第47話 おにゃこぽん来る
昨年の11月末に親族を亡くして落ち込んでいた僕を見て妻は「これはいかん」と思ったらしい。
あまり生き物を飼うことに賛成してこなかった妻がママ友の家に生まれたスコティシュフォールド(猫)を見に行き、あまつさえ子供の世話と自身の読書に追われ家事が滞りがちなのにこれを貰う約束をしてきた。
小生が犬より猫派かな〜と言っていたのを覚えていたらしい。後日談だが猫が来ると少しは僕の気が紛れるのでは、と思ったらしいのだ。
てっきり家内自身のためや子供のために家に来たのかと思っていたが、まさかまさか僕のためだったのだ。
それが後に我が家に居座るスコティッシュフォールドの三毛猫のマオである。スコティッシュフォールドは耳が折れているのと折れていないのがいるらしいのだがマオの耳は折れていない。
長毛。
僕は今まで猫を飼ったことがなく猫というものが身近ではなかったのだが、飼ってみると大変興味深い生き物だと考えるに至った。
鳴き声は人間の赤ん坊より高い甘えるような音を出し、この声で鳴かれると到底無視は出来ない。
餌が欲しい時、扉を開けて欲しい時、ゲージから出たい時に、こちらを見つめ、(ニャア)とか細く鳴き、ある時はしっぽを立てて身体をすり寄せこちらの足の間を8の字に回り、ある時は少し離れて人間が追いかけてくるのを待っているのだ。
人間の方は、まさに猫なで声。
「どぅしたぁぁぁ?ポンポン減ったのぅ〜??」と言って猫様のご機嫌を伺うことになる。
そうかと思えば気のない時はプイッと離れていく、近づいては離れて、離れては近づき、人間との距離がこれほど絶妙な生き物はいないのではないか。
この子猫は家族全員の寵愛を受け、皆好きな時に抱きかかえ撫で付け顔をすり寄せていく。
それぞれに触り、飽きると解放される。
それを小さな身体で一身に受けとめている。
大人しい性分なのか、割と大人しくつかまり、割と大人しく抱かれ、撫で付けられ、スリスリされ、肉球を触られている。
かくいう僕も気の向いた時に猫を触っているが、見ていると「あいつも大変だなあ」という心持ちがする。
かくして我が家に猫が来たことは家族にとって想定以上によい効果をもたらしているように思う。
皆、心穏やかな時間が増えたようがする。
喧騒がおさまり、怒声が減り、ご近所にもよかったのではないか、、、。
マオははじめはゲージで寝ていたが、ある時にゲージに入れ忘れていたのか家内のベッドに来て寝だした。
長男と寝床を分かつ時には何とか一緒に寝ようとする長男をクソミソに言って1人で寝させていたが、猫がベッドに来て、甘えて延々グルグルと喉を鳴らすのはいっこうに嫌ではないらしい。
寝室の明かりを消した後も、寝つくまでしばらくグルグルいうのだ。
そんなこんなでマオはまたたく間に我が家に溶け込み、皆の1番の感心事となった。
全員が出先から帰ってはマオはどこか?と聞き、風呂から出てはマオはどこか?と聞いている。
皆の笑顔が増えたように思う。
本当によかった。
総合的には棚ボタ的ではあるが家内の狙い以上の効果が得られたのではないか。
ただ1つだけ問題があるとすれば、小生にだけまったくなつかない、ということだろう。
これに対して小生はいじましいような、嫉妬のような、なんとも言えない気持ちになっていた。
それまで亀やハムスターやインコ、魚など小動物しか飼ったことがなかった僕にとって
インコやハムスターは非常によく懐いていたため、自分は動物に好かれる質なのだろうと思い込んでいた。
とくにインコは実家で母親が飼っていたのだが、たまに僕が帰省すると足音などで分かるのだろうか玄関を開けた時からそわそわし、ピーチクパーチク僕を呼ぶほどだった。
僕の自信は打ち砕かれた。なんと脆いものであろう。
そして僕はある時とうとう思った。
猫と仲良くなるのは諦めようと。
私のために来た猫ではあるが
私を元気づけるために来たはずではあるが
お見合いのようなもので、出たとこ勝負、好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
嫌われてまではいないとは思うが、猫の中で私の序列が低いのは見ていて確実だ。
餌をくれて、日中も共に過ごす家内。
一緒に遊ぼうと足をつかまれる次男。
こたつにいると膝上に寝転ばれ、身体を撫でている長女
長男にも大人しく抱かれている。
これにくらべ私からは若干逃げるような、触んなよ、というツンとしたものを感じるのだ。
私は原点に戻ることにした。
そうハムスターだ。
ジャンガリアンハムスターのムーと仲良くするのだ。
別段慣れてはおらず、ただの餌をくれる機械ぐらいにしか思われていないだろうが、それでも家族の中では私に1番なついているはず。
丸まった時のフォルムは抜群に可愛いし、餌を手渡しで渡し、なぜなぜさせてくれる。
そうだ自分にはハムスターがいたんだ。
目から鱗。
えっ亀?とっくに死にましたよ、そんなもん・・・
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