ムシの嫁入り
3-1
地中におだやかにカノンが流れている。気のせいかと思っていたが進むにつれて音楽は大きくなる。ドンガガが曲に合わせて「ら~ら~ららら~」と鼻歌を歌っているとカッパーがマスクを渡してきた。どうやら静かにしろとのことらしい。
肩を落としてマスクをはめて歩いていると穴の向こう側にテントウムシの一団が見えてきた。地中を花でかざり立て、木で組んだ
テントウムシたちはみんな立ち上がり何やら言いあらそっている様子で、よく見ると、背中に黄色の点が二つで黒いものと、黒点が七つで赤いものとに分かれている。
「ほんひちは」
聞こえないらしい。
「ほんひちは!」
「あんた、マスクしていると何も聞こえないよ」
チョウネクタイを付けた年配のテントウムシが呆れた顔で振り返る。
「これはこれは失礼しました」
そう言いながらドンガガはマスクを取る。
「私、真上のリトルフォレスト市で最近まで市長をやっていたドンガガというものです」
「そうかあんたがドンガガさんか! うわさには聞いている」
どんなうわさだろうとドンガガは首をかしげる。
「そうだ! ドンガガさん、あんたのうでで解決してほしいことがあるんだ」
「はて?」
「父さん! やめてよ、人間なんかに相談することかい?」
白いネクタイをした若いかしこそうなテントウムシが困り顔で止めてくる。背には二つ星がある。
「まあ、落ち着きなさいテンセル。ドンガガさんは優れた市長と聞く。我々の小さい頭じゃ解決しないことも、彼なら解決できるかもしれん」
「私どもでお役に立てるのであれば喜んでご協力いたします。事情をお聞かせいただけますか?」
ドンガガはそのテントウムシの家にまねかれた。あまり家が大きくないからとまねかれたのはドンガガと秘書二人だけで残りは教会で待つこととなった。
通された応接間を見て三人は感動する。丸いテーブルに綺麗な刺しゅうの入ったテーブルクロスがかかり、可愛い小さなイスが四つある。夫人が小さなティーカップにカモミールティーを入れて出してくれた。
「これはこれはすみません」とお礼を言って口をつけると香りのいいフレイバーが口の中に広がる。
「先ほどは何のさわぎだったのですか?」
タイミングを見てドンガガが切り出す。
「息子の結婚式をしていたのです。まあ、また中止になってしまったのですけど」
「結婚式が中止に? まあそれはお気の毒です」
「これで六度目だ!」
いらだちを
「父さんたちはどうしていつも対面ばかり気にするんだ! 星の数よりも大事なのはボクたちの気持ちだって言ったじゃないか」
「星の数?」
「いかにも。我々は二つ星、対する相手方は七つ星。元来二つ星と七つ星は関わらないものなのです」
父の古めかしい言い回しにテンセルはため息を吐く。
「くだらない昔からのしきたりです。今じゃカップルになる異種も少なくない。なのにこの地域ではまだそんなことを言う」
「私も式が始まった時はいつも真剣な気持ちになるのです。ですが、いざ始まってみるとやっぱりしきたりから規則、うたげの開き方まで違う。七つ星を見ている間にふつふつと怒りがこみ上げ、気がつくといつもケンカになっているのです」
「うーむ、それは困りましたね。いい手はないものか……」
ドンガガがぶつぶつと独り言を言い始めた。静まり返る中でニッケルが手を挙げる。
「星を書き足して七つ星になるというのはどうですか?」
空気がこおりつく。ドンと父親がテーブルを叩く。
「我々にほこりをすてろとおっしゃるのですか!」
「いえ、別にそういうつもりじゃ……」
「では何と!」
父テントウが激怒したところでドンガガがポンと手をたたく。
「いい案です! そうしましょう!」
「はああ?」
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