドも取れる。ご婦人のお土産にどうだい」

「エメラルド!」


 キャシーは感激のあまり腕を止める。顔が期待に満ちている。


「うーん、そんな時間は……」


 言いかけたところでキャシーの顔が曇るのが見えた。しゅんとしている。


「分かりました。少しお邪魔いたしましょう」

「やったー!」


 キャシーは両手を天に突き上げ喜んだ。呆れたのはカッパーだ。黙って不機嫌そうに掘り進めている。


「カッパーくん、ダイヤモンドを娘さんの結婚祝いにどうですか」


「……娘はまだ四歳です」


 カッパーの機嫌はより一層悪くなるばかり、ドンガガはふうっと息をつくと素知らぬ顔で作業に没頭した。


 十時間ほど掘っただろうか。途中、各々休憩を挟みながら代わる代わる穴を掘り続けた。その甲斐あってか穴の向こう側からの掘削の音も聞こえてくるようになった。

コロンは「コンコン」と石を打ち鳴らす。すると「コンコン」と返ってくる。壁に手を付け「おーい!」と言うと少しして「おーい」と返ってきた。


 穴の中は活気に沸いた。希望が見えてきたのだ。皆の工具を持つ手に力がこもる。作業はより一層加速して皆は汗だくになって、もがくように掘った。そして、ついに石の壁に十センチほどの小さな穴が開いた。


 コロンが穴を覗き、「オレだ、コロンだ。誰か聞こえるかい」と呼びかけた。すぐに「コロンか、無事か」と返ってくる。「ああ、ぴんぴんしてるよ」と言うと穴の向こうでわっと喜びの声が起こった、あちらにも大勢いるらしい。


「ワーグも一緒か?」

「ああ、一緒だ。二人とも無事だ」


 向こうがざわざわとざわめく。


「待ってろ、すぐに助け出してやる」


 後ろへさがってろと言うのでドンガガたちは後退して彼らの救助を待った。


 カーン、カーン、カーンと二、三度壁を殴ったかと思うとドーンと豪快に石がはじけ飛んできた。穴はがらりと崩れ、ようやくヒト一人が通れるくらいの大きさになった。


 すると穴の向こうから若いドワーフが体をぎゅうぎゅうと押し込むようにして、はい出て姿を現した。


「キーフ!」


 コロンが声を上ずらせる。


「無事で良かった!」とキーフがコロンに抱きつく。二人はどうやら親しい友人らしい。


 その後、両側から丁寧に石を取り外し、崩れないように注意しながら道を広げた。二時間して道は復旧、対面するとドワーフたちは大変驚いた様子だった。


「人間たちが手伝ってくれたんだ」


 コロンがフォローするがドワーフたちの顔は浮かない。


「人間か?」

「ハイ、人間です」


 ドンガガはにっこり笑う。するとドワーフたちがぼそぼそと呟き始める。


「人間は」「人間は……」


「強欲」「強欲……」


「傲慢」「傲慢……」


「排他的」「排他的……」


「弱くて」「弱くて……」


「ちっさい」「ちっさい……」


「身勝手」「身勝手……」


 批判は歌となり、空間に満ちる。


「この人たちはそうじゃない!」


 コロンはその歌をかき消すように両手を広げ否定する。


「落盤で埋もれたオレを冒険の足を止めて助けてくれたんだ!」


 ドワーフたちがざわつく。するとその場にいたドワーフたちの中で一番年配の者が進み出てじっとドンガガたちを見上げた。


「それはまことか」

「彼を助けたのは我々ではありません。サンペリオの方々です」


 交代するように長を紹介した。長は進み出てジェスチャーを交えながら話し出す。それをキャシーが訳していく。


「我々が通りかかった時、落盤が起きて……中から人の声がしました。それがドワーフであろうと人であろうと……関係ありません。たとえもぐらでもいい。助けが必要ならば我々は……喜んで力になります。我々は友好を結ぶために……反対の地を目指したのです。目の前の方々との友好をなくして……大きな友好など……結べるはずがありません」


 年配のドワーフは少し考えた後、手をそっと差し出した。


「非礼を許してほしい。我々の仲間を助けてくれたこと感謝する」


 長はその手をにぎった。


「ついて来て下され」


 言葉少なに伝え、ドワーフたちは穴の奥へと向かっていく。少し行くと坂になり、それから少しすると超巨大空間に出た。

 眼下に広がるは美しい金の都。そびえる黄金のピラミッドとその裾野に広がる金細工で彩られた町、地底世界ともいうべき場所。


「ようこそドワーフの国へ」


 ドワーフたちは誇らしげに笑った。

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