4-3
養豚亭のキッチンに火がともる。野菜を刻む音、フライパンを返す音、スープをぐつぐつと煮込む音がハーモニーを奏でてドンガガたちの食欲をそそる。店のスタッフは全部で二十匹ほどいるだろうか。十匹が料理スタッフ、もう十匹がホールスタッフの割合だ。
しばらくして二家族のフクロウが店にやって来た。母親は一羽は真珠のネックレスを付けてもう一羽は胸元に木の葉のブローチをつけている。父親は一羽はシルクハットをかぶりもう一羽はラフな格好だが羽をキレイに整えている。みんなおしゃれをしてきたようだ。店はドンガガたち一行とフクロウたちで貸し切りとなった。
一家族のフクロウがドンガガと同じテーブルに着いた。父親は実に気さくで、 料理を待っている間にドンガガと木苺の果実酒をくみ交わしながら自身の趣味の魚釣りのことを面白おかしく語ってくれた。
父親によるとこの地下には山の湧水が流れ込む水脈がありいつもそこで魚を釣っているそうだ。今まで釣り上げたもので一番大きなものはプーワワという淡水魚でバターソテーにすると美味とのことだ。
水脈の近くには温泉もあり時々家族で入りに行っているらしい。キャシーは「温泉!」とうれしそうにそれに食いついた。みんな長らくシャワーを浴びていない。臭いが気になっているのはドンガガだけではなかった。
秘書たちとも話し合った結果、少し寄り道して温泉に入っていくことになった。
ウェイターが「お待たせしました」と出来たばかりの温かい料理を運んできた。一番に出てきたのはポルチーニ茸のフィットチーネだった。それを子フクロウはくちばしの周りにソースをつけながらガブガブとむさぼり食っている。
半分ほど食べたところで、「美味しくてほっぺたが落ちそうだあ」と喜んでいる。そこここから「なんて美味しいんだ」とのため息がもれ聞こえた。
続いてクリームコロッケが出てきた。子フクロウは「あつっ、あつっ」と言いながら口をほこほこさせている。ドンガガはそれを見て慎重に口へと運んだ。とろりとした濃厚なコーンクリームが美味しくてドンガガは三つもお代わりしてしまった。
料理は次から次へと出てくる。ラタトゥイユのチーズ焼き、カッパーのリクエストしたキノコのトマトクリーム煮、目玉焼きの乗ったハンバーグ、シーザーサラダにマカロニグラタン、テーブルは食べきれないほどの料理であふれかえりみんなは夢中で頬張った。
テーブルの料理が少しずつ片付き始めたころ、ドンガガ待望の白トリュフのリゾットがやって来た。白トリュフはリゾットの上で宝石のようにきらきらと輝いている。薄くスライスされた白トリュフからはエキゾチックな香りが漂いみんなうっとりとしている。
「待ってました!」
ドンガガは誰よりも早くリゾットを口に放り込んだ。強い白トリュフの香りが口から鼻に抜ける。思考を刺激して体中に感動が押し寄せた。
「なんて美味しいのでしょう!」
続いて子フクロウが羽をばっと広げる。
「これ、はしたない」
母フクロウがたしなめる。
「だってあんまりおいしくてびっくりしちゃった」
「母さん今度これ作ってよ」と父フクロウ。
「こんな、美味しいの出来ません。それにしても何が入ってるのかしらこれ?」
母フクロウが首を傾げているとコック帽をかぶった調理スタッフがやって来た。
「ぜひまた食べにいらして下さい」
調理スタッフがにこにこと笑って話しかけた。母フクロウは少し恥ずかしそうにしてうつむいた。
「料理長のクワンティモです。今日は来ていただきありがとうございます」
穏やかな声で、よく見ると目じりに少しシワがある。どうやら少し年配らしい。
「大変美味しかったです。こんな美味しい料理は地上でも食べたことがありません」
ドンガガはご満悦の表情だ。料理長はぺこりと頭を下げると次のテーブルへと回った。
デザートのバニラアイスを綺麗に平らげ丁寧に礼を言い、店を出た。
その晩、フクロウ一家の厚意で森に泊まることになった。酔って上機嫌のドンガガは木の葉の布団をがばっと被るといびきをかいて豪快に寝た。
地中で過ごした中で一番心地の良い夜だった。
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