062話 二章エピローグ・来る者達
修達があれやこれやと決めきれない一夜を過ごしていた一方。
かの男に動きがあった。
大柄の獅子の鬣のような髪型の男、高鳩獅子。
以前、シーヤ達を唆し修とディアにけしかけ、転異、或いは帰還者の寄せ集めを密かに集め、モンスター娘ハーレムを作りだそうとして、結局失敗。
企みが露見し、逃げ出した先で、小夜の実家に寄生していた男は今、北海道のある海岸線に追いつめられていた。
「もう観念したらどうだ、元研究員クン? 残念だが君の望みは叶わない。……な、ママ?」
対峙するは一組の壮年男女。
男はどこか修に似ていて、何故かテンガロンハットに皮のベスト、手には鞭とカウボーイスタイル。
女の方もどこか修に似ている。
何処にでも居るような、買い物帰りの主婦のような格好。
しかしその手には、鎖鎌をひゅんひゅんと回して危険きわまりない。
「そうねパパ、しかもよりにもよって、ウチの修にちょっかいかけるなんて……、アンタ、余程死にたいのねぇ、奇特な方だわ」
目の前の男女、もとい夫婦は異世界関係者の中でも有名な人物。
世界各地に存在する異世界から転移してきたと思しき遺跡、魔法のアイテムなどを無力化する言わば、異能専門のトラブルバスター。
「ふっ、まさか修君のご両親が、かの高名な貴方達だったとは。オレの命運もここまでかな?」
観念したにしては、不敵な口調で軽口を叩く獅子だったが。
その内心では、冷や汗だらだらだった。
口先三寸で小夜の実家を駆け込み寺にしたはいいが、思いの外ガードが堅く。
宝物の一つや二つくすねるどころか、早々に企みを看破され、追われる始末。
なお、彼の企みがバレた大きな原因の一つが、小夜が修に接触した事にあるのだが。
それも彼自身が差し向けた訳であり、つまり自業自得である。
(どうする? どうするオレっ!! アレに、頼るしかないのかっ)
対するは、歴戦のトラブルハンター。
昨年、ネオニューナチスの、あわや第三次世界大戦をおこしかけた騒動。
伝説の聖棺争奪戦を潰したのも、この夫婦だし。
一昨年前に起こった、カルト集団によるムー大陸浮上を阻止したのもこの夫婦だ。
この夫婦の功績を上げるときりがない。
――なお、幸か不幸か子供達の情報こそ出回っていなかったが、ともあれ子離れ出来ない親としても有名である。
(隙、隙の一つでもあれば、コレが使えるのに)
逃げだそうと一歩踏み出しただけで、捕まってしまうだろう。
いくら獅子が筋肉質の大男とはいえ、所詮は研究者で筋肉は見せ筋だ。
(う、動けない。これが世界有数の実力……、気づくべきだった。久瀬の名を聞いたその時! 蛙の子は蛙だったのだっ!!)
悔やむが時は遅し、だが仕方がないのだ。
トラブルハンター久瀬夫妻と、異世界からの帰還者、勇者・久瀬修との繋がりは、かの異世界課ですら掴めなかった事なのだ。
(こうなったら巻き添え覚悟で……いや、ダメだ。懐から出した途端に奪われる未来しか見えないっ!)
獅子が懐に隠し持つは、異世界課の研究室から持ち出した最後の宝物。
封印指定にされた、異世界へのゲートを開く宝珠。
(これだけは……! 準備が整ってから使いたかったが。フン、異世界で一旗あげた方が野望の達成も近いと考えるべき――――チぃっ!!)
「こざかしい!」
「ほう、今のを避けるか」
「ダメじゃないパパ。あんなに隙だらけだったのに外すなんて」
ひゅんと唸る鞭を躱すも、完全に避けられた訳ではない。
その証拠に、トレードマークの白衣はごっそり持って行かれボロ布寸前。
中に着ていたスーツが無事なのは、恐らくこの攻撃がジャブ、或いは牽制だったのだろうと獅子は推察した。
「フフッ、フフフフフフ、フハハハハハハッ!! 良く聞け久瀬夫妻!」
武力では勝てない、逃走も無理、ならばやることは一つ。
小夜を実家ごと騙した口先だけが、頼みの綱である。
「降参という言葉なら幾らでも聞くが、どうだ? 指名手配の兄ちゃんよ」
「あら、パパったら優しいんだからっ、んもう、そんな所も、好・きっ」
「嬉しいなママ、俺も好きだぞママ」
(くそっ、隙がないッ!?)
むちゅー、と口づけしあう夫婦は一見隙だらけに思えるが、異世界課でイヤと言うほど帰還者の戦闘を見てきた獅子には分かる。
一歩踏み出しただけで――、半殺しは確定だろう。
そう確信させる殺気を浴びながら、一縷の希望を託して獅子は口を開く。
「フン、良いのか? そんな態度で。お前達は知っているのか? 自分たちの息子が今、どんな状態にあるか」
「――何だと?」「っ!? ハッタリも大概にしなさい!」
「――う、ぐッ!?」
顔色をコロっと変えた夫妻に、獅子は油断なく続ける。
殺気が一段と強くなったからだ。
「し、知っているか? 貴様等の息子がな、……異世界に、行っていた事を。――おっと動くなよ? 捕まえてから確かめに帰る心算だろう? だがな、それではとっておきの情報が手に入らないぞ」
その言葉に、修の両親は動きを止める。
――と見せかけて、即座に襲いかかる。
だが、獅子にはその一瞬こそが欲しかったのだ。
モンスター娘ハーレムを望む男は、宝珠を取り出し天に掲げ。
その瞬間、一帯の空が黒く染まり巨大な門が出現。
獅子はそこに吸い込まれる様に、浮遊し。
「開けェ! 異世界への門! オレを導くのだフハハハハハハハハ! ――――うん?」
その瞬間、獅子は顔色を変えた。
同じく夫妻も青ざめて、一時退却とばかりに全速力で離れていく。
「ちょっ!? ま、まった!! 久瀬夫妻、オレを置いていかないで――――」
慌てふためくも、時は遅し。
天の扉が開き、何処かの異世界と繋がった瞬間、現れたるは巨体。
九尾の狐に似た、――巨大なキメラ。
まるで、魔王の配下という言葉がしっくりくるような邪悪な化け物。
その化け物は獅子を口でくわえると、魔法のような異能で拘束し、ぺっ、と吐き捨てる。
「――――ふぅ、やっと此方に来れましたか」
響く声は大きく、獅子は鼓膜が破れそうな衝撃に気絶寸前。
それを見た巨体キメラはため息をひとつ、見る見るうちに人間の少女の姿をとると、ビンタで獅子を正気に戻す。
「問いましょうこの世界のヒト、魔王を。魔王カナシを探しています。……協力して、頂けますね?」
「キメラっ娘、キタぁあああああああああああああああああああああああああああ(はい、勿論協力しますとも!)」
モンスター娘ハーレムを望むバカと、魔王の配下が出会った瞬間であった。
□
時を同じくして、とある大学の女子寮の一室。
どこか修の面影がある女子大生、もとい久瀬・都。
修の姉は今、非常に戸惑っていた。
近所のアンティークショップで、綺麗な銀細工の懐中時計を格安て手に入れたまではいい。
帰ってから、その中の文字盤が四つある奇妙な時計だった事に気づいた所も、まだよしとする。
だが――。
「――え、アンタ誰?」
「シーダ666・ゴーストプロトコル、タイプβ。初めまして平行世界の過去の私」
ふと鏡を覗けばあら不思議、自分の姿と重なって。
水色の髪をした、中世ヨーロッパ風のドレスを着たご令嬢が。
しかも、かなりの美人だ。
「え、ええっ!? ちょっと待って、待って、付いていけないんだけどぉっ!?」
「嗚呼、その感じ。修の姉って感じがしますね……、不思議なものね『私』の時には弟なんて居なかったのに」
「ちょっと、何勝手にしんみりしてるのっ!? というか私、どうなってるのよっ!?」
都が慌てふためけば、鏡の中で重なる美少女もまたジタバタと。
手を直にみたらいつもの手。
何がなんだか分からない。
そんな都に、シーダと名乗る美少女は言った。
「ごめんなさいね。この世界は介入しにくくて……波長が合う貴女に、一時的に体を間借りさせて貰ってるわ」
「間借り? え、どういう事よぉっ!?」
「混乱している所悪いけれど、単刀直入に言うわ。――この世界が、滅ぶかもしれない。それを阻止するのよっ! この私達でっ!!」
高らかに叫ぶシーダに、異世界転移前の修と同じく、両親の事も異世界の存在も何一つ知らない都は混乱するしかない。
宿主の混乱を無視して、シーダは更に続けた。
「大丈夫、援軍には心当たりがあるわ。取りあえず、家に戻りなさい。――貴女の弟が、勇者・久瀬修が力になってくれる筈よ」
「へ? 修が勇者? はいいいいいいっ!? あ、ちょっと勝手に体を――――っ!?」
都の制止も聞かず、シーダは財布を捜し当てて行動開始。
そんな訳で今、修の家族が集結しようとしていた――――!
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