第17話 徳川の財宝
『ほっほっほ……よくぞここまで辿り着いたのう』
目の前にいる老人は、徳川
ふとした
「ゆ……幽霊!?」
「「きゃあっ!?」」
なぎさと亜子さんが、オレの体にしがみつく。3人とも勘違いしているようだが、こいつは――
「だまし絵だな」
呑み込めていない3人に、オレは徳川茨の腕を叩いてみせた。
「ほら、コンコンって音がするだろ? 金塊の表面に絵が描いてあるんだよ」
「ほ、ほんとだあ……」
「わたしてっきり幽霊かと……」
「
安心した3人は、オレといっしょに周囲を散策しはじめた。だだっ
なぎさと亜子さんが両手でバンザイして、
「あたしたち億万長者よー!」
「憶万どころか『兆』さ!」
一方、葉月さんはジッと考え込んで、
「……浩一くん。これで
「同い年の発想じゃないよ!?」
オレがツッコんだ時、奥のほうから『――ところで』と、声の続きが流れてきた。
『お主たち。
「願い?」
『うむ。
オレはハッとした。
湯けむりサバイバルの最後の試練が「愛とは何か?」という
徳川茨は続けた。
『いくら
しんみりした空気が流れたが、それは一瞬のこと。最後に徳川茨は
『――未来の日本人たちよ! 大いに愛しあうがよい! それではサラバじゃ!』
――ぷつん。
しばらく経って、葉月さんがつぶやいた。
「すごい人ですね……」
「ホント」
なぎさはうなずくと、
「……でも、どうしてこのお爺さんは
「戦争が関係していたんじゃないかな?」
亜子さんが頬に手をそえながら答える。
「天保のころ、イギリスは『眠れる
なるほど、アヘン戦争か。
他にも徳川茨の出自に理由がありそうだが、それは分からないだろうな。
オレたちが考えにふけっていると、
「おぎゃあ!」
12匹のドウクツザルがこっちへ駆けてきた。
「おぎゃあ!」
「ふむふむ……何ィ!?」
オレは血の気が引いた顔で3人を振り返った。
「ここも崩落しそうだって……」
「「「ええーーーーっ!?」」」
黄金との対面はわずか10分。
オレたちは荷物をまとめて走り出した。
● ● ●
「はあ……はあ……」
サルたちに先導されながら、オレたちは必死に走りつづけた。
途中、めげそうになる3人を
「――みんな出口だ!」
前方に、ヒカリ
「ゴールまでもう少しだわ!」
「やっぱりお日様がいいですね……」
「ぼくはもうお布団で眠りたいよ!」
サルたちも「おぎゃあ!」と喜びの声を上げている。
オレたちはハイになっていた。ランナーズハイというやつだ。だから全員同時に飛び出した。
――まさか、ゴールの先が空中とは思いもしないで……
「……え?」
あるはずの地面がない。
いや――正確にはあった。ただし、それは何十メートルも下に。
ふわりとした浮遊感。
直後、引力がオレたちを抱きしめた。
「うわああああああっ!?」
「「「きゃああああああっ!?」」」
「おぎゃああああっ!?」
地面に激突する寸前、
――ほっほっほ。
聞き慣れた笑い声。
ほとんど同時に――地面から勢いよく水柱が上がった。クジラの噴水をいくつも束ねたような水柱は、オレたちの体を押し上げ、ナナメに弾き飛ばした。
「
オレが目をまわしながら叫ぶと、すぐ真下に湯けむりの立つ温泉があった。
――ざっぱーーーん!!
「がぼぼぼぼぼ……」
お湯が鼻に入ってくる。
息苦しくて、とっさに水中から顔を出すと、目の前に葉月さんの顔が……
「「…………」」
偶然のキス。
だが、余韻にひたる間もなく、なぎさと亜子さんが大声をあげた。
「なあーっ!? ななな何キスしてるのよ!?」
「葉月ちゃん! 抜け駆けはズルいよ!」
オレは慌てて口をぬぐった。
「い、今のは偶然だ!」
だけど亜子さんはオレに顔を近づけると、ぺろりと自分の唇をなめて、
「ぼくがキスを上書きしてあげよう」
「させません!」
葉月さんが上書きを阻止しようと、オレの口に何かをツッコんだ。
「――えいっ!」
「もごもご!?(何これ!?)」
オレが口を動かすと、葉月さんが真っ赤な顔で、
「ご、ごめんなさい! それわたしのパンツでした!」
なぎさが慌てて、
「葉月ったらドジなんだから! 浩一、早くパンツを吐き出しなさい!」
「~~~~」
や、やばい……喉に詰まった……
オレが口をパクパクさせていると、何を勘違いしたのか、葉月さんが恥ずかしそうに、
「わ、わたしのパンツ……そんなにおいしいですか?」
「もごもご!(ちがーう!)」
● ● ●
色々あったけれど、ようやく一息ついた。
「ふう……」
吐いた息が白くなる。
――ってか寒い!
真夏の
「ううう……寒いよう……」
オレが縮こまっていると、偵察に行っていたサルたちが戻ってきた。
「おぎゃあ!」
「ふむふむ……」
大雨のせいで妻恋山は
もちろん登山道は土砂に埋まってしまい、下山するには獣道を行くしかない。
「それかヘリコプターを待つか……」
オレがつぶやいたとき、なぎさが「ねーえ!」と呼んだ。
「
「大丈夫なのかー?」
「湯けむりが濃いから大丈夫よ! でも目を
いや、なぎさは浮かばないだろ……
そう思ったが、言ったら殴られるので、ノーコメントで温泉へ入った。
「ああー……しみる……」
オレが足を伸ばすと、湯けむりの奥から「くすくす」という笑い声。
「葉月さん、どうかした?」
「わたしも同じセリフを言ったんです」
「体にしみるって?」
「はい。やっぱり温泉は気持ちがいいですね」
そこへ、なぎさが口をはさんだ。
「あたしは心の傷がしみてるわ……」
「心の傷?」
オレが尋ねると、亜子さんがなぎさに代わって答えた。
「ぼくらの
2人同時に溜息をつく。
オレは思わず笑みをこぼした。
葉月さんが不思議そうに、
「何がおかしいんですか?」
「だって……」
オレは、サルたちから聞いた、とびっきりの情報を教えてあげることにした。
「みんな……温泉につかったまま、北の洞窟をのぞいてみなよ」
――数秒後。
「「「ええーっ!?」」」
3人の表情は見なくたって想像がついた。
それから1時間ほどして、
――ブロロロロロ……
1台のヘリコプターが東の空からやって来た。
服に着替えたオレたちが「おーい!」と手を振っていると、
「……ん?」
オレは目をパチパチした。
ヘリコプターの扉から、女性が顔を突き出している。
「どこかで見た顔だな……」
オレが考え込んでいると、亜子さんが首をかしげた。
「あの人……浩一くんに向かって何か叫んでないかい?」
耳を澄ますと、確かに女性はオレの名前を呼んでいる。
ヘリが近づくにつれ、その声がハッキリ聞き取れるようになった。
「浩一! あんた生きてたのね!」
その声には聞き覚えがあった。
そして顔にも見覚えがあった。
栗毛色のロングヘアーに、コケティッシュな笑顔。
ヘリコプターに乗っている女性は、オレの記憶にたびたび登場した謎の美女だった。
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