066話 じゅるり、じゅるりと汚したい



(ああ、これ結構安心しますね。長年この姿だったからか、とてもしっくりくると言いますか。……オサム様の視線も気になりませんし)


 獣欲の視線はムズムズドキドキと、恋情の視線はそわそわふわふわ。

 二つ合わさればドックンバックン、だが今の神剣の姿ならば。

 と、ディアが油断しまくりな一方で。


(どうすんだよ、おい。中々元に戻らないぞ?)


 中々、と言っても精々が数秒。

 我慢のきかない男と責めるには、状況がちと酷だ。

 然もあらん。

 愛する女が、恥ずかしいといって無機物の姿に戻ったのだ。

 元に戻らない事態にはならない、とは確信しているが、男心としては焦れる。


「…………ふぅむ、そういえばじっくり見たことは無かったなぁ、綺麗な剣じゃないか、そして実用的だ」


 座して待っていても暇だ、と修はディアと手に取りしげしげと眺める。

 刃渡り一メートルはあるロングソード。

 純白で白銀、飾り気はないが醸し出す雰囲気は神聖そのもの。


(これなら、見られても平気ですっ)


「なるほど、柄の部分に皮とかの滑り止めがないが、これは――便利だなぁ、ディアの肌みたいにしっとりと吸いついて手に馴染むっていうか、握ってて心地よい感じがするな」


(もうオサム様ったら、そんなにペタペタと……いえ、気に入っていただけなら嬉しいですけど、褒められると照れて――――はい? ペタペタ?)


 あれ? とディアは首を傾げた、あくまで内面のイメージであったが。

 何故であろうか、以前剣だった時と違い、妙な感覚がある。

 まるで、体の一部を掴まれているような。


(あぅン、な、何なんですかぁっ!? ヒトの時より敏感に感じますっ!?)


「では、……おお、こっちもまた綺麗だ。肌の色と同じで褐色……いや、黒。……うーん違うな、夜の色? んでもって――結構切れ味良さそうだな、あー、いいなぁ、歴代の勇者はこんな贅沢な武器を使ってたのか」


 持てば重量感はあるのに、羽のように軽く。

 恐らく実際に振るっても、そうそう疲れる事はないだろう。

 切れ味は見れば分かる、かつて自分が使っていた大陸一の鍛冶師が打った剣よりも、体内で共存しているゼファよりも、格段に切れ味がいい。


(ひぅっ!? み、見ないでくださいぃ。何で裸見られてる感覚ぅ……う゛う゛う゛)


(ヤバいなこれ、そこらの金属なんて豆腐と同じレベルて切れるぞ? 対魔王に特化してるだけあって、うん、鞘から抜いただけで半径数キロが浄化されてるわコレ)


 今の修が全力で振るえば、地球上の霊的存在が丸ごと成仏できるだろう。

 何だかんだで修も男だ、伝説の神剣を前に興奮は隠せない。

 その一方でディアは、剣になった意味とは、と羞恥に心を震わせて。

 更にもう一方、リビングの扉の近くでは。


(いやぁ、修くんも男の子ですねぇ。剣とかワクワクするアイテムですよねっ。……所でわたし達は何時までこうしていれば?)


(中に入って……、いえでも、オサムのあんな表情は久しぶりでレアだし、邪魔は――)


(――、ハローハロー。こちらシーダ、聞こえてるわねイア。今、貴女の後ろから呼びかけているわ?)


(何よアネゴ、妾は今…………は? 後ろっ!?)


 バッとイアが振り向けば、見知らぬ女性と見知った仲間が重なって。

 何かを言う暇もなく、彼女の魔法で小夜もろごと拘束され宙に浮かぶ。


(ごめんなさいね、もう少ししたら面白いことが起きると思うの、ちょっとつき合いなさい。勿論、都もよ)


(シーダ、アンタ結構ゴーイングマイウェイ、……いえ、何故だかブーメランな気がするわ)


 そんなやり取りがあったのだが、修とディアは一向に気付かない。

 仕方がないのだ。

 勇者隊随一のミステリアスレディにして、イアも叶わぬ芸達者な魔法の使い手なのがシーダ。

 各種戦闘行為を教えた師の一人であるからして、叶うはずがない。


「ううむ、ちょっと素振りでも……いやいや、何が起こるか分かったものじゃないな、でもなぁ、ちょっとぐらい……」


(お、オサム様っ!? 止めましょうっ!! 今ちょっと加減が出来ないのでっ――ひゃあぁあああんっ!! そ、そんな所を触らないでぇええええっ!?)


 そんな所とはドコなのか、オサムは柄と鞘を持っているだけなのだが。

 ともあれ悩む修に、背後からの声が一つ。


「ねぇ、気付いてるでしょう? 貴男がその剣を触る度に、ピクってしているのを」


「やっぱり? そうじゃないかと思っていたんだ。やっぱり剣になってもコッチの事が分かるのかな?」


「確かめてみればいいじゃない」


(後ろーーっ!? オサム様後ろーーっ!!)


 あまりにも自然なので、割って入った声が何処の誰かも確かめずに受け答え。

 それをニンマリと笑うシーダは、悪魔のような発想を吹き込む。


「確かめるって言ったって、こうして触れても変化はないしなぁ」


「教えたでしょう? あらゆる可能性を否定しない、って。仮定してみなさい、この剣は貴男からの触覚を受け付けている、ともすれば他の五感も」


「…………なるほど?」


「つまりは、――――舐めてみなさいっ!」


「はいアネゴ! へへっ、剣にも感覚があるんだよな!」


(はぁっ!? な、舐めっ!? 何考えてるんですかっ!? 変態なんですかぁっ!? ううっ、オサム様が変態にぃっ!! ひぃ、顔を近づけないでくださいいいいいいいいいっ!?)


 無意識に会話の相手を特定したが、ともあれ気付かない修は、まるで三下のナイフ使いの如く、イヤラシい目つきで、気色悪く舌を伸ばして。


「れろーん、れろれろれろれろれろれろれろーーん!!」


「うわっ、本当にやったわ。この馬鹿弟子」


(ひいぅっ!? そ、そこぉっ!! ひいん、ぁアン、ぁ、~~ぃ、ああン、ふぁ、ひ、あ、あ゛~~~~~~っ!!)


 まず黒い剣身の先端から舌を這わし、そのまま腹を。

 そして鍔を余すところから舐め回すと、今度は握りの部分を甘噛みしながら。

 最後に柄頭をほうばって、口の中全体で味わって。


(やっぱり味がしな………………あれ? 俺何してるの?)


 慌てて口を離すが、ディアは涎まみれだ。

 あまりの惨状に修は。


「――ハァ、ハァ。あ、危なかった、こんな所を見られたら変態扱いされてしまうっ!?」


 残念ながら手遅れである。

 世界を救った勇者でも童貞で、しかし紳士だった筈の修が、ド級の変態だった事が露見したのはともあれ。

 ディアを拭こうと立ち上がった瞬間、ぼわんと煙があがり次の瞬間。


「お、オサム様のヘ、ヘンタイィ…………あうぅ」


 ヒトの姿のディアが。

 それも全裸で、修の唾液まみれで、美しい銀髪が濡れ、首筋や大きな胸にへばりついて、妙にフェティッシュ過ぎる姿で床に。

 何故か全身が上気し褐色肌に朱がさし、息も絶え絶えな。

 まるで、アダルトゲームのイベントCGの様な光景で非常にエロい、エロすぎる。


「ディ、ディアーーっ!? くそっ!? 誰がこんな事をっ!! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」


「お前だよ、この愚弟えええええええええ!!」

「いや、ないわ馬鹿弟子。これはないわよ、真逆、本当に実行するなんて…………」


「うえぇぇいっ!? 誰っ!? へっ!? あ、アネキにアネゴぉっ!? どういう事っ!? というかイアと小夜っ!? ――――もしかして、…………見てた?」


「最初から全部見てたわよ、この破廉恥愚弟がっ!!」


「貴男も成長したわねぇ、私としても一安心…………かしら?」


 頷くシーダと都、宙に浮いて声を封じられているままのイアと小夜であるが、同じく頷いて。

 加えていえば、かなり冷たい目をしている。


「み、見てたんなら言ってくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


「お、おさ、オサム、さま、の、えっちぃ……くしゅん」


 見事な失意体前屈をお披露目しながら、修は慟哭した。

 そんな修を、ディアは恥ずかしそうに睨みながら、弱々しくおっぱいと股間を隠して。

 それから、ディアをシャワーで洗い服を着させ、修がドン凹みから回復するのには、三十分以上かかった事を明記しておく。


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