第25話 さんま焼いたか寒ブリまだかいな

秋の夜長

会社では忘年会の話が出ている。まあ出るわな。

小生は会社の忘年会もエスケープしてしまった。

予定などありはしないのに。

うってかわって。

秋になって少しウキウキしている自分がいた。寒くなってくると美味しいものがたくさんある。

松茸とかサンマ、鍋やおでんにもう少しすると牡蠣。蟹もいいし、カワハギの肝が大きくなってきますね。

さあ、何からいこう

サンマいきましょう。

安くてうまいサンマ

脂ののったサンマ

ある人は肩に力こぶが…という言い方をしてましたね。大きくて太ったサンマはたしかに背中の辺りがふくらんでいる。痩せたサンマはさみしい。スーパーに並んでいて、売れ残って廃棄されるのはしのびないが、この痩せサンマを買うのは自分ではない。

断固としてない。

同じ値段ならちょっとでも立派なサンマを買いたい。


たとえば、自分は平日休みで子供は学校に行ってる時に嫁とパン屋に行くとします。

主食系のハード系パンと惣菜パン、おやつパンが並んでいます。

同じように作って同じように焼いていても少しずつ違いますね。

分からない?話が進まないな、よく見て下さい。

焼き色、焦げ目、具の乗り方。

違う。違うけど、コリはないな。

大抵のおじさんにとって並んだパンのどれが一番状態が良さそうかなんてどうでもいい。

ピザパンの輪切りのトマトが真ん中辺りだろうが頭の方だろうが尻の方だろうが、そこの卵パンのケチャップが手前は3センチ、奥のは2.5センチでもどーでもいい。

嫁にあんパンがいると言って、あんパンの中のどれにするか聞かれるとイラッとする。

一番手前のでええんじゃ。

世代的なものもあるかもしれない。

迷い箸NG 自分が自分がとしゃしゃってはいけない。出されたものをいただく、そういう美徳もある。

おじさんはパンに思い入れがない。ハード系のパンをご飯の代わりにしようとも考えない。

『パン?おやつだべ?女子供の食うもんだべ』と、ついつい口調も元SMAPの中居君のようになってしまう。


でもサンマは違いますね。サンマだとそうはいかない。

再び奥さんと買い物に出て下さい。

急いで。

シチュエーションとしては秋の終わりです。

この前、会社の同僚がサンマを食べた話をしていた(もちろん盗み聞きです)、そういえば夕方のニュースで今年はサンマが大量で、大きくて脂がのってて安いって見てからだいぶ経つなって状態です。

奥さんに『スーパー行くけど一緒に行く?』と言われとくに用のないお父さんはすごすご付いて行きます。


スーパー着く。

入り口入る。

お父さんは手持ち無沙汰です。

ついては来たものの何をしていいか分からない。

周りを見て下さい、クリスマス特集がもう始まっていますね。

缶や長靴の型にお菓子が入った商品が並んでいる。

ふいに子供の顔が脳裏に浮かび、辞めとけばいいのに『たまには買ってやるか』と奥さんに投げかける。

お父さんの頭の中には喜ぶ子供の顔が浮かんでます。

でもそんな気持ちは一瞬で消えます。

『そんな高いもん買わんわ』と叱られる。お父さんは惨めな気持ち。増えない給料を思い出してしまうんですね。

奥さんも奥さんで中身をチェックしていてこの商品の中身がこの時期にしか見たことがない、あまり美味しくないお菓子なのを知っている。

お父さんに勝ち目無し。

そこを抜けると若干の果物コーナーからの野菜コーナー。

ここもお父さんは奥さんの後ろをついていくだけ。やはり手持ち無沙汰。

ボケッとしているとすぐ奥さんとはぐれてしまう。

なのでお父さんにはカートを任せましょう。

お父さんは役割を得て少しイキイキしてきます。

漬物や豆腐コーナーを抜けて鮮魚コーナーです。

鮭や鰤の切り身が積まれていますね。

お父さんは『酒の肴に刺身買ってくれないかなー』なんて思っていると奥さんが『あーサンマ安いねー、今日サンマにしようかー』と言ってくる。

お父さんの目の色が変わります。

(おっ今日サンマか、そういえば今年まだ食ってないな)

『ねぇ、聞いてる?サンマでいい?』

返事がないので奥さんがイラッとしながらもう一度聞いてきます。

『…うん』

お父さんが返事しましたね。この『うん』は中居くんではなく、北大路欣也の『うん』、正確に書くと『ゔん』に近い『うん』です。

焼肉や寿司ほどの嬉しさはないがサンマは好きだし、今年まだ食べてないのもあってお父さんのテンションは少し上がっています。


発泡スチロールの中にサンマが並んでます。自分で選んでナイロン袋に入れるスタイル。

奥さんがおもむろに太いナニ(サンマです)を掴んで(トングです)袋に入れようとします。

急にお父さんが顔を挟んでくる。

挟まずにはおれん。

パンの様にはいかん。

『そっちの方がいんじゃない?いや、それじゃなくて、いやいやいや、ちょっと貸して』

とうとう奥さんからトングを奪い、お父さんまで太くて硬いナニ(サンマです)を掴むのだった。


どう料理するか。

煮たくないですね。

焼きたい。

何日か続くなら、サンマ率が高いなら、サンマがあまりにも安くて大量買いしたならそういう選択肢もある。煮るという選択肢も。

1デーなら無いな。

焼きたい。

是非焼きたい。

頼むから焼きたい。

七輪とは言わない。ガスじゃなくてもいい。

焼きたい。

焼いたあとは、各々好きに食べさせてあげたい。醤油結構、ぽん酢OK、すだち、無ければレモンでもいい。

大根おろし。

僕はおろしぽん酢ですね。

左向きのサンマの頭の終わり、脇腹辺りから尾っぽにかけて箸を入れ背中側の身は上に、腹側の身は下に開きます。

ここで骨を外しましょう。

自分ルールで頭と背骨としっぽが折れてはいけません。必ず一本のまま漫画の魚の骨の様に外す。

次に内臓。自分は食べる派ですが、少し綺麗にしましょう。

赤虫とか、捕食した小魚の鱗が入ってたりするのでこれらは取り除きます。

ここに大量の大根おろし。

全身にびっくりするほどたっぷり乗せて下さい。

そこにぽん酢を差して開いた上下の身を再び閉じる。

あとはこれを巻き寿司の様に齧って下さい。

分かります分かります。旨いんですよね。

このあと味噌汁に手を伸ばす奴はいない。

おひたしにいく奴もいない。

必ず白飯。

結婚前に彼女が張り切ってサンマを焼いて、栗ご飯を出してきたら、結婚の話は無くなる。

必ず白ご飯。

そこの小金持ちのおばはん。

松茸ご飯でもダメっ。

白ご飯って言ってるじゃないですか。

味ご飯はいけない。

分かります、秋冬は炊き込みご飯の季節でもある。

でも別の日にしましょう、

今日は白ご飯。


さっきのお父さんの家に戻りましょう。

夕飯時です。

小学4年のお兄ちゃんの席にはサンマ腹側半身、残りの尾っぽ側半身は奥さんと3歳の妹が一緒に食べます。

そして、お父さんの席には堂々一匹の焼きサンマが。

奥さんはお父さんの事を考えてないわけではなかったんですね。

限られた条件の中で最善の策を練っていた。

お父さんはホクホク顔で太くて黒いナニ(サンマです)に齧りつき、その夜は奥さんが太くて黒いナニを……やめときましょう。


※本件の下ネタはプロの指導の元に行っています。

※登場したお父さんは笑福亭鶴光師匠とは無関係です。

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