044話 ゼファ、陰から働くの巻



「じぃぃぃぃぃぃ…………」


「…………うーん、そろそろ寝ないか? 電気消したいんだが」


「駄目です、まだです…………じぃぃぃぃぃ」


(なんだこの視線っ!? いや、可愛いんだけどさ、なんかすっごい可愛いんだけどさぁ!)


 時は夜半、深夜零時前の事である。

 日中に色々あったし、明日は朝食後にイア達が来るので修としては夜更かしはしたくないのだが。


(こういう時に限って、ローズは別の部屋で寝るんだもんなぁ。あー、眠い)


 幼い彼女を出しにして、就寝を促す手が使えない。

 シーヤと会議するから、と修のスマホを借りていった彼女だが、父としては夜更かしが心配である。

 ともあれ。


(寝るときは、相変わらず薄着…………、いや、マシになった方か)


 九月に入り夜の気温が下がり始めたせいか、ディアはほぼ全裸の状態から、スケスケ、ではないベビードールへ。

 隠れたら隠れたでエロティックで股間に悪いのはともあれ、そんな彼女が拗ねながら。

 修の枕を抱きしめ、クンカクンカし悦に入りながら時計を睨んでいるのだ。


(俺に向ける視線は何だ?)


 貰った力である「伝心」に頼りすぎるのはよくない、と修は眠気で鈍る頭のまま暇つぶしにディアの観察を始める。


(…………匂いフェチになってるよね? いや、そんな事ではなくて)


 その碧眼から注がれる眼差しは、なんと言えばいいのだろうか。


(期待…………、それから不満、か? うーん、焦りも?)


 不満の心当たりは山程、日中の出来事以外に無いだろう。

 では期待と焦りは。

 ベッドの上で向き合い、じぃっと見つめる修に、ディアの鼓動が一回高く。


(オサム様が見てます…………、理由は解りませんが、何故でしょうか。ふふっ、心が満たされるようです)


 だが、まだ足りない。

 もっと、もっとと求める内なる声を、ディアは敢えて封殺した。

 それは、まだ先である。


 一方修は、急に微笑みを浮かべたディアに、当然の様に見惚れた。

 こんな可愛い彼女を前に、このまま見ているだけでいいのだろうか。

 衝動に身を任せ、押し倒しても? と欲望は囁くが。

 冷静な部分で、イアの件もあるし泥沼に浸かる可能性が出てくる、とダイヤモンドの理性が押しとどめる。

 だかしかし、一線を越えない何かがあるのではないか。


(例えばそう、枕を渡さないなら、そのむっちりとした太股を枕に――――いや駄目だ、その感触と匂いで色々と死ぬ)


 では。


(お腹を触って…………変態か俺は!? じゃあ胸――――はもっと駄目っ!)


 ではでは。

 眠気の余り、案の定思考が暴走を始めている。


(首筋に顔を埋めて? こないだキスしたし…………いや、そんな嫉妬深い彼氏みたいな事…………)


 実際に、似たような部類である事を、勇者・久瀬修は自覚すべきである。


(髪を梳いて…………、いや、寝る前ってそういう事するのか?)


 うつらうつらとした視線がオデコまで行き、はたと気がつく。


(お休みのキス。…………うん、これなら外国では家族でもするし、恋人夫婦でも問題のない行為だ)


 ならば――――。


「なぁ、ディ」「――――オサム様っ、日付が変わりました!」


 浮かせた腰が直ぐ落ちた。

 日付が変わったからといって、どうかしたのだろうか。

 むふぅ、と胸を張って両手を修に延ばすディア。


「さ、しましょうオサム様っ」


「…………何を?」


 彼女の腕から解放された枕に手を延ばし、元の位置に起きながら修は問いかけた。


「日課です、一日一回。こないだ決めたばっかりです! …………駄目、ですか?」


「しよう。何も問題なんてないっ!」


 即答であった。

 然もあらん、悲しそうに目を伏せて俯く可愛い彼女の願いを、どうして断れようか。

 押して駄目なら引いてみろ、を本能のままに実行するディアの将来は明るい。

 そして、眠気も程良く来ていた修は立ち上がるのも、少しの距離を移動するのを面倒と感じ。


「――――きゃ」


「うん、これでいい」


 気功の神髄を無駄に使って、電気を消すと同時に、ベッドに寝ころびながらディアを腕の中に引き寄せた。


「へ、お、オサム様? え、ぁ――――」


「あー、そうだな。明日になったら、日課をする時間が取れるか解らないからなぁ。」


 ぎゅうぎゅうと、ディアの見事な凹凸やらを鷲掴みに、なだらかな腰と尻のラインを撫で回し。

 おっぱいに顔を埋めながら、オサムは半分夢の中。

 素でこれが出来たら、童貞卒業は目前だが、そうでないから勇者は童貞なのだ。


(せ、積極的ですっ!? オサム様が触ったところ、ジンジンしますぅ…………)


 ほわぁ、と瞳をとろけさせ始めるディアに気づかず。

 修は彼女の頭を己の頭に引き寄せて。


「んんっ~~~~っ!? っ!? ぁ!?」


「ぁ、うん。ディアの唇は柔らかいなぁ…………」


 昼間の出来事で余程気疲れしたのだろうか、修はいつもの様な軽いキスとは違い。

 彼女の唇を弄ぶ様に、舐め。上唇、下唇の順番で甘噛みし、おまけに赤ん坊の様に、褐色の人差し指を吸い始める。


「んっ、ぁ、はぁ、お、オサムさまぁ…………」


「しおあじ…………ふぅ。ん、俺の嫁ならちゃんと覚えとけよぅディアーー。何があっても、俺はお前といっしょだか、ら…………な…………ぐぅ」


「は、はい…………胸に刻みました。はうぅ…………顔、熱いです、体、お腹の下がぞわぞわしますぅ…………オサム様、寝ちゃいました? …………寝ちゃいましたか…………」


 それは、精神的疲労と睡魔のダブルパンチをくらった結果、ぽろりと出てしまった修の欲望、本音、エゴ。そう言うモノだった。

 彼の言葉は、その行為と共にディアの脳髄を侵し、刷り込み。

  

「うう、これが生殺しという事ですか…………、体が火照って寝れません、でも――――」


 これが幸せなのだろうか、と。

 抱きしめられたままディアは、悶々としたまま数時間寝付けずにいたのであった。





 そして、朝である。

 約束通りに朝食後、イアと小夜を連れてシーヤ達が来たのだが――――。


(――――今日も今日で視線が痛いっ!)


 理由は簡単だ。

 皆の前だというのに、うっとりとした表情のディアが修の胸板に顔を埋めているからだ。


「…………起きたときからこうじゃが、パパなんかしたか?」


「いや、何もしてない…………筈だ」


 あろう事か、この童貞は昨晩の記憶は夢うつつ。

 故に首を傾げるしかない。

 だが、それで納得しないのがイアである。


「~~~~ぃ!? わ、妾もっ!」


「お前もかっ!?」


 修の左を陣取るディアに負けじと、イアは彼の右腕を抱き、顔をすりすりと。


「――――最低です(え、マジ幻滅なんですけど? こんなタラシが本当に勇者なんですか? 獅子小父様の言ったとおり危険人物かもしれません…………)」


「駄目ですよ久瀬君、恐らく手を出してないのでしょうが、こんな状況です控えてくださいね?」


「無駄だアイン、童貞に過剰な要求をするでない」


「童貞うっさいわっ! そ、それよりだ。親睦の為にゲームするんだろう? 何持ってきたんだ?」


 無理矢理話題を変えた修に、ディア以外は白い目を向けながら。

 しかして話が進まないから、とそれに乗る。


「…………まぁいい。感謝しろよ、とても良いゲームを持ってきてやった」


「余もチョイスに苦心したのじゃ。――――是非堪能して欲しいぞパパよ」


 ニヤリと笑う二人に、修は悪寒を一つ。


「それで、何をするのですか?(シーヤさんの家には据え置きゲーが幾つもありました。これは昨日アインさんとしたゴールデンなアイでしょうかっ! …………それにしては、荷物が少ないんですよね)」


 そんな小夜の疑問を感じ取ったのか、アインが微笑んで答える。


「ゲームと言っても、テレビゲームじゃありません。腕前で禍根が残ったらいけませんからね」


「では?(はっ、まさかテーブルトーク!? 友達居ないから出来なかったんですよね、楽しみだなぁ)」


「テレビゲームじゃない? ボードゲーム…………でもなさそうだな」


 ツイスターゲームでくんずほぐれず、だったらどうしようと戦慄する修に、ローズはコップに入った四本の割り箸を差し出す。



「――――親睦で、ゲームと言えばこれしかなかろう!!」

 


「名付けて、チキチキ(勇者修にアピール合戦・エッチで際どいな指示もあるよ)王様ゲーム大会っ!」



 その瞬間、久瀬家のリビングルームは困惑に包まれた。


「………………は?」「王様ゲーム? 何それ、昔オサムに聞いたような覚えが…………?」「そのコップとお箸で何をするんです?」


「っ!?!?!?!?!?(それはまさかっ!? あの伝説のリア充がカラオケでお酒を飲みながらするという、あの伝説のっ!?)」


 河原で拾ったエロ漫画で見た事あるっ、と目を輝かせた直後、いやでも破廉恥なのは、と鉄面皮を崩さずぐるぐると思考する小夜。

 安心して欲しい、彼女の邪推通り破廉恥な内容である。

 アインは、上に手が入る程の穴が開いた小箱を、三個取り出す。


「王様になった人はこれを引いて貰います、引いた紙に書いてある内容を実行してもらう、という趣向です。なお、僕とシーヤ様、そしてローズさんの三人はは不参加で。仲介役ですから」 


「…………そんなので、親睦になるの?」


「ええ、この国では初対面でも仲良くなれると、定番と言っても過言では無いゲームです」


「パパ達四人の為に調整しておいた、これをすればお互いの事がよく解るだろう」


「くくっ、頑張れよ勇者。アタシに無様な姿を見せるでないぞ…………くくっ、くくくっ」


「笑いながら言うんじゃねぇよっ!? ――――まったく、しょうがないなぁ」


 といいつつ、修の声は明るい。

 美少女と一緒に王様ゲーム、それは健全な青少年にとって魅惑の囁き。


 仮にディアが見知らぬ男達と王様ゲームをしてくる、と言うのなら全力で止めるし、それ立場が修でも、ディアが居るから、と全力で断る所だが。

 親睦と言うなら仕方ない、彼女達も変な指示を入れないだろう、という事もある。

 ――――なお。「伝心」は空気を呼んで括弧の中身を伝えなかった模様。


「よく解りませんが、ローズちゃん達が用意してくれたのですし」


「この女と一緒にするのは気にくわないけど、参加してあげるわ」


「参加します(ま、まぁ、小さな子も一緒に作ったのなら、エッチな事にはならないでしょう。これも経験、決して王様ゲームをしたかった訳じゃないんですからねっ)」


 四人の同意が得られたので、ローズが王様を決める割り箸を差し出して。


「では、僕の後に声を揃えてどうぞ。――――王様だーーれだっ!」



「「「「王様だーーれだっ!」」」」



 今此処に、チキチキ(勇者修にアピール合戦・エッチで際どいな指示もあるよ)王様ゲームが始まったのであった。


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