028話 戦闘のち銭湯(上手いこと言ったつもり)



 Q

 衣服を溶かされて、泥だらけになった女の子達の行く先は?


 A

 レッツ・ラ・銭湯!



 そんな訳で戦いが終わった後、修達は銭湯へ向かう事になった。

 勿論、その場で泥を落としてからという訳だったが、当然の様にタオルなど持ってきている訳もなく。

 女の子達は皆、応急処置用の包帯を巻いて。

 ――――何故泥使いは、男であるアインの服まで溶かしたのか、彼の業は恐らく深い。


「オサム様は凄いです、まさか伝心にあんな使い方があったなんて…………」


「お、おう! そ、そうだなぁっ!」


「…………パパも大変じゃのう」


 バンタイプの車の三列目には、久瀬家の住人が。

 右にディア、真ん中に修、左にローズである。

 大事な所だけ隠した包帯姿という際どすぎる姿故に、衣服が無事な修がローズにTシャツを。

 だが、だが何故ディアはズボンを選んだのだろうか。


(はみ出てるっ! なんかお胸の大事な丸の端がはみ出てるからっ!?)


 大きな胸に、窮屈そうに巻かれる包帯。

 負傷者に使った後の余りなので長さに余裕がなく、サラシというレベルでは無く――――。


(包帯の形におっぱいが歪んでいらっしゃるううううううううう! 沈んでるよ!? 包帯が殆どオッパイに沈んでいるよぉおおおおおおお!?)


 モロ出しより、隠した方がむしエロいと言う意見があるが。

 エロいを通り越して卑猥。

 率直に言って、包帯緊迫露出プレイである。


 更に言えば、拭ききれなかった水分が延びきった包帯を透けさせ。

 ディアはそんな事を気にせずに、無邪気に修に密着する。

 ――――トランクス一丁なので、何がとは言わないが大変危険なのである。


「勇者久瀬修よ。…………オマエの力、見せてもらった、貰ったが…………」


「可愛い無垢な彼女に、緊迫露出調教プレイを白昼堂々公衆の面前で実行するとは、お見逸れいたしました。久瀬君は――――勇者です。誰が何と言おうと勇者です」


「その勇者の意味、違いますよね先輩方ぁああああああ!?」


「これ鬼畜彼氏勇者よ、八代の運転の邪魔なので叫ぶでない」


「それにしても流石魔王様、衣服の再生まで可能とは」

 

 アタシのだけだがな、と飄々と抜かすシーヤに修は怒りを禁じ得ない。

 以前の「伝心」で、彼女がありとあらゆる魔法に通じているのは確信している。

 ディアに新たな服を出す事くらい、朝飯前な筈だ。


「…………っていうかローズ? お前なら服とか出せる上に、綺麗に出来るのでは?」


「何を野暮な事を、パパよ。余は銭湯に行ってみたいのじゃ! それに、ママの裸じゃぞ。勇者ならばこの場で胸を揉んでお楽しみの度胸ぐらい欲しいものじゃ」


「――――今後オヤツ抜き」


「ママに貰うもん、――――それに、いくら便利だからって余に頼るのはどうかと思うのじゃが?」


「痛い所を…………」


 オヤツ抜きは数日は敢行する、のはいいとしてローズの言葉は心理だ。

 勇者時代に、それで痛い目にあった事がある。

 だが、しかし、と思う悩む修に、景色に気を取られて中途半端に聞いていたディアが笑顔で、彼の手を誘導した。


「はい、オサム様。おっぱいどうぞ」


「あ、これはご丁寧にありが――――!?!?!?」


「おおー、やるな小娘」「駄目ですよシーヤ様、恋人の睦言を邪魔しては」


 むにゅん、それとも、もにゅん。

 もみもみ、ふにっ、であろうか。

 指の形に沈み込む巨乳に、幸せを禁じ得ない。

 一瞬にして脳が桃色に支配され――――。


(手が、手が吸いついて離れないぃ…………、包帯が良いアクセントぉ…………だ、駄目だっ! 今すぐ止めなければっ!?)


「んっ、オサム様。女の体の扱いも得意なのですか? 触る手が日に日に、何というんでしょうか、この感覚は…………んんっ」


 修の勇者としての素質の一つに、成長性と適応性というものがある。

 まったくの無自覚だが、彼の乳を揉む手腕は、日増しに上達していたのであった。


「ご、ご、ご、ごごごごごごごごごおっごおっごぉ!?(左手だけじゃねぇっ!? 右手も勝手に――――)」


 すくう様に下から、軽く揺らして、「の」の字を描くように指先を。

 率直にいって、攻めすぎるイメージビデオによくあるスタッフの手の動きのそれと同じである。

 然もあらん。

 修は気づかなかったが、勇者時代の修練の中、彼の童貞を哀れに思った仲間が。

 密かに、夜の実践で恥をかかずにヤり遂げる為のメニューを追加していたのだ。


「…………パパも難儀じゃのう」


 せめてもの情けと、ローズは修のパンツの中にファウルカップを出現させ。

 やはり、せめてもの情けとシーヤは防音の魔法をふたりに。

 後は、成り行きに任せたのであった。

 なお、車が目的地に到着する五分後には、ディアの目がトロンとして、肌は上気し。

 修が真っ白に燃え尽きていた事は、語るまでもない。





 その空間はそこそこ広く、多くの鏡が均一に配置され。

 黄色の桶と、木製の小さな椅子が。

 壁面の一つに、その国最大の山の絵。

 スペースの約半分を占めるのは、温度がそれなりに高い水。

 ――――そう、誰がどう見ても銭湯である。


「しっかし、いきなり来て貸し切りに出来るとは…………異世界課、恐るべし」


 かぽーんと桶の落ちる音と、壁を隔てて女性陣のハシャぐ声が聞こえる中、修は一人で体を洗う。


「無心、無心になるんだ俺…………!」


「――――しかし、反則的だなそのボディ。たっぷんたっぷんなのにキュっとして、それでいて崩れている所など何一つ無く…………」


「そうだぞ、ママの体は凄いのじゃ!」


 凄い、凄いのだ。

 だからお願いなので、大声で言わないで欲しい所である。

 主に修の脳裏に焼き付いた姿と感触が、フラッシュバックな意味で。


「んもう、ローズちゃん。ママのおっぱいで遊ばないでください。体が洗えません」


「はーい。で、どうじゃ? シーヤも触れてみよ、天国とは正にこの事じゃぞ?」


「い、いや、アタシは――――きゅう」


「大変、鼻血がっ! 大丈夫ですかシーヤさん!?」「ちょ、触れ、触れないで…………」「女好きなのに苦手とは、パパ並に難儀じゃな魔王よ…………」


 何が起こっているのだろうか。

 壁の向こうを知りたい欲求を、必死に押さえている中、がららと扉を開く音が一つ。

 ぺたぺたという足音は近い距離で、ならば男湯に入ってきた人物は――――。


「――――ああ、遅かったですね先輩。何して…………うん? んんんんんん!?」


「ごめんごめん、ちょっと気になった事があって。残念ながら僕の知識では判別できなかったんだけど…………どうしたの?」


 修は目の前に現れた人物の姿に、首を大いに傾げた。

 背の高さ――――アイン先輩である。

 うっとうしい前髪――――アイン先輩である。

 推定Aカップはありそうな胸――――アイン先輩?

 男にしては括れた腰――――アイン先輩だろうか?

 ぷりっとした尻――――アイン先輩は女の様な体型の様である。

 そして――――、つるっとした股間。


(あ、あれ? 股間…………股間?)


 何も、――――何も無い。

 男性器は勿論の事、所謂一直線の筋というか、有り体な言葉で、女性器に類するモノすらも。


「え、あれ? せ、先輩? アイン先輩は女でいらっしゃる…………とか?」


「――――ああ、この体ですか。…………ふぅ、これで解放されました」


 修の様子を意に介さず、アインは何らかの魔法を解除して、隠していた長髪を表に出す。

 そして隣の椅子に座ると、シャワーを頭から。

 露わになったその顔は、女性にも男性にも見えて。

 塗れた黒髪が肌にくっつき、強調するラインはたおやかな姫君。


「ええっ!? うぇえええええ!?」


「…………ふぅ、気持ちがいい。…………説明がまだでしたね。あ、シャンプー切れてる、そっちの下さい」


「あ、どうぞ」


「僕はシェイプシフターなんです、んしょんしょ、髪が長いと面倒なんですよね、シーヤ様が五月蠅くてきれなくて…………」


 体を洗いながらアインが語った事によると、姿を自在に変化する魔物の末裔で、性別が無い――――というより、両方の性を持ち。

 伴侶の姿に併せて、性別を合わせる事になるとか。


「…………なるほど」


 異世界は神秘に満ちている。

 そう関心する修に、アインは手を打って態とらしく提案した。


「お・か・ら・だ、お流ししましょうか勇者様? 僕、実家で両方に対応出来るように仕込まれたので、結構上手なんですよ? ――――シーヤ様も、堪能してくださればいいのに」


「い、いやっ!? け、結構で――――ちょ、先輩!? や、やめっ――――」


「うわぁ、結構傷だらけですね。これが勇者の体と言うものですか…………」


「先輩!? 先輩――――」


 勇者久瀬修が、新たなる倒錯への危機を迎えている中。

 ディア達は、男湯は賑やかそうですね、と湯船に。

 お風呂タイムは、今しばらく続きそうなのであった。


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