050話 巫女服はいいぞぉ!
――――凄いものを、見てしまった。
小夜は赤面しながら、朝食の席に座った。
もっとも、赤面していると思っているのは本人のみで、相変わらずクールな澄まし顔だったのだが。
(うう、二人の顔が見れない…………、どうして平然としてるんですかぁ…………)
あの時、割って入ったエルフの姫も勿論、当人達も淫靡な事をしたとは思えないぐらい、普通に朝食を食べている。
「気にする事はない、日常茶飯事じゃからな」
「――――感謝します(え? 日常茶飯事? まさか毎日あんな事してるんですか!? 夜うっかりトイレに行けないじゃないですかっ!?)」
彼らの監視を続けるならば、無修正アダルトビデオな現場と頻繁に遭遇する事を覚悟しなければならない。
(ああ、月読命よ…………何故わたしをここに…………)
何というブラック、ゲーム脳的に彼のハーレムに入ればいいのだろうかと思うが、当の本人は真っ当で善良な日本人、寧ろ初めての恋人と添い遂げるという思考の、純情な男だ。
「――――あ、美味しい」
「ふふっ、ありがとうございます。小夜さんのご指導のお陰です」
にこやかに礼を言うディアに、こくりと頷いた小夜はご飯を一口。
折角の朝食、あれこれ考えていれば冷めてしまう。
他の者達が和気藹々と会話しながら食す中、古い家で育った小夜は無口に箸を。
(これほど美味しい白米は久しぶりです、ディアさんの成長は本当に凄い。この分だと一流料亭の味に追いつくのではないでしょうか?)
ふわっと炊きあがったご飯、立ち上がる芳醇な香り。
型遅れの炊飯器と、スーパーで特売のお米をつかっているというのに。
(これは、土鍋で炊いたご飯の味です…………、それも高級米を使った…………、噛むとほのかな甘みと共に、口の中で上品な香りが広がります)
だが、ご飯ばかりを食べていては勿体ない。
次は焼いた紅鮭である。
(良く脂の乗った鮭、しょっぱ過ぎず、けれど絶妙な火加減で余計な脂が落ち食べやすい。寝起きの体に丁度良い…………、ザ・日本人って感じですね)
副菜はだし巻き卵。
(ふわふわな触感…………、口の中で溶ける様、そして卵独自の甘さと出汁がほわっと広がり、大根下ろしでさっぱりさわやか…………)
一通り堪能したら、口の内をリセットする為味噌汁へ。
今日の具は、ワカメ、豆腐、油揚げとシンプルな。
豆腐と油揚げで、原材料が被ってるのはご愛敬。
(そういえば味噌汁は任せたんでしたっけ)
ずずっと啜ってみれば、切れ長の眉尻が少し下がる。
(これ、顆粒出汁をつかってませんね。煮干を使った味です。…………美味しい。あったまりますねぇ)
しかし、やはりと言うか驚くべきはディアの成長速度だろう。
一度教えれば間違えない所か、応用までさせる始末。
(…………あれ? 負けてません? わたし、女の子として負けてません?)
「んむ。…………髪の毛? 銀色…………ディアのか」
「入ってましたか? ごめんなさいオサム様」
「いや、そんな事もあるさ」
(――――!? !?!?!?!?!?)
何気ない会話、だが小夜は見てしまった。
ディアが一瞬、口元を歪めた事を。
(それ、絶対偶然じゃないですからっ!? 大丈夫ですかっ!? ディアさん明らかにヤンデレになってませんかっ!?)
このままヤンデレ化が深行すれば、血液まで入れるのではないか。
そんな想像が思い浮かび、小夜は戦慄する他無い。
「――――――――はぁ」
思わず箸が止まる。
だが、それはヤンデレの事では無い。
(どうしましょうか…………はぁ、憂鬱です、大ピンチです…………うう、わたしの馬鹿馬鹿ぁ…………)
それが露見したのは、数日前の王様ゲームが終わったその時だった。
異世界課の八代からのメール、それ自体は良くある事だ。
問題はその内容、即ち。
(ダブルブッキングなんて、小学生の頃以来です。よりにもよって、こんな本拠地から離れた地でやってしまうとは)
実の所、小夜がこの地に出向いたのは複数の理由が重なったからであった。
一つは獅子の言葉。
一つは月読命の。
そしてもう一つは――――。
(秋祭りの準備の手伝いと奉納神楽の依頼、それはいいんですウチの系列の神社ですし)
久瀬家がその神社の近くだというのは、思わぬ幸運だった。
しかし。
(廃ビルの除霊案件、断り忘れるとか…………向こうも手が足りないから依頼して来たのでしょうし)
とはいえかなりギリギリだが、今ならまだ断る事が出来るはずだ。
(断るとお婆ちゃんに怒られる…………、きっと他の人達にも嫌みを…………うう、やるしかありません…………)
古い名家の面子に関わる、という事だ。
もっとも、実際に断った事で彼女は軽く叱責されるだけで済むのだが、神ならぬ身、分かる筈が無い。
(何カ所か回らないといけないとはいえ、ここから近場なのが幸いですけど、一件につき朝までかかるんですよね、期間も少ないから費用も余分にかかるしぃ、ああ、買いたかったゲーム達が遠のくぅ…………)
更に秋祭りの手伝い等が重なるのだ、一人でやるには明らかにオーバーワークである。
誰か手伝ってくれる人員に心当たりが居れば良かったのだが、生憎と小夜はボッチ。
なまじ能力が高い故いつも一人でこなしに、誰かに頼る事という選択肢が思い浮かばない。
(…………なんか変だな小夜さん)
だが、――――ここは久瀬家である。
見知らぬ何処かの誰かの為に戦ってきた、勇者の住む家。
たとえ「伝心」を使っていなくとも、食事中であっても。
悩む人を目の前にして、気付かぬ筈が無い。
「…………小夜さん、何か悩みでもある?」
「!? ――――どうして」
「見れば分かるさ」
珍しく目を丸くして驚いた表情をみせる彼女に、ローズとイアは驚いた。
「当たりか。流石パパよのう…………」
「え、嘘? あった時から殆ど変わらない顔だったじゃない!? ディア、アンタは分かってたの?」
「薄々は、けれどオサム様が何も言わなかったので」
「…………アンタ、何でもかんでもオサムを基準にするの直しなさいな、いい女の秘訣ってヤツよ」
早々に脱線を始める二人は兎も角、修は小夜に促した。
「せっかく同じ家で暮らす仲間なんだ、俺に出来る事なら何でも言ってくれよ」
「――――でも、これはわたしの問題(うう、いいのかな話ちゃって、でもわたしだけでは確かにキツいし…………)」
言葉の裏に迷いを見せる彼女に、修は微笑んだ。
毎度お馴染みアルカイックスマイル、勇者としての経験上、彼女のような手合いに向ける効果的な言葉も添えて。
「言葉にするだけでも、心が軽くなる事もあるんだ。…………俺達、友達じゃないか」
「――――、友(きゃあ、友達! 友達って今言いましたよねっ! そうでした、わたしには友達が出来たんですっ!)」
友達なら、と頷く小夜。
良く言えば素直、悪く言えばチョロイ態度に一抹の不安を感じながら、修は彼女の言葉に耳を傾ける。
「実は、――――ダブルブッキングを」
「ああ、小夜さんは巫女として除霊とか悪魔払いとか請け負ってるんだっけ?」
「実家から回される依頼、そして異世界課からの」
「当代一の巫女じゃったか。その年で大変そうじゃのぅ」
分かってくれますか、という瞳の輝きを読みとったローズは苦笑しながら問いかけた。
「して、ダブルブッキングとは? 事が荒事などなら、ここに居る人材はうってつけじゃぞ? 何せ異世界を救った勇者、その右腕ともいえるエルフの姫、ママという女神だって居るのじゃ、勿論余もそこらの三下に負ける様な雑魚では無い」
「とはいえ書類仕事とかになると、力になれないんだけどな」
戦力としては申し分ない、ともすればこの世界で最強の布陣とも言える。
だが然もあらん、小夜は主に色ボケした姿しか目にしていないのだ、彼女の性質を差し引いても気付かぬのに無理は無い。
「…………全部で五カ所、廃ビルを占拠する悪霊の排除と清めの儀式。そして、秋祭りの準備」
「うん、力になるよ。何時から出発する? 困ってるって事は人手も時間も足りないって事だろう?」
「――――即断、即決(え、いいの? そんなあっさり決めちゃっていいの? かなり大変だよっ!?)」
ポカンとする小夜を置いて、修はディア達に確認を取る。
「小夜さんの手助けするけど、いいよな皆」
「はいはい、アンタならそう言うと思ったわよ」
「それでこそパパ! 伊達に勇者をやっておらぬのぉ!」
「困ってる人を助ける、ヒトして神剣として否と言えましょうかっ!」
満場一致であった。
「――――ありがとう(ううっ、持つべき者は友なのですね月読命様! 得難い友を得ると、そういう事だったのですね!)」
頭を下げた小夜だったが、ふと気付く。
親しき仲には礼儀あり、今回は特に仕事の手伝いだ。
報酬はまず必須だろう。
「その、――――報酬はどうします?(こういう時は頭割りがセオリーという気がしますが、お願いする以上当然修くん達が多めに、しかしこっちで勝手に決めるのは駄目でしょう)」
計算を巡らす小夜であったが、修の答えは予想外だった。
「報酬? 要らないよ。異世界課で貰ってるお金だけで十分暮らせてる訳だし、昨日滞在費貰ってるし」
当たり前の行為だと。
これをあっさり言えるあたり、修の勇者たる資質。
「何? アンタこっち来ても国のお金で生活してるの? ま、傭兵でも冒険者でもないし、こっちでの戦闘訓練がわりにチャラにしてあげる」
「余はプリンを所望する! スーパーの三個百円のやつでいいぞ! パパとママが制限するのでな…………」
無償、あるいは子供のオヤツという他愛ない要求の中、考え込んでいたディアは真剣な顔で要求を告げる。
「一つ、欲しいモノがあります」
「ディア? 欲しいモノがあるなら言ってくれれば…………」
「いえ、良ければでいいんです。古着、もう着ないものでも結構ですので。――――――巫女服を」
その言葉に、全員戦慄した。
攻める気なのだ、このディアという女は。
ごくりと誰かが唾を飲み、少しの間沈黙が訪れ。
そして修は恐る恐る問いかける。
「…………駅前の何でもある量販店で買うのじゃ駄目か?」
「いえ、オサム様はこすぷれというのでしたっけ? そういう似せたものより、本格的な衣服の方が好みでしょう?」
「………………………………そう、か」
知られてるうううう、と修は冷や汗だらだら。
小夜もまた、それを夜のプレイで使うのか、使うんだと妙な汗と気恥ずかしさを覚えながら了承する。
「――――実家に丁度いいのがある、後で…………いえ、直ぐに(確か、着なくなった巫女服で背丈が合いそうなのが…………はっ、わわわわわたしの着た巫女服でみっ、淫らな行為を!?)」
とはいえ、それで済むならと巫女服の空間転移を。
物質の空間転移は、地球産まれには高度な技術。
日本では、小夜クラスの実力者にしか可能な者はいない。
もっとも、小夜本人はその事に無自覚で、専らスーツケース代わりに使用しているのだが。
とにもかくにも、実物を見た女性陣のテンションが上がり、結果的に全員が巫女服を着て。
出発は、それからになるのであった。
□
そして今、修はある種の感動を覚えていた。
目の前の女性は皆麗しくバリエーションに富んで、――――巫女服。
それも、その辺で売ってるコスプレ衣装の様な安物では無い。
本物の巫女装束である。
「――――ふむ、ふむ、…………ふむ。みんな、とても綺麗だ、よく似合っている」
「えへへっ、小夜さんに用意して貰った甲斐がありましたっ」
「どう? 妾も結構似合ってるでしょ。まぁ美人だからね妾は!」
「余の分まであるとは、物持ちが良いのう小夜は…………中々に新鮮じゃ!」
「――――喜んで貰えたなら、わたしも嬉しい(うわーっ、うわーっ、…………うう、こっちの自信がなくなりそうな程綺麗です)」
この光景を目に焼き付けなければいけない、修は堅い決心の下、じっくりと観察する。
(先ずはローズだ、赤い髮と被るしと思ったけど、これはこれで)
むしろ、袴の赤が髮の紅を強調する結果となって、彼女自身の持つ次元皇帝竜としての覇気が、今すぐにでも伝奇小説のキーパーソンになれそうな雰囲気だ。
(イアもまた…………胸が無い分スタンダードな良さがある…………)
金髪とエルフ耳は、和装に不釣り合いかと思えば。
そのギャップが実にそそる。
修の貧困な語彙力で言うならば、漫画のヒロインの様。
(そして…………糞っ! こんな事があるって言うのかっ!?)
修には巫女属性もある、だが正直ディアが一番似合わないと思っていた。
(巫女服の上からでも分かる大きさのおっぱいっ! マーベラスっ!)
袴がコルセットの様に腰を締め付け、そのおっぱいとの差を強調。
(首筋っ!? 小夜は天才かっ、まさかディアをポニーテールにするとはっ!?)
白色の部分と対照的な褐色の首筋は、ポニーテールにする事でよりコントラストを強め、更には魅惑的なうなじを露わに。
(袖から見える腕…………良いよね…………)
服の構造上、袖が普段着より大きく開いており。
細かな仕草でチラチラと、白と褐色が踊る。
思わず、見てしまう他無い。
(だがやはり…………)
白を盛り上げる、たわわに実った果実。
流石にサイズが合わなかったのか、窮屈そうに張って。
その上で、あからさまに胸の谷間が見える。
「…………綺麗だ、とても魅力的だよディア」
「そんな、真っ直ぐに言われてしまうと、少し、照れてしまいます…………」
修はディアの側に寄り、手を取って。
顔は真っ直ぐ彼女を向いているが、その視線は我が儘な谷間へ。
(これが巫女服の効果…………、小夜さんに頼んで正解でした。もっと、もっと熱い視線をくださいオサム様…………)
ディアがまた新たな何かに目覚めようとしている中、戦う気満々のイアが急かす。
「ほら、見つめ合ってないでとっとと行きましょう! 腕が鳴るわ! こっちの世界の悪霊がどの程度か見定めてあげるっ!」
「ああ、ごめんイア。じゃあ小夜さん、手当たり次第に殲滅して最後の清めの儀式を、それでいいね?」
「――――はい、打ち合わせ通りに(修くん達がどれほど戦えるか知りませんが、仮にも異世界を救ったとか)」
彼女の予測では、一つ一つが徹夜覚悟の案件だったが、それが半分になれば御の字というものである。
だが、そんな考えを見透かしてローズがニヤリと笑う。
「甘いな小夜よ、パパ達の力は生半可なものでは無いぞ? それにママもいる、清めの儀式も通常より何倍も早く終わると考えよ」
「――――期待する(えー、まさかそんな…………ローズちゃんがいくら異世界の凄い竜だと言っても、ご両親の事です、話半分くらいには)」
そんな小夜の前で、修はゼファを抜剣し、イアは手元に愛用の杖を呼び出す。
「ローズ、ディア、小夜さん、後ろは任せました。――――行くぞイアっ! 討ち漏らすなよっ」
「アンタこそ、腕は鈍ってないでしょうねっ」
そして――――、蹂躙が始まった。
(悪霊相手なら、気兼ねなく切れるってもんだっ!)
後日取り壊す予定と聞いている、故に修は乱暴に扉を蹴破って突入。
瞬間、「伝心」を使って悪霊の注意を引くと共に、その存在を認識する。
(俺には霊が見えない、だが『伝心』越しならっ)
一度認識出来れば、後は気配が読む事で何とでもなる。
先ずは正面に居た一体に、問答無用で切りかかる。
「いい剣だなお前はっ!」
(聖剣として生まれ変わった身、そこらの幽霊ならば敵ではないぞ主殿っ!)
横凪ぎ一つで消滅、場合によってはイアに対霊用の炎のエンチャントを頼む所だったが、これなら手間が省ける。
修は容赦なく次々と悪霊を切り裂いて。
「ちょっと! 妾の分、残しといてよ!」
「すまんすまん、手応えがあんまり無くてなっ! っと!」
「――――ほう?(あ、あれ? 結構難易度高い案件ですよねこれ?)」
小夜は修の活躍に、うん? と首を傾げる。
熱したバターを切るように、あまりにも簡単に切って消滅させているから錯覚しそうになるが。
彼女の見立てでも事前情報の通り、その一体一体の除霊に数分かかる難物だ。
それは、筆頭巫女と言われる彼女でも、数分かかるという事で。
「――――えぇ…………(確かにわたし一人でもいける案件ですけど、一撃って、念入りに防御の護符仕込んで、家宝の剣鈴使って、それでですよ?)」
異世界から帰還者、移住者と一緒に仕事をした事は多々あれど。
世界の法則の違いなどで、こうも簡単に悪霊を蹴散らす光景などはお目にかかった事は無かった。
「だから言ったじゃろう、ま、説明するとじゃな。あの剣、ゼファの力が半分じゃな。アレはこの地で改めて祝福を受けた剣、ならばこちらの法則に沿った聖剣じゃ」
「もう半分は何です? ローズちゃん」
三人が会話する中、鎧袖一触と言わんばかりに、苦もなく修は悪霊を切り捨てる。
「それはもう、パパ自身の地力じゃな。世界によってある程度差があれど、幽霊亡霊と言った存在を倒すには、先ず認識する事が大事じゃ。その上で、適切な方法を取らねばならん。見てみよ、――――分かる筈じゃ」
ローズの言葉に従い、快進撃を見せる修を観察する小夜とディア。
「…………何か特別な事をしているのですか?」
「――――そういう、事(亡者を倒すには、力だけでは駄目です、相手を思う心、そういうモノも必須なのですが…………)」
それが故に、神に使える巫女、或いは専門職が必要とされる。
「――――勇者の、精神(修くんの心は、或いは巫女のわたし達よりも清くて…………)」
「ああ、そういう事ですか。オサム様が倒した魔王は、こちらで言う悪霊、祟り神に近いものですし。当然、そういった訓練は受けている筈ですから」
「これが、勇者――――(…………あれ? まさか、修くんってウチの婿にぴったり…………いえいえ、いえいえ? 駄目です違いますよわたしっ!?)」
「更に言うならば、ほれ、まるで剣舞の様じゃろ? 聖剣による剣舞、切った側からこのフロアが浄化されてるのじゃ。女神であるママが居る事で倍率ドンっ、ってものじゃ!」
「――――っ!?(わ、わたしの存在意義あるんですかっ!?)」
もはや気楽な観客と化し、とてとてと付いていく三人の一方で、修とイアはある意味二人っきりの世界に入っていた。
階を上がる毎に、悪霊の数、強さは増して、流石に修だけでは対処出来なくなる。
それならば、イアの出番だ。
「久しぶりだなっ、こういうのもっ!」
「ホント久しぶりよね――――――『聖なる炎よ渦を巻けッ』!」
往年の名コンビ復活、そんな形容詞がぴったり来る戦いだった。
壁や天井も縦横無尽に走り回る修は、瞬く間に悪霊達を一所に集め、イアが炎の精霊神の加護を受けた魔法で一層。
身振り手振りも、アイコンタクトによる合図も要らない。
(相変わらず地味で堅実で、つまらない戦い方ねオサム、でも、だからこそ安心して前を任せられるわっ!)
(『炎滅姫』の名は今でも健在か、まったく容赦なく派手に魔法を打ちやがる。でも、だからこそ頼もしいっ!)
二人は、あっと言う間に殲滅しつづける。
それを、三人は。
ディアは見ていた。
(羨ましい…………、私がもし剣のままだったら、あそこの中に、オサム様の隣で戦えたのでしょうか…………)
ちくりと、棘が刺さって抜けない。
もし、もし、或いは。
表面上は笑みを浮かべていても、どろりとした黒い熱が瞳に浮かぶ。
(その場所は、いえ、でも、私が、私だけの――――)
未だ名を知らぬ熱にディアが染まっていく中、戦闘は終了し小夜が浄化の儀式を執り行う。
勿論、ローズの読み通りにそれは直ぐ終わり、一同は次の場所へ。
その移動も、今回は特別とローズが瞬間移動させたものだから。
結果として、小夜一人の場合徹夜を五回繰り返さないといけない事を、休憩を挟み三時間で済ませ。
一同は予定を繰り上げて、近所の神社の秋祭りの準備に当てるのであった。
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