045話 勇者は装備を手に入れる――――



「…………俺が王様か」


 籤の結果、修の引いた割り箸には「アンタが王様」と、王冠と共に記載が。

 すると、アインが箱を三つ持ってやってくる。


「王様はこれを順番に引いてください。右から組み合わせ、内容、失敗時の罰ゲームです」


「はぁっ!? 罰ゲームあんのっ!?」


「――――成る程(罰ゲームっ!? ちょっとハードじゃありませんかっ!?)」


 驚く二人とは対照的に、ディアとイアは首を傾げるだけだ。


「よく解りませんが、真剣な勝負という事でしょうか?」


「罰ゲームはともかく、この勝敗はどう付けるのよ?」


「フフ、それは負ければ解る事だ。さぁ勇者、組み合わせと内容の籤を引くがいい」


「王様のメリットは、被害か来ない事と、内容によっては多少の指示が認められる事じゃ、楽しんでくれパパよっ!」


 普通の王様ゲームなら、自分で考えるの内容を籤で引けるのはありがたいが、どこと無く残念でもある。


(いや、考えてないからなっ、変な命令出そうなんて…………)


(ここは、正直になってもいいと思うのだが主殿?)


(人は理性や建前も重要な生物なんだっ!)


 うぐぐ、とゼファに言い返しながら修は籤を引く。


(そうやって格好つけてるから童貞なのでは?)


(うっさいっ!)


 組み合わせは三番と二番、内容は――――。


「――――ポッキーゲーム?」


「ド定番ね。(おお~~っ、それっぽいです!)」


「では三番と二番、ポッチーゲームですね 罰ゲームは敗者が引くので最後にしてください」


 アインの言葉に、修以外の三人が籤を確認。


「私、二番です」「これ…………確か三って意味の単語よね?」


「――――私は一番」


「妾とコイツか、で? ポッチーゲームって何よ?」


 日本人である二人は、女の子二人で、と興奮気味だが、異世界出身二人は内容を知る筈が無い。

 故に、シーヤはニヤニヤしながら説明する。


「この棒状のお菓子をだな、こう口にくわえてだな」


 アシスタント役のアインが、先端を口に。

 そして。


「こうするんだ」


 次の瞬間、シーヤはその反対側をくわえ、互いに食べ進めていく。


「ええっ!?」「はぁっ!? バカじゃないのっ!?」


 そして唇がくっつくそうになった瞬間、アインが忖度して棒を噛み折った。


「こうして、先に折った方の負けじゃ。リタイアの場合は罰ゲームじゃが――――そいやっ! うむ、途中リタイアは認めるが、開始前リタイアは禁止する結界を張ったぞ! なおゲーム終わるまで余も解除出来ないからそのつもりで」


「うん?」「――――は?」


 突然行われた、いともエゲツない行為に修と小夜は固まる。

 これは、大惨事の予感だ。


(ちょいちょいちょおおおおおいっ! え、これ逃げられないのっ!? 危険な命令うやむやに出来ないのっ!? ヤバイヤバイヤバイ、これ罰ゲームによっては地獄になるぞっ!)


(何でしょうか、これ、わたしの知ってる王様ゲームと違――――いえ知ってますっ! エロ漫画的な王様ゲーム強制空間ですっ! …………あれ? という事は参加してるわたし…………あれぇっ!?)


 二人の戦慄を余所に、ディアは純粋な瞳で質問。

 知らないという事は、時に幸せである。


「どちらも折らなかったら、その時の勝敗は?」


「ドロー、引き分けでどちらも罰ゲームじゃ」


「成る程、ドロー狙いで罰ゲーム回避させると同時に、積極的に参加させるって事ね」


 でも、とイアは考えた。

 似たような趣向を、酒の席で仲間がやっていたのは記憶に残っている、確かに初対面の男女の仲を深めるのに有効かもしれないが。


(ゲームの興奮の先に待ってるのって、男女の交わりでは? いえ、それは早計ね。たぶん此方でも男一人と女三人でするものでは無いでしょう。なら――――)


「――――最悪、イアさんとキスですか…………これは負けられませんっ! 私の唇はオサム様のモノですからっ!」


「やっぱり、いかがわしいゲームじゃないのよッ!? オサム、アンタ知ってたわねッ!? 小夜もそうでしょうッ!?」


「いやー。はつみみだなー」「みぎにおなじく」


「見事な棒読みだな勇者よ巫女よっ、ククっ、精々頑張るといい」


「何、気分が出た先に過ちが起こったら、それはそれで解決ですよ久瀬君」


 むふふと笑うアインに、修は叫んだ。

 答えによっては勇者として容赦はしない。


「納得できるかっ!? 小夜さんを巻き込む必要あったのかよっ!?」


「ゲームが終わった後、小夜さん相手にそんな気を起こさなければいい話です。久瀬君なら理性は堅いでしょう? それに、今ならまだ間に合います、――――ここで引きますか小夜さん?」


 その問いかけに、小夜は即答した。


「――――否、仮に久瀬修とそうなったとして、彼の血が我が一族に入るのは好ましい」


「んなっ!?」「ライバルが増えたっ!?」「小夜さんまでっ!?」


 なお、処女を喪うような事態を見越しての、エッチな事に興味津々なお年頃の大冒険的な感覚である事は言うまでもない。


「大丈夫、わたしが勝てば問題ない(きゃー、きゃー、これで王様ゲームした事があるって言えるっ! リア充への道の第一歩よ!)」


 日本筆頭とも言える巫女の本音が、神に使える神聖な巫女のゲーム脳が、果たしてこれで良いのかという疑問は残るが。

 ともあれ、これで本当に同意は得られた。


 ディアに拒否する理由は無く、彼女に対抗心を持つイアが拒否する訳も無く。

 ある意味元凶である修の意志は無視だ。彼が解決できなかったから、こうなっているのだから。


「ではママとイア、これを」


「いきますよイアさんっ!」「負けないわよ、妾の唇だってオサムだけのモノなんだからっ!」


 二人はポッチーの両端をくわえ――――。


「――――ポッチーゲーム開始っ!」


 シーヤの号令と共に、二人は囓り始めた。


「…………ごくっ」「…………ふむ」


 修と小夜が生唾を飲む。

 褐色女神と金髪エルフの美少女が、キスするかもしれないのだ。

 魅入られない訳が無い。


 二人の想像通りに、ポッチーが少しずつ少しずつ短くなっていく。

 ぽりぽり、ぽりぽり。

 そもそもポッチーを食べ慣れていない所為か、時折数センチ単位で短くなる。


(何よこの女…………、長い睫、目を大きくて、悔しいけど可愛いじゃない、それに髪の毛もスッゴい綺麗…………)


(健康的な肌って、イアさんの事を言うんでしょうね…………、赤い瞳がとっても美しいです。)


 共に同性からも憧れられる美貌の持ち主。

 それを至近距離で見てしまい、思わず見とれてしまう。

 だが、それが命取りだった。


「――――あ」


「…………! 私の勝ちですっ! やりましたオサム様っ!」


 イアが強く噛みすぎて、お互いの唇二センチ手前で折れてしまう。


「勝者はディアさんですね、さ、イアさん罰ゲームを引いてください」


「チッ、仕方ないわね…………どれどれ? パンツ? え、どういう事?」


 十年以上、人と共に戦っていた影響か、姫君にあるまじき舌打ちをしながらイアが引いた紙には、パンツの三文字。


「――――説明っ!(まさかまさかまさかっ!? 嫌な予感しかしませんっ!?)」


「パンツ? そんな単語入れた覚えは…………」


「それはアタシだ。なぁに、敗北が一定数を越えた者が出たらゲーム終了というのは味気ないだろう? それに此処には個人の戦闘力が高い者が多い、ならデコピンやらシッペやら、暴力手段は良くないと思ってな」


「ニヤニヤしながら言うなっ!? パンツをどうするんだよっ!?」


 ケッケッケ、と笑いながらシーヤは言い放った。



「負けた者は罰として、――――王に指定の服を献上するのだ」



「はぁあああああああああっ!?」

「成る程、全裸になった人が出たら負けという事ですか」

「何でそんなに冷静なのよッ!? 服を取られるのよっ!?」

「――――!?!?!?!?!?!?」


 普段から全裸気質なディアだけが冷静で、羞恥心のあるイアと小夜は衝撃と困惑の渦へ。


(え、ええっ!? エッチじゃないですかっ!? 破廉恥じゃないですかっ!? これ絶対乱交に、いえ、危ないクスリでテゴメにっ!? この変態勇者の女にされりゃうんですっ!?)


 ある意味これは不幸なすれ違い、計算違いというモノであった。

 普段から修とディアの過激だが、ちっとも関係が進まないスキンシップを見ていた彼らは、ギリギリまでやっても問題ないという認識だったのである。


「気にする事は無い、今回の王はパパじゃが。いつも余やママの下着も洗っているでな、偶にママにパンツを無理矢理穿かせてるし、問題ないじゃろ?」


「問題ありすぎよっ!? そりゃあ、魔王を倒す旅の中で、オサムが洗濯当番だった事もあるし? 一緒に水浴びとかしたけどもっ!? 脱ぎたての下着とか洒落にならないわよっ!?」


「――――だが、それで勇者が意識するとしたら?」


「はいオサム、大事にしてね」


「速攻で渡したっ!? しかも暖かいっ!?」


 日本に来てから買ったのだろう、真新しい純白のパンティを、ささっと脱いでイアは修に渡す。

 温もりが生々しいくて、側に置いたりポケットに一事保管しようと試みたが、結界の効果で握りしめる事しかできない。


「嗅いでもいいが、バレないようにしろよ勇者」「しないっ!」「オサム様、匂いを嗅ぐなら私のを――――」


 ミニスカートをめくるディア制止する修と、なら妾もと、参加しようとするイア。

 混沌として来た場を納めるように、静かな声がはっきりと響いた。



「――――次、行きましょう(ま、負けられませんっ!? くぅ、こんな時に女性用褌を穿いているなんてぇ…………)」



「お、おう。そうだな」

「はい、ごめんなさい」

「ええ、次のゲームに行きましょう」


 ディア以外の三人は、顔を見合わせると同時に頷く。

 何はともあれ、ここは一致団結して乗り越えるべき時だ。

 この王様ゲームはとてつもなく危険で、しかも始まったばかりなのだったから。


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