032話 いざ尋常に――勝負(下着)



 さて、次の日の事である。

 自分で解らないならば、誰かに聞く。

 出来るなら複数がいい。

 情報の不透明とは敗北に繋がり――――即ち、死である。

 勇者時代に培ったトラウマと対処法により、修は一人で外出を決意。

 Tシャツジーパン、ポケットにスマホと財布を入れ、さあ出発だと玄関に向かおうとして、そうは問屋が許さない。


「ここを通りたければ、私を倒してください――――っ!」


「~~~~~~っ!? 何を読んだ、誰に言われたあああああああああああっ!?」


 修は思わず叫んだ。

 然もあらん、ディアの格好は白レースのスケスケブラとショーツ、エロい事極まり無いというか。

 褐色の肌に軽く食い込む白レースだとか、そもそも衣服の役割を果たして居らず、劣情を誘う意味しかないのでは?

 という姿に、困惑とガン見するしか出来ない。

 修はハァハァ、と荒い息を出し鼻を摘んで上を数秒向いた後、勇者モードに切り替えて聞いた。

 

「…………一つ、拳を握っているのは何だ?」


「ええ、ですから。昨日の夜に一緒に寝ないと言ってから、オサム様は禄に話をしてくれないじゃないですか? こういう時は、拳で話を聞き出すと歴代の勇者様達も」


「糞っ! その考えは否定できないっ!?」


 相手に会話する心算がないなら、武力をもって。

 修は「伝心」が使えるとはいえ、相手に対話の意志が無ければ無駄だ、結果として剣を交える事も少なくなかった。

 今回の件は修に非があるのは明確なので、相手をする事に異論はあるが、仕方がない。

 だが、だが、だがしかし。


「…………二つ目、だ。――――その、その格好はなんでせう?」


「はい? 何かおかしな格好でしたか? 確かここ一番で使用するのが勝負下着ですよね? 店員さんは、オサム様と夜の戦いをする時は、これを来て挑めと…………でも不思議ですね、ほら、ココとかアソコとかパックリ開いちゃうんですよ?」


「――――うぐっ!? ぐはぁっ!?」


 それは勝負違いだ、と言う間も無く行われた行為に、修は先制ダメージを股間という部位に受けた。

 いかに修が歴戦の勇者でも、否、正常な童貞男ならば回避不能、防御不能の大技である。


(お、お、お、お、お、オープンタイプだとおおおおおおおおおおおおお!?)


 説明しよう、説明しなくてはならない、説明させろっ!

 オープンタイプのブラ及びショーツとは、通常とは異なり淡い桜色の突起や貝の口の部分が、丸出し、及び二つに割れている、夜戦特化装備の事であるっ!

 割れているタイプのモノには、紐で結んだり、チャックが付いているタイプもあるが、今回のはそのまま開くタイプであるっ!


 彼女はそれをたおやかな指で、先ず上の右を、そして下を人差し指と中指を使って開いて見せたのだ。


「ぐ、うぁっ、くぅ…………」


「戦ってもいないのに満身創痍じゃのうパパ」


「見てたなら止めろよローズっ」


「いやじゃ、パパの所為であろ?」


「ぐぅ」


 ぐうの音を出した修に、首を傾げるディアであったが、戦意は変わらずにファイティングポーズ。

 修もまた、よろめきながら右掌を前に出して。


「…………ディア、後で調べておけ。勝負下着の意味をっ!」


「すぐ後で教えて貰います――――オサム様にっ!」


「――――ファイっ!」


 ローズのかけ声と共に、戦闘が始まった。

 フィールドは一直線の廊下、一般家庭のそれだ、長さは数メートルしかない。

 勝利条件は、家から修が出ること。


(間にあるのはトイレと階段と風呂場っ、ディアを無力化するしかないっ!)


 一瞬の内に二人はぶつかり合い、拳の応酬。

 遠慮なくグーで殴るディアに対し、修は掌底を使って受け流す。

 経歴だけ判断すると、修の方が有利に見えた。

 ――――だが。


(重いし早いし鋭いっ!)


 先日シーヤと模擬戦をした事で、勘を掴んだのだろうか。

 剣の時に見た、過去の勇者達のそれを形ばかりを真似たにしては芯を捉えた一撃。

 なにより厄介なのは、細腕からでは想像できない程の腕力と、残像すら現れる速度。


「――――っ! どうしたのですオサム様! お話する気になったのですかっ!」


「どうしたパパっ! 防戦一方に見えるぞーー!」


 揺れる巨乳、揺れる臀部、そういったモノをちの涙を流しながら無視して修はディアの動きを観察した。


(足下が足りないのは経験故だ、腕の振りもワンパ、楽に勝てるが――――)


 問題はディアの防御力だ。

 拳を弾けば甲高い音がし、拳のひとつ先にも堅い感触が。

 前夜は気の所為だと流したが、どう見ても気功の神髄に到達している。


(「伝心」よっ! 誰か力を――――え、駄目? 老師!? アレを使えって、皆賛成…………え、女性陣は反対!? どっちなんだよっ!?)


 拡張された「伝心」は、相手と心を繋げる、死した勇者隊の人物を呼び出す、そしてもう一つ。

 ――――経験の憑依。

 素質の関係で魔法等は殆ど意味を為さないが、一時的に仲間の知識、拾得した技、そういったものを使えるようになるのだ。

 条件として、相手の同意が必要なので、今回の様に拒否される事があるのが欠点だ。


「パパ~~、スタミナ切れを狙っても無駄じゃぞ、ママはパパよりタフじゃからな」


「とっ、いうっ、ことっ、ですよっ! オサム様! 観念してくださいっ!」


「ちょっとショックな事実なんですけどっ!?」


 ともあれ、修は気功の達人にして、かつての師匠件仲間の老師の提案を考える。

 ――――修には一つ、仲間から禁止された技があった。

 気功を拾得したての頃、マンガの再現で相手に増幅した生体電流を流す、――――名付けて、雷神掌。

 何故か男性相手だと元気になり、女性相手だと即座に倒れる効果になってしまったが。


(――――使えと言うのかっ!)


 目の前の相手は、気功で防御力を上げている。

 ダメージを与えるなら、家が壊れ、最悪ディアが大怪我する威力の技を使わなければいけない。

 相も変わらず女性陣が猛反対をしていたのが気になったが、相談相手と待ち合わせをしてるのだ、遅れる訳にはいかないのである。


「だらっしゃぁっ――――!」


「な、――――っ!?」


 修はテレフォンパンチを一発、ディアのガードが間に合い、かつ避けれない速度で放ち彼我の距離を最初に戻す。


「おおっ! 反撃かパパっ! ドメスティックバイオレンスかっ!」


「…………っ、今のは手加減しましたね」


「そうだ。――――悪いけど、これで終わりだ」


 その瞬間は、ローズにも、そしてディアにも捉える事が出来なかった。



「――――雷神掌」



 その声が聞こえた瞬間、ディアのお腹に添えられた修の手の平から、気功の混じった特殊過ぎる雷撃が放たれ。


「~~~~~~ぁ。っっっっっっっっっっっっっぁ~~~~~~~~~~!!」


「じゃあ行ってくる。留守番は任せた。――――命に支障は無い、直ぐ治まるから心配はいらないよ」


 そう言って、修は靴を穿いて玄関扉から悠々と出て行った。

 残るは当のディアとローズ。


「はわわわっ!? あわわわわわっ!? パパっ!? パパっ!? な、何という技を~~~~!?」


「~~~~っ!? ~~~~~~ぁ!! ~~~~~~~~~ぁ、あああああああああああああぁンっ!」


 次元皇帝竜たる彼女は、修の技の本質を正確に見抜いていた。

 否、過去を読み、把握せざるえなかった。


「こ、これはっ、ただ単にスタンガンの様に相手を痺れさせるのでは、無い…………っ! だ、大丈夫がママ?」


 返事は無い、然もあらん。

 かの技は、気を電流の様に流して――――「快楽」を与えるモノだからだ。

 決して戦闘用の技ではなく、むしろ房中術の極意にも似た何か。

 触れた箇所から気を使って、相手の快楽を強制的に呼び覚ます。

 しかも只の快楽では無い、深く、長く、そして連続で高みに昇らせてしまうのだ。


(ああああっ! あああああああああっ! わたしっ、負けっ、いやぁっ、何、これっ、知らなっ、知らないいいいいいいいいいぃ――――――ぁ)


 もう一つ付け加えれば、今回はシチュエーションも悪かった。

 圧倒的な実力差による正面からの敗北、その悔しさと未知の夜の感覚が同時に襲うのうだ。

 更に言えば修が手を当てた所は下腹、つまりは――――女の子の大事な所だ。

 正直、色々と高度過ぎる。


「こ、これはパパにも見せられん…………いや、何れは見るのじゃろうか?」


 ローズとしても、目の前の光景は刺激的すぎた。

 勝負過ぎる下着姿の褐色美少女が、汗だくで髪を頬や肌、背中などに張り付かせながら、ビクンビクンと体を跳ねさせ。

 若干白目を向いて、口が半開きの状態で失神寸前。

 …………何かが吹き出しているのは気のせいだろう。


「パパめ…………勇者より性奴隷調教師の方が良かったのでは? ――――せめて敗北と快楽が紐付けされなければよいのじゃが」


 義父と義母の夜の大冒険が、倒錯的でアバンギャルトでパネェ感じにならない事を祈りながら、赤髪の幼女は、処女義母を介抱するため、タオルと水と取りに行った。


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