046話 ばぶー



「「「「王様だーれだっ!」」」」


 再び籤が引かれ、ゲームが再開。

 今度の王様は小夜だった。


「わたし、ですか…………(うーし、これで被害は免れましたっ!)」


「では、組み合わせと内容を」


「小夜、変なの引いたら承知しないわよ」「次はどんな事をするのでしょうか?」「頼む、当たらないでくれっ!」


 三人の注目が集まる中、アインに促され小夜が籤を引く。

 そして――――。


「組み合わせ、一番と二番。内容、――――数字の小さい方を甘やかす?」


「うむ、この場合、耐えきれなくなった方の負けじゃな」


 同じ年頃の美少女に甘やかされる、それはとても魅惑的だったが、残念ながら修は三番。


「俺は三番だ」


「なら、さっきと同じ組み合わせですか。宜しくお願いしますイアさん」


「ちょッと! 籤に細工してないでしょうねッ!」


 文句を言うイアに、ローズはさも残念そうに言う。


「余としては、甘やかされるパパが見たかったのだが」


「僕としては、久瀬君がどう甘やかすか興味があったのですが」


「おいっ、お前等っ!? 欲望優先で作っただろ絶対っ!?」


 終わったら落とし前つけてやる、と修は決心しながら事態を見守る。


「~~~~ッたく、やらなければ罰ゲームなんでしょう? ほら金属女、とっとと済ますわよっ! 甘やかしなさいなッ!」


 その直後、ぼんという音と煙にイアが包まれ。

 皆の目に入ってきたのは――――赤ん坊スタイルのイア。


「けほッ、けほッ、何よいきなり…………そこのローズとか言う幼女ッ! 何を仕込ん――――え、何でそんな目で見てるのよ?」


 その光景に、修は鼻を押さえ目を背けて指摘する。


「その、…………な。服を確認してみろ…………」


「はぁ、そんなのさっきと同じ、で、しょ…………う? ~~~~ッ!? 見るなッ!? 見ないでよバカオサムッ!?」


 思わずしゃがみ込むイア、その顔は真っ赤だ。


「ふふっ、本当に赤ちゃんになるんですね」


「――――謝罪する(ご、ごめんなさいイアさんんんんんんっ、まさか、まさかこんな背徳的なっ、ご、業が深すぎますっ!?)」


 然もあらん、イアの格好は本当に赤ん坊だった。

 服はどこかに消え、下半身はオムツ一つ。

 上は涎掛けのみ、彼女のなだらかな大地故に、大事な所が隠れているのがせめてもの情けだろう。


(危なかった、これがディアなら即死だった…………小夜さんでも危なさそ――――いやいや、想像しちゃいけないっ!)


(そうだな、遅かれ早かれ、この分では直に目にする機会も有ろうぞ主殿)


(お前は余分な事しか言わないなゼファっ!?)


 主従が愉快な会話を繰り広げている間もゲームは進行する。


「甘やかすのでしたか、どうすればと思いましたけど赤ん坊みたいにするというのは、とても分かりやすいです」


「くっ、こんなの妾に圧倒的に不利じゃない…………我慢、我慢よ、我慢さえすれば勝てるんだから…………ッ!」


 負ける気など更々無いが、仮に敗北しても衣服は王様である小夜に行くルールだ。

 それに怨敵とも言える少女の甘やかしなど、負けるはずが無い。


「用意は良いか? ――――始めっ!」


「さ、どうするのよ」


「では失礼して、…………ぎゅっと、よしよし」

 

 ディアは気功を使って、軽々とイアを抱き上げた後抱きしめて背中をぽんぽんと。


「アンタ意外と力あるわね…………」


「オサム様に気功を習ったので」


 その答えに、イアは驚きと嫉妬を感じた。

 美貌とスタイルを兼ね備えて、更に才能まで持ち合わせているのか、と。

 彼女がヒトになって一ヶ月余りだと聞いているが、あちらの世界でもそんなに早く修得する者はそう居ない。


(あの時のオサムでさえ、付け焼き刃だったのに…………)


 イアが見る限り、彼女の気功の腕前は修と同等、あるいは上。

 魔法の天才を呼ばれるイアではあるが、それは長寿種故の研鑽の日々が大きい。――――もっと自分が才ある者である事は否定しないが。


(何考えてるか判らんでも無いが…………、犯罪的な絵面だな)


 修は彼女達の光景に、興奮を禁じ得なかった。

 美少女が無理矢理赤ん坊の格好をさせられて、これまた美少女にあやされているのだ。

 奇妙さや、面白おかしいといった感想の前に、耳まで真っ赤にし、悔しそうに恥ずかしがるイアの姿が大変宜しくない。

 ディアの様子は普通なのが、余計に倒錯的にすら感じる。


「…………特殊だなぁ」

「――――特殊な(うわぁ、うわぁ…………ええぇ、実際に生で見るとマジやばいと思いますよこれっ!)」


 同じ言葉を吐き出した二人は、ばっと顔を合わせると右手を差し出した。


「俺たち…………友達になれるかな」

「きっと」


 ここに、奇妙な友情が成立しようとしていた。

 そんな中、イアをゆらゆらさせていたディアに、シーヤが告げる。


「後三分程で打ち切るぞ、長くしてはゲームの進行にはばかるからな」


「――――判りました」


 ディアは思考を巡らせた。

 剣の姿の時に見た、とある親子の姿を真似してみたが効果は見られない。


(イアさんは子供、私の赤ちゃん…………、お母さんが赤ちゃんにする事、甘やかす事…………成る程)


 彼女は思い至ってしまった、――――以前、ローズが修のスマホで遊んでいる時に見つけた画像フォルダの中身。

 彼としては、単に絵柄が好みだったので保存しただけなのだが。


(あの絵では成人男性も、そうされてました。中の文字にバブみ、確か女性が大人を甘やかす行為を言うのだとか)


 その解釈の正否は兎も角、ディアはより効果的な行為を見いだした。


「――――すみませんオサム様、小夜さん。ソファーを使わせて貰えますか?」


「あ、ああ、どうぞ」「了解」


 何をするのか、イアを含めた全員が見守る中、ディアはソファーの端に座り、膝をぽんぽんとしてじゃじゃ馬ツンデレエルフ姫に催促。


「膝枕です、どうぞ」


「はいはい、ご自由に――――ッて、アンタ!? 何してるのよッ!? ~~~~フガフガフガフガッ!?」


「何って、甘やかすんですよね赤ちゃんのように。大丈夫です、オサム様のスマホの画像の様にするだけですから」


 そう言ってディアは、褐色のたわわに実った果実をさらけ出して、その桜色の先端をイアの唇に。

 イアの顔は、同じサイズかそれ以上の母性に包まれて息が。

 同時に、片手を延ばしエルフのお腹や太股を撫で、トントンぽんぽんと指で叩き絶妙な刺激を与える。


「…………女の子に何見せてるんだ勇者?、普段からしてるのかこの変態童貞?」


「ご、誤解だっ、というか何で知ってるっ!?」


「――――失望した(はわわわわっ、この人本物の変態だっ、ヤバイぃ、わたしの貞操ヤバイ!)」


「あー、すまぬパパよ」「ドンマイ、久瀬君」


 小夜と握り有った手は即座に解かれ、凍った視線と共にペシっと叩かれる。

 場の中では、一番イアが文句を言いたい筈だったが、残念なことに彼女はそれどころでは無い。


(ううううううッ! やっぱりオサムは褐色好みなのっ!? 同じエルフでもダークエルフに熱い視線送ってたし! ――――ああ、柔らかくて、気持ちいい…………じゃないッ!? 駄目よ妾! 耐えるのよ妾ッ! あ、いい匂い――――)


 窒息寸前で意識が飛ぶ数歩手前だった事も災いして、余計に顔に当たる大きなおっぱいの感触を堪能してしまう。


 ――――鼻孔を擽る匂いは、母が作ってくれた特性ホットミルクの様だった。


 ――――目に飛び込む褐色は、母なる大地の色をして安心感を与え、そしてきめ細かい肌はずっと埋もれていたい快楽。


 ――――思わず嘗めて甘噛みしてしまった先端は、体液など何一つも出てきてないのに甘い。


 イアは今、彼女の魅力の一つだけで禁断の扉を開こうとしていた。

 認めてしまいそうになる、彼女の様な極上の存在ならばオサムの側に居てもいいと。

 何より、何よりだ。



「……………………ママァ」



 本当に駄目なのは、彼女を母と錯覚しそうになっている事だ。

 この安心感抜群の胸に、心地よい安定感の太股に、ずっと挟まれていたい。


「今、ママって言いましたか?」


「言ッてない、言ッてないッたら!」


 慌てて否定する彼女に、もう一押しだと見たディアは最後の手を使う。


「気持ちいい――――じゃないッ。アンタ、そのバチバチ言ッてる手は何なのよ!」


「これですか? 以前オサム様に一撃貰ったのですが、その時に覚えたのです」


「~~~~ッ!?!?!?!?!?!?!?」


 声にならぬ叫びをイアは上げた、だが他の者の注目は修に集まり誰も気づかない。

 仮にローズが見ていたら止めていて、惨劇は避けられたであろうディアの手。

 修のそれを模した――――雷神掌。

 かつてイア達が必死になって封印を言い渡した、女性特効必殺技。


「暴れちゃ駄目ですよ、今の私はイアちゃんのお母さん。嫌と言っても愛してあげますっ」


「止めッ――――モガッ!?」


 むにょんとイアの顔が褐色巨大おっぱいで押しつぶされ、当のおっぱいは何故か卑猥な感じで歪む。

 そして、電撃は走った。


「――――ッ!?」


「うーん、まだまだ改良が必要ですね、少しも上手く行きません…………」


 だが不幸中の幸いと言うべきか、理由はどうであれイアに走った電流は、結果的に、彼女が安心できる対象だと刻み込んだに過ぎなかった。

 なお、どの様に刻まれたかは、彼女の名誉の為に割愛する。



「――――ァ、ンッ、はァ、ァ――――こ、こうさん、降参よッ! お願いママッ! イア戻れなくなっちゃうううううううううううッ!?」



「おわっ!? 何だどうしたっ!?」


「一番良いシーンを見逃したが、どうやらディアの勝ちの様だな。二回目も負けか、残念だったなエルフの姫よ」


「~~~~っ、こ、これはまさか、ママは修得したというのかっ!? あの禁断の技をっ!?」


 勝敗が下り、イアの衣服が元に戻る。

 そして直ぐに、アインの持つ罰ゲームの箱を奪うと一つ引く。


「――――はいッ、これで終わりッ、終わりだからッ!」


「了解、――――提案です五分休憩を」


「だな、イアがもう少し落ち着いてからだ」


 イアは小夜に靴下を渡すと、潤んだ瞳でママ、ママと呟き熱い視線を送りながら、巫女の後ろに隠れる。


「…………よしよし、よしよし?(うわぁ、子供返りしちゃってませんっ!? うう、なんか可愛いですっ――――いえいえ、わたしにそんな気は毛頭ありませんよっ!?)」


「やさしくするな小夜ママッ! いえ、小夜!」


 小夜もまた、新たな扉を開きかけながら、王様ゲームは続くのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る