ガード不能

「ガー不連携か!」


 思わず声が出た。ミツバはヨツバと二人で行動できる関係で他のキャラには絶対にできないことができる。その一つがこのガー不連携だ。


 高速で動くサツキやカリンの見えない速さのフェイントとは違い、本当にガードすることができない。


 ミツバの中段攻撃とヨツバの下段攻撃を同時に出すことで必ずどちらかの攻撃を当てることができる。格闘ゲームにおいて必ずダメージが与えられる機会を自分から生み出すことができるのは最強と言っても言い過ぎじゃないほど強力だ。


 ただコンボルートや条件、連携のタイミングは相応に難しい。俺も結構練習したが基礎ルートはそれなりに成功するものの、実戦で使うには状況判断が難しく、成功率が低すぎて結局投げ出した連携だ。


 一応ガー不前に小さな隙間があるのでどうしようもないということはないんだが、それは無敵技がある場合だ。ミツバに完全無敵技はない。


 バーストで一度は抜けられるが、次が飛んで来たら文字通りなすすべもなく負けることになる。


 ヨツバの体力の関係で普通のキャラなら理想的な状況からでも最大で六割。普通はそこまでに消耗しているからもっとダメージは低くなる。しかし、ミツバじゃ話は別だ。


 条件は画面端、立ちくらい。下段を中心に組み立てていたのが功を奏してここまで喰らっていなかったのか。ただゲージを使えば強制立ちくらいにできるから画面端でゲージを持たれていると危ない。


 一度あれを見せられたら嫌でも警戒する。ある意味隠しておいてくれて助かった。そうじゃなきゃ一本目もあんなに大胆には攻められなかっただろう。


 ただやはり立ち回りに影響は出る。ラインを上げようとダッシュにいったところに長めの牽制が刺さる。ヨツバを絡めた横押しから画面端。強制立ちくらいの特殊技からガー不連携が始まる。


 ヨツバの体力的には一回しかできないが、体力の少ないミツバ相手なら十分だ。最後は余ったゲージを超必殺技に回して削り切られた。


 正直苦しい展開だ。これで同点。結果は三本目に持ち越された。


「こっちはこれだけで食ってきてんだ。なめんなよ」


 インターバル前、リコリスはそう漏らしてから席を立った。そう考えれば他の部分は甘いところがあるが、とにかく画面端に運んでガー不で体力差をまくるという作戦に徹底している。


 どうしたものか、と首をひねりながら待機席に戻る。とはいえやはり割り込みはできない。


「あれはまた、ミツバには辛い相手ですね」


「今回ばかりは昇竜が欲しくなるな」


 カエデなら昇竜があるからノーゲージで割り込める可能性がある。他のキャラでもだいたいはゲージ技に無敵があるからなんとかする術はないわけじゃない。


「エレメンタルクローバーの発生保障っていつからだ?」


「確か暗転後1フレームですね」


「じゃあ置いとくのは難しいな」


 わずかな隙間に出すにはコマンドもシビアだが、そもそも間に合いそうもない。自分が使っているキャラとはいえ、やはりプレイヤーの個性は色濃く出る。対策は簡単には浮かんでこないな。


「相手のやりたいことははっきりしてますし、立ち回りでは勝ってます。画面端だけちょっと守りにいきましょう」


「守るも何もガー不だぞ」


「立ちくらいしなきゃいいんですよ。普通に戦えば勝てますから。チキガで最悪の展開だけ避けましょう」


 チキガ、か。チキンガード、鶏肉じゃなくて弱虫の意味の方のチキンだ。やり方は簡単でジャンプして空中ガードするだけ。これで中下段の両方をガードできるから、よくわからない連携にビビったときにとりあえずで使われることも多い。


 もちろんわかっている相手には空中投げなんかで対応されるが、リコリスの雰囲気ならすぐにはやってこないだろう。それに空中くらいはたいていダウン。空中投げもバウンドでガー不連携には持っていけない。


 なんとかなりそうだ。できれば先に固めてゲージを守りに使わせ、しゃがみ主体に組み立てていくのも忘れないようにしないとな。


「後、ミツバにも無敵技ありますよ?」


「わかった、わかった」


 俺はキラキラと輝く期待の眼差しを片手で払いのける。俺だって最初に思いついたさ。それでもさすがに何度も飛んでくる連携相手に一撃必殺技だけで対抗するのは無理がある。


「じゃあ、行ってくる」


「はい。いってらっしゃい」


 そう言われながら送り出されるとこっぱずかしいな。初雪が気にしていないせいで、余計に俺だけ空回っているような気がする。


 作戦は頭に入れた。単純な刺し合いやガードの堅さでは勝っている。相手の強さを潰して自分の強さを叩きつける。


 一瞬の隙をつかれてガー不から一ラウンド目を落とす。逆に二ラウンド目は牽制がしっかり噛み合って奪った。


 あっちは目的がはっきりしていて迷いがない。こっちは相手の出方に合わせなきゃいけないから対策が後手後手になっている。


 とはいえ、俺にとってはいつもの展開だ。相手の手に合わせてパンチを選ぶことくらいずっと続けてきたことだ。


 距離を詰められる前にしっかり牽制を置いて接近を止める。ヨツバに上を任せつつ、小技大技を混ぜながら相手に近付かせない。


 本来ならミツバらしくない戦い方だが、同キャラ戦っていうのはこういうものだ。お互いに得意な距離が同じなだけにそれ以外のところをテクニックで補う必要がある。


 やや強引なヨツバの突進をガードさせられる。チキガはしたが、空ガ不可の攻撃で引きずりおろされる。


 画面端。起き上がりに完璧に重ねられるとチキガはできない。他の部分はおろそかなのに、ガー不に絡むとこだけは完璧にやってきやがる。嫌な相手だ。


 重ねの下段をガード。固めから中段を見切って立つ。相手はヨツバを連携の繋ぎに使いたいから崩しや固めにあまり使いたくないらしい。それがわかっていれば暴れる隙間は十分ある。相手の攻撃を吸い込むように投げで後ろに叩きつける。これでまた画面端が遠くなった。


 ヨツバで固めつつ少し距離をとる。いや、ここは畳みかける。せっかくならやってみたいしな。


 守りの甘さを狙って突発の中段。ヨツバで繋いで強制立ちくらいに移行させる。


「お得意の展開、もらうぜ」


 ぶっつけ本番だ。ルートは頭に入っている。タイミングも何度か食らったおかげでなんとかつかんだ。


 ヨツバでミツバを画面端に押しつけながら独特のコンボを入れていく。二度目のジャンプキャンセルからジャンプ攻撃とヨツバの下段を重ねる。


 ややズレたが、素早くガードを切り替えることは難しい。そのまま同じルートを繰り返す。体力バーがぐんぐん赤く染まっていく。なるほど、こりゃ爽快だ。


 二回目のルートは少しヨツバの攻撃を早める。今度はしっかり重なったように見えたが、どうだったか。これを毎回完璧にやりやがるんだから大したもんだ。


 最後は同じように超必殺技で締めてフィニッシュ。半分以上の体力を何もさせずに奪い取った。これがミツバの本当の恐ろしさか。俺のミツバもまだまだだな。

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