天使と悪魔の残り五分
結城藍人
天使と悪魔の残り五分
「試合時間五十五分経過。残り五分」
リングアナウンサーの場内アナウンスが聞こえると同時に、場内に悲鳴のような歓声が響き渡る。
いや、あれは本当に悲鳴だ。人気絶頂のチャンピオンが負けそうなのだから。
リングの中央に立つチャンピオンは、既に立っているのも限界なほどフラフラになっている。
それに対して、俺は慎重に様子を見ながら、ジリジリと近寄っていく。
「ファイト!」
レフェリーが、互いに攻撃を促す。いや、あれは俺に攻撃を促しているんだ。もうチャンピオンは攻撃できる状況じゃない。
間をつなげ、あと五分だ。
そういう意味を込めての「ファイト!」だと、はっきりと俺にはわかった。弱小
俺だって、団体の看板を背負っているエース選手だ。常に倒産寸前の自転車経営でやってる弱小団体。その最後の頼みの綱である業界最大手の
だからこそ、今日の試合は何としても「引き分け」に持ち込まないといけない。
俺の使命は、チャンピオンをギリギリまで追い詰めることだ。それ以上はやってはいけない。もし間違って俺が勝ってしまったら、それで終わりだ。次回の対戦でチャンピオンベルトは取り返され、交流戦は終了になる。
そうなれば、うちの団体は倒産して、俺は新たな所属先を探すことになるだろう。
だが、俺自身にとってはどうだ?
今、ルールにのっとってチャンピオンを倒せば、俺は曲がりなりにも
元々、テクニックは
もとより「暗黙の掟」破りをやった選手は取りにくいというのはあるだろう。だが、それ以上の「商品価値」=「集客能力」がありさえすればリングに上がれるのがプロレスというものだ。
ましてや、今、目の前に居るチャンピオンは俺の技のせいではなく、自分の体調管理のミスで、フラフラの状態だ。俺が
「あいつのミスだ。勝つ以外に説得力のある
そう言えば通じるような状態だ。
さあ、どうする、俺?
天使と悪魔の残り五分 結城藍人 @aito-yu-ki
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