005話 エロ漫画デートプレイ



「これがニホンの町…………凄い、いったい何で出来ているんでしょうか?」


「こらこら、急にしゃがみ込むな、そして地面に触ろうとするんじゃない」


 夏が故に、時刻は夜に近いと言ってもまだ日は高い。

 二人は今、仲良く手を繋いで近所のスーパーまで歩いていた。


(見るもの全てが珍しいって感じだなぁ。なんか微笑ましい)


 とはいえ、ディアはノーパンノーブラ(絆創膏)の身。

 出発して数分もしないというのに、汗でびっしょり、服が張り付いている始末である。


「くっ、教育に悪いっ!」


「何か言いましたかオサム様?」


「ハハハ、何でもないさ。それよりこの地面はアスファルトと言って、特殊な技術で作られた石畳みたいなもんだ。最近は特に熱いし触ると火傷するかもだから、注意しろよ」


「はいっ!」


 勢いの言い返事と共にぶるんと揺れる胸は、ワンピースの色が白という事もあって、至極暴力的な天国の光景である。

 褐色の巨乳に、汗で張り付き透けた白色がゆっさゆっさ、そろそろ食事時が故に、近所の子供の姿が見えないのが不幸中の幸いである。


「それにしても…………ニホンって平和な所みたいですね…………」


 どこか遠くを見るように出された言葉に、修も同じ表情で先を促した。


「どうして、そう思った?」


「さっき通った公園、とても綺麗に整備されていました。それに色んな家から、明るい声が響いてきます。町の並びだってそう、これは戦いを意識したモノではありません。利便性を追求したような、平和でなければあり得ないような。…………少なくとも、私にはそう見えました」


 修は何も言えなかった、繋いだ手から「伝心」が彼女の思いを伝えてきたからだ。


(これは、安堵と羨望と――――不安、かな?)


 ディアはすれ違う人々、犬を散歩させている老人や足早に帰宅するサラリーマンなどに目を向け、ああ、と深い溜息を漏らした。


 彼女は剣だった、敵を倒す武器だった。

 その多くを殺伐とした戦場で、襲われている村や町で。

 人々を救う勇者の剣であるが故に、悲劇を多く見て。


(俺は、ディアに出来る事があるんだろうか)


 女神に宜しくと言われたから、それもある。

 そして彼女が帰る方法が解らない以上、この現代日本で暮らす事となる。


 だが、だが、だが。

 神剣と役目はもう無く、剣にも戻れず、――――彼女には何もない。

 何も、何も無いのだ。


 やがて足を止め、にこやかに笑い合う子供達の姿を、憂いと静謐を携えた瞳で見つめる彼女に、修という人間は何が出来るのだろうか。


「――――はっ!? 思わず見とれちゃいました。ごめんなさいオサム様、さぁ行きましょう」


「そうだな、…………ほら、目的地はそこだ」


 修の指さす先には、この地域では唯一のスーパー。

 大型店と比べれば品ぞろえは一段劣るが、日々の細々とした買い物なら十分だ。


「何が食べたい? リクエストは…………って、こっちの料理は解らないか。後日ゆっくり回るとして、今日は弁当コーナーだけだぞ」


「お弁当…………、この世界のお弁当ってどんなのでしょうか。私、食べるのも初めてなので楽しみですっ!」


 ディアは早く早くと、修の手を引き――――そこで気づいた。


(俺にも、出来ることがあったぁああああああああああああああああああああああああ!?)


 やらねば、やらなければならない。

 これだけは、遂行せねばならない。

 何せ――――、透けているのだ、張り付いているのだ、その両手で鷲掴みしたい尻が。

 そして、ずれているのが判るのだ、胸の絆創膏が。


(し、しまった!? 何で気づかなかったんだっ!?)


 ディアはヒトの姿になるのは初めてだと言っていた、そして今までの言動から、人の体や感情については無垢で無知だという事が判明している。

 無論、そこは罪ではない、ないが――――。


(うあぁ、すっごく汗かいてるぅ…………)


 汗っかきという訳では多分無いだろう、恐らく、急激な気温差に体がついて行っていないのだ。

 慌てて彼女の体を気で調べると、脱水症状には至っていない事が判った。

 ならば次だ、帽子で顔は隠れているものの、その銀髪やスタイルが隠されている訳ではない。


(何時まで日本に居る解らないが、とにかく女の子に恥をかかせるわけいかないっ!)


 幸か不幸か、二人に注目が集まっている訳では無いが、小さな女の子が無邪気に、お姉ちゃんキレー、と呟いていて、今にも駆け寄ってきそうだ。


 修は即座に判断した、悠長に自分で解決策を考えている暇は無い。

 ならば――――いつもの手。

 仲間の力に「伝心」に、頼らざるを得ない――――!


(どうすれば良い、皆ああああああああああっ!)


 ウキウキ顔で弁当を選ぶディアの相手をしながら、思考の半分を「伝心」に割く。

 そして。


 ――――気功じゃ、今こそ気功の神髄に手を届かせる時が来たのじゃ! これを覚えれば夜の店でバカウケ――――


 ありがとうございます老師! と仲間の一人で、気功の師匠でもあった通称・老師に感謝の意を送り、早速行動開始。

 誰かを護るという点において、勇者久瀬修の右に出る者はいない。

 最終決戦の時でさえ、成し得なかった気功の神髄。


(今ここで、至ってみせるぜえええええええええええええええええええええええ!)


 その瞬間、修の視界がモノクロに染まり、周囲がスローモーに。

 未熟故に、立つ以外の物理的行動が取れなくなるが、気を練るには十分だ。


 護る、何も知らない美少女の尊厳を。

 これは事態を予見出来なかった修の罪なのだ。

 罪は、贖うべきなのだ、勇者として、男として、童貞として――――!


(間違っていた、体内からコントロールして肌を覆うのでは足りなかった)


 更にその上、衣服までカバーしてこそ紳士、勇者の為すことだ。

 修は自らの気を、ディアの気と同調する。

 今度は混ぜるのではない、お互いに循環させ、一つの生き物の様にするのだ。


(嗚呼、今なら解る――――人間とは一人では生きていけない、高みにも同じ…………)


 二つの体から放たれた気は、混じり合い同一になり、――――共振を開始する。


(掴んだ、これこそが神髄、これこそが気功の最終段階――――物質化)


 ディアの胸の周りと、臀部や股間が白い布状となった気で覆われる。

 その時であった。

 最奥まで行き着いた気功の、新たなる側面を発見したのは。

 同時に、思考加速が限界時間を迎え、世界に色彩が戻る。


「バカ、な…………」


「何がですかオサム様? この赤い奴が付いたお弁当? この透明な素材はいったい…………。ニホンって凄いんですねぇ」


 日本が凄いというより、文明レベルで異世界より発達しているだけなのだが。

 そんな事を説明している余裕はない。


「それはな、値段が半額になる印だ(うおおおおおおおお柔らあったけぇえええええええ、しかもつるつるすべすべだとおおおおおおおおおお)」


「それはお得です! 歴代の勇者様も言ってました、働かざる者食うべからず、私はこのノリーベン? にします」


「うんまぁ、それなら俺もこの半額のカツ丼にするか(聞いてねぇぞ糞爺いいいいいいいい! 物質化したら感触が伝わってくるとかかああああああ! 幸せ辛いいいいいいいいいい! 汚してはいけないんだよこの子はあああああああああ!)」


 元よりその神髄は、気功を内側だけでなく外にも向けられる様に求められたもの。

 気功という技術自体が、身体能力の拡張が本質であるからして、感触も付随しているのは当然といった所だ。

 しかし、そんな事を知らぬ修は、老師に恨みをぶつけ、ファッキンガッデスゴッデスと訳の解らぬ悪態をつく。


「じゃあ、会計しようか」


「はいっ!」


 だが、修はあくまでその葛藤と苛立ちを表に出さなかった。

 自分さえ我慢すれば、後は丸く収まるのだ。

 その心境は、本能的に勇者十年の経験を思い出させ、見るもの全てに頼りがいがある、と認識するようなアルカイックスマイスを作り出した。


 そしてそれを、陰から見ていた者が一人。

 名前は英司――――否、A(仮)

 修のクラスメイトである(但し、主観的には忘れ去ったほぼ赤の他人ではあったが)


「――――そうか、奴は…………『卒業』しちまったんだな」


 クラスのモテない男子が集まって結成した、童貞同盟。

 その構成員が、性別・女を連れていたら尋問。

 それが美少女、絶世の美少女ともなれば拷問打ち首。

 だが、だが彼は、密告しようとしたスマホのSNS画面を消した。


(へへっ、良い顔してやがるぜ。今のお前なら許せる、その見知らぬ外国人美少女とお幸せにな…………)


 つまるところ、十年かけて培われた勇者スマイルは、現代日本においても効果は抜群で。

 ふと彼が見渡せば、男女問わず初々しいカップル(修とディア)を、暖かな目で見守っていた。


「よーし、俺もアイツみたいないい男を目指すかっ!」


 そんな決意の声に気づかず、修は無事にディアと共に家への帰還を果たしたのだった。


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