026話 寝苦しい夜は、美少女と一緒に寝たい



 モテない集団が、異世界課にカチこまれて阿鼻叫喚になっていた頃。

 修達は既に就寝していた。

 全員が何故か修の部屋で寝ており、彼のシングルベッドはローズの力でキングサイズ。

 なお、邪魔になった本棚は別の部屋に犠牲になったし、男の一人遊び蒸気機関車ごっこは、その夜の燃料と共に永久に封印されて。


 世の独身男性にとって、羨ましく悲しい事情はさておき。

 今夜の修は目を瞑り横になっているだけで、未だ深い眠りにはついていなかった。

 理由は勿論、お嫁さん(予定)の銀髪褐色巨乳美少女。

 そして、定期的に二人っきりで寝る時間を、と言い出したローズである。


(くそう、子供用ベッドをだして同じ部屋で寝るのはいいが、これって生殺しですよねぇっ!)


「――――ぁン」


 今のディアの格好は当然寝間着、――――但し、スケスケ白レースのベビードール。


(あの店員っ!! 何故こんなのを勧めたっ! ディアもディアだっ! 何故その下は上下無しなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?)


 理由など簡単だ、店員は夜の大運動会様に勧めたし、そもそもディアはまだ下着が苦手だ。

 その上、彼女は抱きついて寝る癖がある、それはつまり、うっかり瞳を開けてしまうと――――。


(ううっ、褐色巨乳を縁取るレースのコントラストぉ…………、横向いて寝てるしくっついてるし生地薄いし、ひゃっほう、どっかのぽっちの感覚が丸わかりでやったぜ! ――――じゃないっ! 静まるんだもう一人の俺! ステイステイ!)


 過去の経験から、夜目が利く様になったのが恨めしい。

 扇状的な光景と感触が丸わかりである。


 そんな悶々とした修と同じく、ディアもまた瞼を閉じているだけであった。

 まだヒトしての経験の浅い彼女には、考える事が色々と。


(勇者様は、オサム様は何故…………)


 魔王と手を取り合う、戦いでもって下すでも無く、話し合いと理解によって。

 それは素晴らしいと思う、だがその反面、心の中でどこかしこりが残っているのは事実。


(魔王は倒すもの、殺すもの、世界にあってはならない存在)


 国が変われば常識が違う、故に世界が変わればその存在の意味だって違うのは当然だ。

 だからといって、全部を受け入れられない。

 ディアは、魔王を倒す為に産み出された存在だからだ。


 腑に落ちないこと、考えなければいけない事はまだある。

 あの魔王シーヤは、伴侶を求めていた。

 彼女だけでは無い、学校の中で感じた視線、生徒達の瞳の行き先。


(オサム様は言ってました。愛や恋とは、その人の側に居たい、その人の力になりたい。その先にあると)


 皆、そう思っていたのだろうか。


(私は、オサム様をどう思っているのでしょうか…………)


 自分の心が分からない、いつか理解できる様になるのだろうか。

 そもそも今、明確にしなければいけない事なのかどうかも。


(難しいです…………でも、夫婦には愛と恋が必要だって皆さん言ってました)


 そして、こうも言っていた。

 ――――曰く、スキンシップが大事だと。


(確か、肉体的接触という意味だった筈です)


 ディアは本能的に、修に体をもっと密着させた。

 修は寝返りを打つふりで逃れようとしたが、悲しいかな、男の性が理性に反してディアの肉体感触を堪能する。

 彼は心の中で叫んだが、当然彼女に伝わることがある訳が無い。


(オサム様をもっと感じれば、何かが分かるでしょうか)


 起きている間なら、何だかんだ理由をつけて逃げようとするが、寝ている間ならば、とこれ幸いとディアはその手を延ばす。


(――――ああ、オサム様。とても堅いです)


(なんか胸を撫でてきたぁあああああああああああ!?)


 起こさぬ様にとフェザータッチで行われた行為は、残念なことに、修にとって気分を高める行為に他ならない。

 くすぐったさと気持ちよさが同居した感覚に、哀れ、ただ耐える他に方法は無し。


(暖かい…………、もっと、もっと触れて…………)


(ディアの手が、移動している――――っ!?)


 一難去ってまた一難。

 彼女の手は、その大きな胸で挟んだ状態の彼の腕の先。

 その手の末端部分、即ち指にたどり着く。

 ディアは彼の指を確かめる様に、一本一本丁寧に輪郭をなぞり。


(んくっ、指ってこんなに――――!? ディアのすべすべでしっとりとした指先の感触が~~~~っ! どこで覚えたこんな事っ!? 無意識か!? 無意識なのかっ!?)


(オサム様、おっきいです。それに堅くて熱い…………これが男の人の…………。ああ、なんだか私も暑くなって来ました)


 もぞもぞとディアは起きあがると、ベビードールを脱ぎ捨て。

 今度は修の手を握り、再び横に。


(これも寝ぼけてか!? 今夜は一段と…………早く、早く熟睡しなければ――――!)


(…………そういえば、味を確かめた事は無かったですね)


 勿論、食べる為では無い。

 だが、ヒトの肌は、修の肌はどんな味と感触がするのだろうか。

 無知故に、ディアはその行為を躊躇なく実行する。


(あむ…………、しょっぱいです? これが肌の味なのでしょうか)


(舐めっ、今っ、指舐められたっ!? 嘘だろおいっ!? 偶然――――じゃない、続いているよおいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?)


(寝ていらっしゃるのですから、あくまで軽く、かるーく、あむあむあむ)


 まるで嬲る様に指先に舌を動かされ、更には甘噛みの。

 その未知でいて既知の様な感覚に、修の背筋が電流が走った様に戦慄く。

 これはとても――――不味い。

 男の尊厳的に、非常に不味い事態である。


(こうなれば、最後の手段だっ!)


 修はガバっと起きあがる。

 所謂一つの戦略的撤退、童貞には荷が重い、重すぎるのだ。


「――――きゃっ、お、オサム様?」


「ああ、起こしちゃったか。ごめんな、ちょっとトイレに…………」


 態とらしく修は目をこすり――――、そして目にしてしまった。


「――――――――ぁ」


「…………オサム様? どうしたのですか?」


 カーテンから漏れる月光、それに照らされる褐色全裸の美体。

 腰まである銀髪が淡く輝き、汗ばんだ体に張り付く。

 うっすらと上気して赤く染まった頬、首筋から胸へ流れる汗が、上乳を流れ頂点で止まり。

 括れた腰から大きな臀部、そして滑り落ちたタオルケットが股間部を隠さず、むっちりとした太股から先だけを。

 暴力的とも言える、艶姿であった。


「綺麗だ――――――――あ、ああ、うんっ、と、トイレだから、気にせず寝ててくれ、起こしてゴメン」


「あ、はい。わかりました…………その、早く戻ってきてくださいね?」


 修の体温が無いと、安心して眠れなくなったディアは本能的にそう口に出し。

 リビングで寝ようとしていた修の逃げ道を、無自覚に塞ぐ。

 自分に憎からぬ感情を抱いてくれる超絶美少女にこう言われて、どこの世界に逃げられる男が居るのであろうか。

 天を仰いで、覚悟を決めた修は本当の本当に最後の手段を取る事に決めた。

 

「………………………………。ちょっと大きい方だから、十分、いや、三十分はかかる。必ず戻るから安心して寝ててくれ。あとクーラーの温度下げてもいいから、寝間着は着るように、お願いします」


「…………? はい、わかりました」


 違和感を感じれど、知識が無い故に確証にまで至らない。

 ディアはきょとんとした表情で頷き、暗闇の中で脱ぎ捨てたベビードールを探す。


(だからぁああああああああああ! ぶるんて! たゆんて! 見えるし! しかもいい匂いがっ!)


 四つん這いの姿のディアは、修の位置からはふりふりと揺れるお尻と、左右にもにゅんと大きな母性が。

 断じて、注視する訳にはいかない。


(俺は勇者! 清廉潔白な勇者! 勇者は女性をイヤラシい目で見ないっ!)


 修は脳裏にその光景を焼き付けながら部屋を出て、足早にトイレへ。

 今の彼にとっては、トイレは聖域。

 某国民的ゲーム的に、勇者から賢者にジョブチェンジする為の神殿。

 だが、勇者・修はまだ知らない。

 服に染み着いた海鮮類に似た臭いに、ディアが気づいた上、夜食を食べました? と一悶着ある事を――――。


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