031話 夜のレッスン(後)



 久瀬家は住宅街の中に存在する。

 つまりそれは、夜になると人通りが少ない事を意味し、更に縁側は塀と木に隠されて。

 ローズはもう就寝している事もあり――――見ているのは欠けた月のみ。


「ね、オサム様…………」


「でぃ、ディア?」


「何処でしょうか…………、ほら、触って、見て、教えて下さい、それとも舐める方がいいですか?」


 止めるべきか、逃げるべきか、それが問題だったが。

 ――――この期を逃しては、いつ教えるのか。

 という理性の訴えと。

 ――――無垢な少女を導かなければ。

 という勇者の意志。

 ――――どう見ても無知に漬け込んでエッチな事する最低男です万歳。

 という本能がせめぎ合い、修を硬直させる。


「ま、待て、待つんだディア。そういう事は日の高い内に――――」


「ふふっ、変なの。もう夜ですよオサム様」


 ディアの誘導により、修の手のひらが夜闇の色と同化しつつあるお腹に。

 大変スベスベなのに、しっとりと吸い付いてきて、とても柔らかくてずっと触れていたい。


「そ、そうだ! こういう事は夫婦や恋人で――――」


「――――それなら問題ありませんね、だって私達、夫婦になるのですから。さ、よく見て触ってくださいオサム様」


(退路がねぇえええええええええええ!?)


 然もあらん、これまでも同じ様な遣り取りで逃げられなかったのに、学ばないから童貞なのだ。

 勇者・久瀬修の無様な内面はさておき、ディアは柔らかく微笑みながら、体を密着させる。

 豊満な胸を押しつけ、耳元で囁くのを自然とするあたり、童貞殺しの称号を得ても不思議ではない。


「なんでっ、耳ぃ!?」


「夜ですし大声だとご近所迷惑ですから、それに、ローズちゃんが寝てますでしょう」


「それは、そうだけど~~~~!?」


 耳に触れる柔らかな唇、距離が近すぎる所為でウィスパーボイスと化した声と共に唾の音がして。

 これを無意識でしてるのだ、ディアという少女は。


「お腹は、どうでしょうか…………」


 手を離させないと、そう思う修だったが、既にディアは誘導を止め、彼自身が撫で回している事に気づいていない。


「~~~~っ。あ、ああ、とても綺麗だ。服装によっては見せる人もいるけど、俺は他の人には見せたくない、かなぁっ」


「お腹は見せない、ですね。では――――」


 ディアは誘導を再開、そのまま真下に行かず腰のラインをなぞる様に後ろへ、それから下へ。

 

「――――お尻、どうでしょうか」


「お、お尻は…………っ!?」


 手が幸せ一杯だった。

 この体制では直接見れない位置だからこそ、感覚が集中してしまう。


「どうやら、他の女の人より大きめみたいなのですけど、オサム様はどう思われますか?」


 ふぅ、という熱の籠もった吐息に、修は下腹が疼くような感覚を覚えた。

 彼女の臀部は、腹部より柔らかく当然の事ながら手の大きさ以上のモノだ。


(でも何でか掴みやすいし、無性に掌の痕を残したいっ! 指が沈むのに押し返されて、なんて心地の良い弾力なんだっ!)


 もし勇者モードに入ってなければ、枕にして寝たいと、本音が飛び出しだであろう。

 それくらい、魅力的な臀部であった。


「ねぇオサム様ぁ。どうです、私のお尻は…………」


「い、言うまでも無いと思うけどぉっ、水着以外では隠すべき、見られたら羞恥心を覚えるべき所だからねぇっ!?」


「はい、ではその様に…………ふふっ、そんなに熱心に撫で回して。気に入りましたか?」


「これっ、これはそのっ~~~~!?」


 悪戯っ気に無自覚に目覚め始めたディアは、修の反応を楽しみながら太股へ。


「どうでしょうか、私の太股。むっちりしていい感触ってローズちゃんが言ってましたけど」


「ぐぁっ――――」


 とにかくもう、吸い付いてキスマークを残したかった。

 だが、理性を総動員して、唇を噛み本能を抑制する。


「ディアの太股はとても綺麗で、ああ、顔を埋めたいよ…………、俺だけの…………い、いや、何でもない」


「嬉しいです。なら、これからは長いスカートで」


「い、いやっ! いつでも見た――――何でもないっ!」


 なるべく短めのを穿きますね、とディアは笑みをこぼし、脹ら脛や足首、足の裏へ。

 そうなると自然と体制が代わり、ディアは縁側に寝転がり、片足を修が持ち上げて、足の裏の臭いを嗅ぐような形へ。


「足の裏はどうなのでしょうか? 普通は見えませんが、そこを重視する人も居ると聞きます」


「舐め――――い、いや、そんなに気にする事じゃないんじゃないかなぁ!?」


 特に足フェチという訳でもないが、気が付けば嘗め回しそうになった自分に気づき、修は戦慄した。

 ディアという女の子の魅力は、新たな性癖すら植え付けるのかもしれない、と。


「舐めますか? ふふっ、私は構いませんよ?」


「~~~~っ!? つ、次に行こう!?」


 ここで止める、という選択が出来なかったあたり、ディアという猛毒が修の体に回っている証拠であった。

 夫となるべき人物が自分の体に今まで以上の興味を覚える様に、本能的に興奮してきたディアは、自然と気功の神髄にまで達し。

 その力でもって、見えざる手で彼の顔を股間に導いた。


「へっ――――!? ~~~~~~~~ええっ!?」


「んンっ、そこで喋るとくすぐったいですオサム様ぁ…………、どう、ですか? そこは女の子の一番大事な部分なんですよね?」


「~~~~っ!?!? ――――!! ――――!!!! ぷはぁっ!」


 一瞬の事ではあったが、ぐにっ、ふにっと、その姿形を顔全体で覚え、匂いを堪能してしまった修は、顔を離した拍子にバランスを崩して。


「やァンっ、もう、オサム様ったら…………ふふっ、今度はそこですか? いつも見てるし、夜は寝てても触ってますよね」


「もがっ!? もがもがもがっ!? もがっ~~~~!?」


 そう、倒れ込んだ先は豊満な胸。

 端から見れば、ディアの又を開き、押し倒して服の上から乳房を貪る性欲の権化である。


(視線がバレてるううううううっ!? というか寝てる時に触ってって、何なんだっ!? 俺そんな事してんのかっ!?)


 疑問を問いただしたいが、体を起こせない。

 服越しに汗ばんだ匂いが脳髄を犯し、臀部以上の柔らかさと弾力を持つ母性の象徴は修の顔のを挟むように受け入れ、その形を柔軟に変える。

 人を駄目にするクッションにも程がある。

 こんなモノを知ってしまえば、勇者とはいえ、一人のケダモノに過ぎない。

 だが――――。



「――――勇者はドこんじょおおおおおおおおおおお!」



 理性がをボロボロになりながら、片方が小玉スイカサイズある小麦色のおっぱいから顔を離す、体を起こす、そして距離を取り。

 ――――もっとも、彼我の距離は十五センチも離れて居なかったが。

 ともあれ、女神の無垢な誘惑に耐える事が出来るのが、勇者なのだ。

 

「も、も、や、止めようか…………」


「んしょ…………、まだおっぱいとか背中とか、色々残ってますけど?」


 息絶え絶えに言う修に、ディアも体を起こす。


(不思議です。もうちょっと、オサム様に触れて欲しい――――)


 その感覚、感情を何と言うのか解らずとも、彼女はその先の行動を選び取った。



「――――えい」



「え、ぁ――――」



 次の瞬間、ディアは修に擦り寄って押し倒した。

 想像すらしていなかった行為に、修は為す術なく倒れ――――。


(綺麗、だ)


 月明かりが、ディアの髪が銀色の髪を縁取る。

 まるで光が差し込む様に修に垂れ下がり、碧の瞳に吸い込まれそう。

 見惚れる修に、ディアは熱に浮かされたまま小さな声で、濡れた吐息と共に。



「もっと、もっと教えてくださいオサム様。…………どうすれば貴方に愛され、愛する事が出来るのか。私は、貴方の色に染まります――――」



「――――それ、は」



 駄目だ、と。

 ディアの言葉に、修は危機感を覚えた。

 理由は漠然として言葉として形にならない、でも本能が告げるのだ、このままでは駄目だと。


 ――――ディアを、欲望のままに汚してはいけない。


 ――――ディアを、思うが儘に染めてはいけない。


 確かに、嫁にと女神が言った、夫婦になって子を為せと。

 だが、今の修にそのつもりも。

 本当に嬉しいのだが、こういう行為はディアの意志で、今の自分の感情すら自覚していない状態に、付け込む様な真似は断じてならない。

 そして――――。




(俺は、ディアに何を求めているんだ? 今のままで暮らしていて本当にいいのか?)




 肩を掴み体を離しそして黙り込んだ修に、ディアは怪訝な顔をする。

 男として、勇者として、童貞として修は決意した。


「何でもってさっき言ってたな。取り敢えず――――今日から寝室別な」


「はいオサム様の、お気に召すまま――――へ? え、あ? オサム様!?」


 困惑するディアを押しのけて修は脱出、無意識にオッパイを掴んで退かしたのはご愛敬。


「さ、もうそろそろシャワー浴びて寝ようか? 今日はリビングで寝るから俺」


「オサム様!? ふえぇ、ええっ!? ええええええええ!?」


 ディアは自分の気持ちが解らない。

 修も自分自身の気持ちが分からない以上、このままではいけない。

 修は断固たる決意で寝室を別に、その夜ディアはローズを抱き枕に浅い眠りに就く事となった。


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