第7話 ひみつの鍵
葉月さんの心の傷は深かったらしい。オレたちの最後尾をトボトボ……まるで捨て猫みたいに歩いている。
なぎさが、オレの耳元でささやいた。
「浩一、あんたフォローしてあげなさいよ」
「いや……今はそっとしといたほうがいいんじゃないか?」
なにしろ、おっぱいの時間ですよー、だもんな。
タイムカプセルといっしょに埋めたいレベルの黒歴史だろう。
そんなわけで、しばらく無言の行進が続いていたわけだが、
「ストップ!」
亜子さんの号令で、いっせいに立ち止まった。
オレは亜子さんに尋ねた。
「どうしたんですか?」
「マズいな……水びたしになっている。ごらん」
亜子さんがライトで正面を照らすと、地面が水面へと変わっていた。
「普段なら、ここから10m先まで、道が『Vの字』になっているんだ。だけど大雨のせいで、その『Vの字』を水が埋めてしまったらしい」
ってことは……ここを進むには10mも呼吸なしで泳がなきゃならんのか。
「君たち、泳ぎは得意かな?」
亜子さんがオレたちを見まわして尋ねる。
「オレは大丈夫です。葉月さんは?」
「わたしも大丈夫です。……でもなぎさは」
「あたし泳げない……」
なぎさは不安げに瞳をゆらしたが、すぐに意を決した顔で、
「でも2分くらいなら息を止めていられるわ。そのあいだに底を歩いちゃえばいいのよ」
この水底歩行作戦は成功した。
4人分のリュックを重石にして、なぎさは見事10mを渡り切った。
「はあ……はあ……あたしの勝ちね!」
「なぎさ、すごおい!」
葉月さんがはしゃいでいると、亜子さんがすまなそうに言った。
「この先も水没しているみたいだ」
なぎさがうんざりした顔で、
「ええー!? 今度は何メートル!?」
「30mくらいかな」
「無理! ぜーったい無理! さっきの3倍じゃない!」
たしかに30mはオレでもキツい。
葉月さんも「自信ありません」と挙手している。
亜子さんは「ふむ」とうなずき、リュックをごそごそ
「ここに使い捨ての酸素マスクが2つある。せいぜい1分ほどしか使えないが、それでも30mを泳ぎ切るには十分だ。問題は……」
亜子さんがなぎさを見つめた。
「問題は、なぎさちゃん、君だ。君はここに残って救助を待つのと、がんばって泳げるようになるの、どっちがいい?」
「あ、あたしは……」
なぎさがゴクリと喉をならした。それからまっすぐ亜子さんを見つめて宣言した。
「あたし、泳げるようになります!」
「よし、それじゃあさっそく練習しよう!」
● ● ●
水泳の練習をするからには、服を脱がなきゃいけない。
そういうわけで、なぎさに「あんたは先に行ってなさい」と追い出されたオレは、1人で30mを泳ぎ切った。
「ふう……あんがい楽勝だったな」
オレの右足にはロープが結んであり、4人ぶんのリュックとつながっている。オレはゆっくりロープをたぐり、水中からリュックを引き上げた。
「あとは、なぎさたちが来るのを待つだけか」
亜子さんからもらった腕時計を見ると、時刻は午前10時前だった。なぎさは運動神経がいいから、たぶん昼ごろには泳げるようになるだろう。
「しばらく寝てるか」
体を横にした――そのとき、洞窟の奥からドウクツザルの鳴き声が聞こえてきた。
「おぎゃあ!」
「あっ!? お前はこの前のサル!」
服とスイカを交換してくれたドウクツザルだ。しかも今日はもう1匹。奥さんだろうか。メスのサルもいる。
2匹のサルは「おぎゃあ!」と鳴きながら、オレを指さした。
「オレの服が欲しいって? ダメダメ。男モノはこれしかないんだよ」
「「おぎゃあ……」」
2匹のサルはしょんぼり肩を落とすと、今度はコソコソ相談しはじめた。
それが終わると、オレに向かって
「おぎゃあ」
「ふむふむ……なるほど」
サルたちが身振りで言うには、この鍵はとても大切なものらしい。しかるべき人にしか渡しちゃいけない、そうサルのご先祖さまから言われているらしい。
「オレを買いかぶってくれるのは嬉しいけど、鍵なんて必要ないしなあ」
「おぎゃあ!」
「うわっ! 怒るな!」
2匹のサルはいきり立つと、ロープをつかみ、それでオレの両足をしばった。
「――嘘だろ!?」
あまりの手際の良さに驚愕する。そして次の瞬間には、両手までしばられていた。
「お……お前ら! 無理やり服を奪うのは犯罪だぞ!」
するとサルたちがニヤリ。
――それはどこの
そんな顔をして、サルたちはオレの服に手を伸ばした。
● ● ●
「うわーん、怖かったよー!」
「よしよし……もう大丈夫ですよ」
サルたちにロープでぐるぐる巻きにされたオレは、30分後、葉月さんに救出された。
なぎさが肩を怒らせ、「あのサルども……覚えておきなさいよ」
一方、亜子さんは鍵をいじりながら、「……ひょっとすると埋蔵金と関係しているのかな」
オレは尋ねた。
「徳川の埋蔵金ですか?」
「うん。徳川家はサル好きでね、もしかしたらドウクツザルに埋蔵金の鍵を持たせていたのかもしれない」
そういえば、
亜子さんは「ま、よく分からないよ」と肩をすくめ、「それより君の服だけど……ぼくのシャツで良ければ1枚あげるよ」
「あ、ありがとうございます……」
渡されたシャツは
オレはその場でくるりと回って、
「……スカート穿いてる気分」
すると、なぎさと葉月さんがクスクス笑いながら、オレのシャツをめくり上げた。
「「――えいっ!!」」
「ちょっ!? 2人ともエッチ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐオレたちをよそに、亜子さんが「鍵か……」とつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます