天国の子供

ここは天国。寒くも無いし、熱くもありません。食べ物は豊富にあり、ちゃんとした建物に人は住み暮らしていました。人々は皆若く清潔で綺麗で、どこでも監視カメラがあるために悪いことをしません。老人は延命治療で寝たきりで何もせずただ生きているだけです。天国の子供の親はいつもにこにこと「テストで百点を取りなさい」やら「親の言う事は絶対」と言うばかりです。


そんな人々に流行ってるのは清潔なSNS。少しでも汚い言葉を発信すると天国から追い出されます。

もう一度言いますがここは天国です。しかし自ら死を選ぶ子供が後を絶ちません。何やら生きてる感じがしないとか自分を偽るのに疲れたという人が多いのです。


天国の子供は不幸でした。何もかもが既に何かを揃っていて追い求める事をせず、人の顔色ばかりを伺うのです。聞けば死にたいとばかり言うのです。


そんな天国でしたが、そんな所に一人の思想家がいました。思想家は言います。こんな天国なんてクソだ、と。生きることは汚さと同居するものだと。天国の子供にはアイデンティティが無いため、この思想家に付いていきました。天国の子供の親は必死に止めましたが止まりません。


天国の子供の反抗が始まりました。


まずは天国ではあり得ない汚いものに目を向け、そこに美しさを見ました。汚く這いずり回っている動物の生を感じ取りました。天国では禁止されている煙草を吸い、酒も飲みました。


その結果、天国の子供はようやく自分が生きている事に気づきました。


天国の子供はそれでようやく自分が幸せだと気付きました。

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樫木童話集 樫木佐帆 ks @ayam

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