第13話 墓参り
先週同僚と会社の先輩(亡くなった時には上司)の墓参りに行った。
自分が入社したときの教育係で、亡くなったのはその方が42歳の時だった。
フニャフニャと捉えどころがなく、何にもとらわれなかった。いつもニコニコしていて、頭が抜群に良く、皆困ったら最後はその先輩に相談していた。(他の先輩、上司が相談しずらい人間でもあった)
運動もよくでき、たしか自転車で国体に出ている。
死因は癌だった。
膵臓とか十二指腸とか、覚えにくい所だったと思う。
はじめに病気が分かった後は、『医者なんか何も分かってねぇけぇなぁ~』と焼き肉を頬張り、ビールを飲んでは調子を崩していたが徐々に病が進行していたのだろう、次第に抗がん剤治療で1週間休むということが増えていったが病気も病気なので本人に調子を聞くことは出来なかった。
ある年の夏の連休前にも先輩はまた会社を休み、僕は連休明けに元気になった先輩に会えるのだろうと思っていた。なので見舞いにも行かなかった。他の同僚も見舞に行くことはなかったと思う。
だが連休後に先輩が出勤してくることはなく、休みの日に会社から電話が鳴り、その知らせは来たのだ。
『○○さんの通夜なんじゃけど出れる?』
僕は固まって暫く話せなかった。
通夜
通夜ってなんだっけ?
亡くなった時に葬式の前にするヤツ?
誰って言った?○○さん?聞き間違え??
固まっているうちに相手が『聞いとる?』と言ってきた。
『○○さん亡くなったんですか?』
やっとのことで聞き返した。
相手も動揺していたのだろう、亡くなったことを伝える前に通夜の話をはじめていた。
それからあっという間に通夜の日は来て、会社の見慣れた顔が葬儀場に集まった。
普段作業着のうちの職場では同僚のスーツ姿を見ることは少ない。見慣れた顔の見慣れない礼服姿、顔もこわばっている。
やがて通夜ははじまり、○○さんのお父さんが喪主の挨拶をした。
○○さんの奥さんと娘さんが傍らに立っている。娘さんは中学生と小学生だ。
粛々と通夜は進行し、最後に顔を見てやって下さい、というくだりで人生ではじめて膝が笑うというか膝が抜けるような感覚になった。
皆何となく列になっていくのだがこの時ふと力が抜けて崩れそうになった。
それまでも悲しいとか死を感じてはいたが、死に顔を見る、ということに現実に死を受け入れたのかもしれない。
だが、何とか誰にも気づかれずにやり過ごす。
しかしあることで自分は我にかえり、心配と緊張で冷や汗をかいた。
列の先頭の人たちが○○さんに何かしている!
棒の様なものを棺桶に突っ込みコソコソしている!何だあれは!俺は知らんぞ
僕の親はよほど濃い親戚の葬式じゃなければ子供を連れていかなかった。自分が葬式に出たのは10数年前に母方のじいさんが亡くなって以来だ。しかもその時のことは何も覚えていない。
たしかこんなコント見たことあるわ
あのコントが大袈裟じゃないくらい焦るなホンマ
だんだん自分の順番が近づいてくると前の人間が何をやってるか見え、ようやく平静をとりもどす。
棒の先に葉っぱがついてるヤツで葉っぱを水で濡らし、唇を濡らしてあげているらしい。
そうかそうか、そうであったか。
危ういところであった。世間知らずを晒すのもこのタイミングはきつい。
はたしてその顔は痩せこけて僕の知っている先輩じゃなかった。きっと最後はご飯を食べれなかったのだろう。
葬式の日は会社の留守番を言い渡された。
我が職場は365日誰かがいなければならない、無人に出来ない職場だ。
○○さんにはすごく恩を感じていたがこういうところでも俺は実に運がない。
それから何となく毎年命日付近で墓参りに行く。(1年だけ行かなかった)
先輩がよく飲んでいたホットのおしるこが夏のこの時期にはどこに行っても売っていない。ので最初の年にあんこの缶詰めをもっていって墓石に置いていたら次の年にもそのまま置いてあり墓石に丸い錆びがくっきりと着いていた。
没念
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