3-3

 次第に会場では「あんたは何星だ?」「オレは何星だ」というやり取りがなされるようになった。皆、ずいぶん混乱しているようだ。ケンカしていたもの同士が同じ星数だったり、思っていた数とちがっていたり。


 言いあらそいはおさまらない。サンバの曲はとうに終わり、会場は強盗でも押しよせたかのようにめちゃくちゃ。結婚式どころじゃない。

 するとふと、どこからだろう、誰かがしくしくと泣いている声がする。


 新婦だ。新婦が肩をふるわせ泣いている。新婦には待ちに待った結婚式だった。今度こそうまくいくと思ったのにまたこの結末だ。

 やるせない思いを胸に、張りさけんばかりの声を上げてはげしく泣き始めた。


 会場は一転波を打ったように静まり返り、みんなしょんぼりする。静まり返るなかでドンガガは席を立つ。


「不毛なことだと思いませんか?」


 そう言ってステージの新婦によりそう。


「私はみんなのかけ橋になりたかったの! 種族が違っても仲良く出来るんだって証明したかった! それで、みんなに祝福されてテンセルさんと一緒にいい家庭を作りたかった。たったそれだけ! それだけのことなのにどうしてうまくいかないの!」


「私も同感です。さあ、泣かないでください」


 新婦の肩を抱きながら優しくハンカチーフを差し出した。


「私どもには星がありません。だから皆さんの心情はこれっぽっちも理解しようがありません。しかし、お互いの星の数はそれほど重要なことですか? 先ほどご確認されていた星の数は皆ご一緒でしたか? 違うでしょう。みんなバラバラです。違っていてそれでいい」


 テントウムシたちは静かにこそこそと近辺の者の背中を確認し合っている。


「みな違うからそれが個性になるんです。違うからこそひかれ合うのです。相手の良いところ、自分にはない大切な物を見つけてください。テンセルさんと夫人は見つけ合うことが出来た。だからこそご結婚されるのです。それを祝福することがどうして出来ないのです。我々で祝福しようではありませんか、新しい夫婦の門出を」


 ドンガガは手をふり音楽係に合図を送る。するとすぐさまもう一度サンバが流れ始める。


 テントウムシたちは少し気まずそうにしているがドンガガの「さあさあ、適当にペアを組んでください」という声にうながされて直近の者とペアを組み始めた。一部の者たちは最初背を確認し合っていたが、ドンガガに「背の星の数は関係ありません、そんなもの気にしないで。ただ踊ればいいんです、踊りましょう」と注意されてペアを組む。


 ドンガガとキャシーが中央で踊り始める。テントウムシたちは最初は戸惑っていたが、二人をみて次第に楽しそうにふりふりとリズムをきざみ始めた。やがて陽気なリズムに合わせてサンバを踊り出す。


 テントウムシは元来陽気な生き物だ、それを彼らは忘れていた。パートナーを次々と代えながら赤黒様々な星の数のテントウムシたちが輪となって入り乱れる。踊るにつれて彼らの表情が明るくなっていくのが分かる。


 ドンガガたちは中央をテンセルと新婦にゆずり輪の外から声を送った。テンセルの星は七つ、夫人の星は二つ。


 それに気づいた若者たちが「なんだよあいつら見せつけやがって」とからかっている。


 友人のテントウムシがろうそくをぶつけた老人の前に立った。


「ジイさんすまなかったね、つい調子に乗っちまって」


 そう言って手を差し出す。


「まったくだ、これだから二つ星は……」

「あなた」


 夫人に止められて老人はだまった。そしてはずかしそうに頭をぽりぽりとかいて頭を下げる。


「いや、こちらこそすまなかったな。星の数何て関係ない。我々は同じテントウムシだ。喜びも悲しみも共にしなければならん」


 謝罪の意味を込めて手をにぎる。


「それにしても星の数がいつもと違うというのも悪い気分ではないな。何やら十歳若返ったようだ」

「あははは、確かにそうですね」


 互いの背中を見せあってしきりに笑った後、二人は隣の席に座って酒をくみ交わした。




 結婚式は盛況のうちに終わった。いい式だったと誰もが言った。


 帰りの見送りの列でドンガガは新婦に小さなアメ玉をもらった。それを口の中に放り込むとなつかしいリンゴの味がした。お土産にアブラムシをたくさんもらい、一同はテントウムシたちに見送られながら再びもぐり始める。


 その後、テントウムシたちの世界では星の数を変えるファッションが流行し、互いに七つ星が、二つ星がとののしり合うことは無くなったという。

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