004話 なお、全裸である。



 体内のエネルギーを操り、様々な効果をもたらす気功。

 それはかの地では悲しいかな魔法の下位互換ではあったが、事、今現在に至っては合法的にラッキー? スケベを可能とした、たった一つの冴えた手段と化していた。


 状況がどうであれ、初めての経験にわくわくを隠しきれないディアに、修は手の震えを必死に隠して気を練り上げる。


「ところでディア、魔法や気功は自分で使えないのか?」


 使えるならば、非常に残念だが口で教えるだけで済むかもしれない。

 そんな淡くて濃い期待に、全裸の褐色美少女は眉を八の字に。


「もともと女神様から神気というのを与えられてはいたんです。でもそれはあくまで『伝心』に使うエネルギーの様なモノで…………」


「成る程、使えないと」


「はい、この体になった事で、魔力らしき何かは感じられるのですが、剣の時は使う機会が無かったもので」


 魔法と気功の違いは、呪文を使って外に放出するか、感覚的なコントロールにより内側に効果を発揮するかの違いでしかない。

 魔力と名がついているものの、体内エネルギーである事に違いは無く。

 魔法という名も、魔王を筆頭とした魔族等が使っていた技術を再現した故に、そうした名称を使っているに過ぎないからだ。


 体内の気を特殊な呼吸法で増幅させ、両手に集中した修は、ごくりと唾を飲む。

 ――――準備は完了した。


「それは仕方ないさ、――――さあ、始めようか」


「お願いしますオサム様!」


 ぐっと握り拳をして気合いを入れるディア、もう何度目か解らない乳揺れに、正直目のやり場に苦しむし、再び鼻の奥がツンとしてくるので、嬉し勘弁である。


「じゃあ行くぞ、先ずは髪からだ」


 長い銀髪の先に触れ、髪自体には例の無色の刃が出ない事を確認。


(肌に直接触れないと、発動しないのか?)


 絹糸の様な滑らかさと艶やかさを持ちうるそれを、つつーっと辿り頭へ。

 すると、カチン、カチンと硬い刃で切られている様な感触。


(多分、慣れれば、威力や射程を自在に操れるタイプだ)


 しかし、今のままでは無差別に傷つける凶器でしかない。

 全裸の姿、――――その褐色が本来の刃と等しい仮定して、触れると無色の刃が出るのは、鞘の防衛本能という事だろう。


「そういえば聞いたことがある、神剣は女神に認められた者以外には、触れる事すら出来ないと。――――人になった事で、その辺りが上手く機能してないんじゃないかな?」


 修は彼女の頭に気を流し込み、彼女自身の体内エネルギーと同調。

 色の違う絵の具を、混ぜきらない様なイメージで染み渡らせる。


「んっ、ぁ、は、はいっ――――ああんっ!」


「ど、どうかしたかディア? 何処か痛かったか?」


「んぁっ、はぁん…………い、いえ、その、何だか、とても熱くて優しい感じで、頭の奥がむず痒いって言うんでしょうか…………?」


 やけに色っぽい声と、紅潮し始めた肌。

 もしかして、感じているのか、何をとは言わないが、それは快楽なのでは。

 そう出掛かった言葉を飲み込んで、修はもっともらしい理屈をこねる。


「デ、ディアはヒトの体が初めてだからなっ! そ、その内慣れるだろっ!?」


 上擦った声に気づかず、快楽初体験のディアは、目を細めて濡れた溜息を一つ。


「…………はぁん。慣れるんでしょうか? 何故だかとっても…………これが愛おしいという感情なのでしょうか? うう、何でしょう、体がぽかぽかしてぼーっとしますぅ」


「いやぁ! それが気功を感じる第一歩なんじゃないかなぁ?」


 このままだと押し倒してしまいそうだ、誰か助けてと心で叫びながら、歯を食いしばって行程を終える。

 今の状態ならば、肌が何処かで触れ合っていれば、彼女が誰かを傷つける事はないだろう。


「…………終わったのですかオサム様?」


「あ、ああっ! これで終わりだ。外では手でも繋ぐ必要があるけど、俺だけなら何もしなくても大丈夫だ!」


「…………もう、してくれないんですか? オサム様のを体の奥で受け止めている時は、とっても安心出来たので――――」


 ディアは、トロンとした眼で修にすり寄る。

 身長差により密着すると上目使いに、そして服越しでも解る柔らかな肢体――――時にでっかいおっぱい。


「いやぁ。そろそろお腹減ったし、当初の目的通り買い物に行こうか!? な、そうしよう。アネキの部屋から服を借りてくるから――――」


「ね、オサム様。もっと触ってください。何かが感じられる気がするんです」


 悪女、男を誑かす悪女がそこに居た。

 本人に悪気も自覚も知識も無いのが、余計に最悪である。


(うおおおおおおおっ! 頑張れ俺! 紳士教育を受けただろうっ! 童貞だろうっ! 女の子の素肌に無闇と触っちゃいけないんだあああああああああ!)


 ――――ふにょん。


(ほわあああああああああああああああああ!?)


 決意を固めた修に起こったのは、ディアが彼の手を取り、自身のその大きな胸へ誘導し押しつけた事だった。


 これは不可抗力、歴戦を潜り抜けた勇者であったても、童貞というバッドステータスの前には抗う事が出来るはずが無い。


「なななななな、何をしているんですディアさん?」


「もぅ、様だなんて。私は貴男の、貴男だけの神剣。どうかお気軽にディアと及びくださいませ…………あん、やぁあん」


「ごごごごごごごごごめ――――――!?」


 その人生? の殆どを剣として過ごし、ヒトとしての活動はこの数時間だけだというのに。

 何故そんなに色気のある表情を、悦にそまった満ち足りた表情をするのだろうか。

 正直股間に悪い、悪すぎる。


「あら? 勇者様の又の辺りに硬いモノが。…………まさか、私以外の剣を持って――――あぁあん、もぅ、激しいですオサム様ぁ」


 もはや、修に何かを口に出す余力は無かった。

 艶々と輝く褐色の肌、――――おっぱいは、しっとりと濡れたような潤いと、ふわっと指が沈み込んでいく柔らかさ。

 その上、優しく押し返す弾力に、一度触れたら心地よくて、吸い着いて離れない肌のきめ細やかさ。

 これぞ――――魔性の乳。


「はぅん…………ぁん。…………短剣? にしては大きくて熱い様な…………? 出して、見ても良いですか?」


(駄目に決まってるだろうがああああああああああ!?)


 修は内なる悪魔に必死に抵抗するも、その指をわきわきと動かし、手からこぼれ出るサイズのお乳を、触覚は言うに及ばす、視覚と嗅覚も併せて堪能してしまう始末。


 答えられな事を、許可と受け取ったディアは、ナニを取りだそうと股間をまさぐる。

 彼女としては、男性のズボンの構造など知る由がないので、やはり悪気とかは一切ないのだが。

 何かもう、その道についた熟練の手つきとどこが違うのだろうか。


(くそっ! 何としても抜け出すんだ! どんな酷い負け戦でも、逃げ延びて最後には勝利を掴んできたじゃないか!)


 この圧倒的ピンチの前に、修の思考が澄み渡る。

 邪念が凝縮して溢れ、一種のオーバーフロー状態となり「伝心」を使うためのエネルギーとなった。


(『伝心』には、こういう使い方もある! お願い助けてアルベールううううううううううう!?)


 その瞬間、異世界に居る仲間、アルベールは誰かに呼ばれた様に、はっとした顔で斜め上をみた。


「これは――――オサムが戦ってるのか!? くそっ! 元の世界に返っても、アイツは戦う定めなのか!? いいだろう、オレの力、存分に使うといい――――!」


 つまりは、そういう事だ。

 かの力は、相手と理解を深めるだけの力ではない。

 必死になって研ぎ澄ませた結果、幾つかの派生に目覚め。

 今回のモノはその一つ、――――仲間の力を経験と共に一時的に借り受けるのだ!

 なお、絆で結ばれた大切な仲間にしか効果を発揮しないが、勇者としてこんな所で使っていいのだろうか?



「――――そこまでだよディア。これ以上は、君がもっと学んで、その上で望むのなら、だ」



「オサム…………様。は、はい、解りました――――はうぅ…………、こ、この動悸はいったい…………?」



 吸い着いて離れない左手はそのままに、しかして空いている右手がある。

 修は左手を、右手の気功を駆使して無理矢理離し、そして無垢な褐色美少女の顎をクイっと掴み、その碧眼を熱く見つめて諭した。


(ありがとう、本当にありがとうアルベール)


 役目は果たしたと、修の体からアルベールの気配が消える。

 一度離れたのならば、いかに高い童貞力の持ち主である修でも、その鋼の精神で何とかなる。


「さ、アネキの部屋に行って服を選ぼう」


「オサム様のお姉様ですか? ご挨拶しないと…………」


 拾い上げたシーツでディアの体を包み、オサムは無心でその背中を押す。

 ――――後でパンツ変えよう、と考えながら。


「アネキは離れた所で一人暮らししててね、あるのは数年前に着ていたお古だけだから、問題ないさ」


「はぁ、それならばお言葉に甘えて」


 その後の事を端的に告げよう。

 その我が儘蠱惑的ボディのお陰で、中々会うサイズの服がなかったり。

 下着は違和感があって嫌だと言うディアに、無理矢理穿かせてみるも、悲しいかなサイズの違いで修が折れる事となったり(なお、「伝心」で今度はレイチェルの経験を憑依する羽目になった)


 結果、麦わら帽子に白のワンピース――――ノーパンとおっぱいは絆創膏ガードという、いやにフェチッシュな格好で、出発するとあいなった事を明記しておく。――――まったくの余談だが、何も生えていなかった事は修の脳裏に深く刻まれたのだった。


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