022話 (ご当地では)最強無敵の僕らの淫魔王
目の前の光景は、果たして夢か幻か。
開けたドアの前で佇む修に、クラスメイトを代表する様に男女の生徒が一組やってくる。
その涙を浮かべて激励する表情は、何故だろうか?
「いいさ、修。俺達とお前の仲じゃねぇか…………、黙って受け取ってくれ、何かと入り用だろうしよ」
「これでディアちゃんとローズちゃんに、美味しいものを食べさせてあげてね…………!」
英司――――男子生徒Aと、弘子、もとい女子Hが差し出したのは、誰かの野球帽。
その中に入っていたのは、数々の小銭と数枚の札。
「いやいやいや、待って? 話が見えないんだけど?」
「ふっ、誤魔化さなくてもいいんだぜ。事情は聞いた。――――嫁さんと子供、お前が守るんだ」
「こんな事くらいしか出来ないけど、困った事があったら何でも言ってね…………! わたし達、応援してるんだから!」
(今まさに、困った事態が起きてるんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?)
ほらよ、と手渡されたものは、恐らくカンパだろう。
但し、何に対してのカンパかさっぱり分からないのだが。
修は下手に受け取るべきでは無い、と即座に判断してペラを回し始める。
いきなり金銭を手渡されるなどは経験済み、勇者ゼミでやった所だ! という具合である。
「ありがとう皆。――――でも、このお金は受け取れない」
なお、当然の如く「伝心」は発動済みである。
そして、アルカイックスマイルを正面から目撃してしまった二人は、雰囲気に飲まれて修が一夏の大ラブロマンスを乗り越えた男と認識してしまう。
「何故って、聞いてもいいか?」
「俺とディア達を想ってくれての事、…………ああ、この重みでとても伝わってくる」
「じゃあ、それなら――――」
言い募ろうとした女子生徒Hに、修は笑いかける。
「――――だからだよ。これは皆の気持ちが込められたお金だ。そんなお金で、俺達だけが幸せになる訳にはいかない」
「修、お前…………」
それは人として、目映い程の正しき姿だった。
愚直とも言える、真っ直ぐな。
AやHだけでは無い、その遣り取りを見守っていたG教諭や他のクラスメイトも、そう感じ取った。
なおディアは、さすオサとローズと共にマイペースに笑っている。
「だから、さ。これは俺達だけじゃない、――――皆で、俺とディアとローズと、それからこのクラスの皆で、一緒に使おう」
ちなみに、この調子で助けた女の子からプレゼントも、その好意に気づかず仲間と分け合った模様。
だからモテないのだ、然もあらん。
ともあれ、面倒事回避の常套手段でもあったのだが、吐いた言葉の裏は、正しく文字通りで嘘偽りは一つも無い。――――それが修を勇者たらしめている素質であろう。
「…………へへっ、何だか今のお前が大きく見えるぜ。負けたよ」
「もうっ、勝ち負けの問題じゃないでしょ英司くん。――――じゃあ皆! このお金は、後日全員で焼き肉でも食べに行くって感じでオッケー?」
「意義なーし!」「勿論、ディアちゃんも参加してよね!」「これなら断らねぇだろ修! 参加しろよー」
そしてクラス中が沸き立った。
巨大ラブロマンスを乗り越えた男はひと味違うぜ、的な空気が流れ、HRのチャイムがなったというのにお祭りムード。
本来注意すべき筈のクラス担任が、涙を流しイイハナシダナー、と感慨に耽っているので手の施しようがない。
(えーっと、丸く収まったのかな? …………しかしこの雰囲気、ディア達を連れて抜け出す空気じゃないな)
女子に囲まれている彼女は、予備の制服着せて終わるまでクラスに居て貰おう、という流れに乗せられてワタワタ。
正直そんなディアは新鮮であり、ずっと眺めていたい気もするが。
(そもそも、何で学校に来たかも話してないしな)
さてはて、どうやって抜け出すか。
そこで、愛する彼女と二人っきりになりたいんだぜベイベーの一言が言えたのなら良かったのだが。
そも修は童貞、思いつきさえ出来やしない。
――――そんな時だった。
「楽しくHR中の所、申し訳ないのだけれど。――――ちょっといいかしら?」
「あ、お邪魔しまーす」
ツカツカと教室に入ってきたのは、金髪ロリツインテールの美少女、そして前髪の長い平凡そうな男子生徒総勢一名。
途端、お祭りムードは消えて、てんやわんやしながらディアとローズを囲む人の壁を作る。
「げぇっ!? 生徒会長と愉快な仲間達(総勢一名)!?」
「隠せ隠せっ!」「ここは私たちに任せて――――」「へっ、お前達だけに良い格好はさせないぜ!」
(ああ、そういえばウチの生徒会長って帰国子女だったっけ? ――――じゃないっ!)
ディアとローズが居る今、生徒会長がクラスまで赴く用事など、明白極まりない。
何とか穏便に済ませなければ、と修が一歩前に出た時、それより先に担任Gが彼女に話しかける。
「あ、あのね、結城さん。これには――――」
「大丈夫です銀河先生、他の先生から事情は聞いていますわ。我が校に転入を考えているそうで、出来ればアタシの方からも、お話したいのだけど」
「という訳で、久瀬君とディアさんとローズちゃん、三人は生徒開室まで着いてきて欲しいんすよ」
「断らないわよね」
(――――そうでしょう? 勇者・久瀬修)
「~~~~っ!?」
(コイツっ! 脳内に直接っ!?)
その瞬間、修は目を見開いた。
現実での言葉と重なるように、もう一つの声が。
修の「伝心」でさえ、絆を深めた仲間でないと出来ない芸当を、この少女は行ったのだ。
しかも、魔法などの異能力を行使する予兆なども感じさせずに、だ。
(ウチの学校に、こんな奴が居たなんて――――)
(ふふっ、勉強不足だな勇者よっ!)
(…………っ!? 何が目的だ)
(そう怖い顔をするな、まぁ、ついてきたら分かるさ)
こうなっては仕方がない、最悪の場合、武力を以て切り抜ける、と。
そう決意し修は、ディアとローズに声をかける。
「ディア、ローズ。生徒会室に移動するぞ。――――先生、いいですね?」
「ええ、わかったわ。こっちは出席にしておくから」
「ご協力感謝しますわ、銀河先生」
「では皆さん、お邪魔しましたーー!」
そして、生徒会の二人と連れだって移動を開始。
その道中――――といっても、数分もかからない間だったが、誰もが無言。
ディアも空気を察して、鋭い視線を金髪ロリ会長に送る。
彼女にも聞こえていたのだ、心の声の遣り取りが。
(ゼファ、聞こえてたな。いざとなれば…………)
(無論だ主殿、存分に使うといい。あの女人からは嫌な気配がする、油断めされるな)
修が体内のゼファを何時でも抜剣出来る準備をした時、生徒会室の到着。――――ゴミ箱の外にバナナの皮が落ちているのが気になったがともあれ。
全員が中に入り扉を閉めた所で、件の生徒会長は言い放った。
「アタシこそが、異世界から来たりし魔王! 此方での名を、結城シーヤ! さぁ勇者よ! 我が嫉妬団の軍門に下るがよいっ!」
「――――はぁっ!? 異世界の魔王っ!? …………ってあれ? え? 嫉妬、団? んんんんんんん!?」
異世界の魔王、そして嫉妬団という予想外なワードに、修は驚愕と混沌に陥った。
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