秋に香る

薄荷あめ

第1話秋に香る

 十月二十三日、燃ゆる紅葉がひらひらと舞い落ちる。

 魚を焼いていると思しき芳ばしい香りが軒先から漂い、鼻腔をくすぐった。

 おそらく秋刀魚ではなかろうか。秋の焼き秋刀魚はいつにも増してたっぷりと脂を含み、かぐわしい香りを放つものだ。

 秋刀魚に限らず、それぞれの季節における旬の食材は筆舌に尽くしがたい味と香りをその内に秘めている。そしてそれらは調理されることで本領を発揮する。

 さて、どうして動物や植物というものは、それぞれに特有の香りを以てして我々の食欲をそそるのだろうか。

 人も焼かれれば芳香を放つのだろうか。

 あいにくと、人が焼身している現場や火葬に立ち会ったことはない。

 焼かれた生物から溢れるその香りが、生命力の残り香だとするならば、人は果たしてどのような香りを発するのだろう。

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秋に香る 薄荷あめ @mintpepper

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