第50話 猫前線
我が家に猫前線が到来している、ということは以前書いた(気がする)。
猫前線が我が家で停滞している、とも言える。
1月にやってきたスコティッシュフォールドの三毛猫のマオだ。
僕は朝5時に起きる。
冬の5時はしんと静かだ。
家もしんと静かだ。
近所も静かだ。
まだ暗い。
家内は結婚当初に僕が「俺は朝早いから、朝飯は作ってくれなくていいから、寝てて」という言葉を頑なに守ってくれている。
約束とは信頼の上に成り立つ。
この『頑なに守る』という一点で家内は誰よりも信頼に足るといえる。
この言葉を送りたい。
どうもありがとう
一人起き、少しまどろんでから二階の寝室から一階に降りる。
すると、どこからともなくマオが現れ一緒に、または僕の後を追い、階段を降りる。
家の中で放し飼いにされているのだが夜どこで寝ているのか本当に分からないときがある。
大した部屋数もないこの家の中で探しても探しても見つからない時があるのだ。
そして、どこで寝ているのかは分からないが、とにかく僕が起きて一階に降りるとどこからともなくマオが現れ、ともに階段を降りる。
そして朝飯を準備する僕の足元を身体をすり寄せながら8の字にまとわりつく。
喉をグルグル言わせている。
おっぽが立っている。
時には物欲しそうにナオナオと鳴く。
いつもは寄ってこないのに。
彼女が寄ってくるのは僕に要望があるときだけだ。
それ以外では家内や子供には寄って行っても僕には寄り付かない。
か細い声でナォォォォンと鳴く。
この声が何とも言えず、うなじを刺激し、ムズムズし、「おうそうかそうか、ぽんぽん減ったのかにゃあ?」ということになる。
中々抗いがたい声なのだ。
この猫の声に5分耐えた人がギネスに載ったそうですが、同時に心を病んでしまったそうです。(すいません嘘です。)
猫は実に面白い生き物で人間というものの凹凸にぴったりとはまっているように思える。
犬もはまっているだろうが、猫もまた違った角度ではまっている。
放っておけないのだ。
エサが欲しい時、かまって欲しい時はこん限り甘えてくるクセに、気が乗らない時はソッポを向いている。それがまたよい。
ドS
ある日めずらしく朝マオが降りてこなかった。
マオ、降りてこないな、今朝はよく寝ているのか
と思いながらトイレに行く。
トイレから出るとキッチンからガサゴソと音がする。
人が近づくと、トッと小さな音がする。
マオが調理台から降りる音だ。
そしてラップされたサケのおにぎりが落ちている。
ラップが少しはがれ三角形のおにぎりの頂点のうち一角が欠けている。
マオが食べたのだろう。
マオは「やべっ」という顔をしている。
目の上の、人間でいうと眉毛があるところの筋肉が犬は動くが猫は動かない。
このため猫は犬より表情が乏しいらしいのだが、それでもなんとなく状況や体勢も併せて、その心情が読める。
「やべっ見られたっ」と思っているので食べていたおにぎりに執着しない。
そっと離れて「なんかあったん?」という顔をしている。
スコティッシュフォールドはその身体的特徴を固定するために血の濃い種類の猫であまり身体が強くないそうだ。
人間の食べるものを一緒に食べていると塩分が多すぎて腎臓の病気になったり、脂肪分が多すぎて太りすぎたりする。
それで寿命が縮まるのを心配して家内はほぼキャットフードだけでマオを育てている。
あとはたまに鶏のササミを茹でただけの、味がついていないやつを貰うだけだ。
このおにぎりをマオが食べたのを知ると家内はまたブリブリと怒るだろう。
一方マオもおこぼれを食べて人の飯がうまいことを知っているし、叱られても何のことか分かっていないため、やはり虎視眈々と人の飯を狙っている。
はたして僕は「仕方ないにゃあ」と言いながら忙しい朝におにぎりと散らばった米をそそくさと拾うのだった。
※落ちたおにぎりはスタッフが美味しくいただきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます