4.泡あわバスタイム









 *・*・*







「かゆいとこはなぁい?」


「あ、はい! 大丈夫です!」


『にゅふふふ〜〜あっわ泡あわわ〜〜!』



 ただ今、お屋敷の女性用お風呂を借りています。


 ロティの初期設定が完了した後、事情を説明するにも旦那様はまず無理だから、会う予定があったメイミーさんには簡単に説明をした。


 転生者の事はとりあえず伏せ、自分にはこの世界でも特殊な錬金術が使えるらしいのとロティの存在だけは。



(全部言うとしたら、旦那様の前での方がいいだろうし)



 メイミーさんは使用人の中でも『長』の位を持つ一人だからか、私の意向を察してくれたので必要以上には聞いて来なかった。


 多分、私が自分の弱音を吐いた時に、ストレスをため込み過ぎてたから気遣ってくださったのかも。さすがは、気配りのプロ、メイドさんだ。


 今は、ひとまずロティも含めてお風呂で体を洗ってる最中。


 私の場合は補助が少しいるのでメイミーさんが。


 私は何故か、一緒に入りたいと駄々をこねたロティを。



「ロティ、頭かゆくないー?」


『大丈夫でふ! わしゃわしゃ気持ちいいでふ〜!』


「じゃ、目閉じて? お湯で泡流すから」


『泡あわなくなりゅんでふか〜?』


「ロティちゃん、髪や体を綺麗きれいにするだけだから、終わったら流すのよ」


『あいでふ〜』



 AIのような契約精霊だけど、ロティは人見知りもしない良い子だった。


 顔合わせした時も、メイミーさんにきちんと挨拶したし、いきなり抱きつく事とかもしなかった。あれは、主人である私に会えた嬉しさの表れだったみたい。


 私はメイミーさんに、ロティは私が持ってるシャワーを使ってゆっくり丁寧に泡を落としていく。


 冒険者時代の粉石けんとは段違いの、滑らかバブルを落とすのは少し残念だけど。


 今回は、傷や発熱の病み上がりの事もあるので湯船には浸からずにこれでお終い。


 脱衣所に出てからも、体を拭くなどの作業は洗う時と同じ人が担当したけれど。



「せっかく綺麗な髪だから、色々いじらせてもらっていいかしら?」



 と言うメイミーさんのご要望もあって、何故か美容院さながらのヘアメイクをされる事に?



「あ、あの……メイミーさん? 何故ここまで?」


「あら。身分問わず、女の子は綺麗にしなきゃ損よ? こんなに長くて綺麗な艶髪なのに、今までの粉石けんじゃ傷みかけてたもの。もったいないわっ」


「も、もったいないって……」



 顔は平均かそこらだけど、チャロナの髪は日本人とはかけ離れた薄い緑のストレートヘア。


 ヘアアレンジとしては、少し長さを調整させただけのポニーテール仕様。冒険者だから、と言うか稼ぎも大して出来なかったへっぽこ錬金術師だったので、お金をかけたくなかっただけ。



『ご主人様ぁ〜きれーきれーになるんでふか?』



 一人?のんびりしてるロティの方は、元の白いギリシア神話の女性が着るような服に元通り。


 メイミーさんが、せっかくだから子供服を用意しようと言っても、チュートリアル未完了と私のレベルやロティの学習能力が足りずで、衣装をチェンジ出来ないみたい。


 だからか、主人の私が様変わりするのには興味しんしんのようだ。



「そうよー? チャロナちゃんって顔もすっごく可愛いし、すこーしだけお化粧もしようかしら。それにドレスも合わせて」


『ふわわわ!』


「あ、あの! 私まだ病み上がりなんですが!」



 既に髪は香油とか、トリートメント液のようなので手入れされてたから止められないが、服装やドレスアップについては待ったをかけた。


 口にした通り、私はまだ病み上がり。熱も下がったばっかだ。旦那様も、傷の具合が落ち着いてから話をするって言ってたもの。


 それを同席してたメイミーさんが忘れてるはずもなく、鏡越しにわざと舌を出して彼女は笑い出した。



「うふふ。そうね、旦那様の言いつけがあるもの。だけど、軽く散歩くらいはしましょう? 少しくらい体を動かした方がいいわ」


「お、散歩?」


「眠り過ぎだったけど……日差しを浴びずに体が鈍り過ぎになるのも良くないからね? これ、旦那様の受け売りだけれど」



 美形だけど、あんまり表情が変わらないあの旦那様って、ほんと何者なんだろうか。



「不思議そうな顔してるわね? 実はうちの旦那様、一時期だけ冒険者をやってた事もあるから他の貴族より寛容なのよ」



 あの筋肉、ひょっとして冒険者時代の賜物?


 だから、森の中で走り込みが出来るのかと納得しそうになった。



「さあ、出来たわ!」



 とりあえず、私はシンプルな薄紫のドレスをお借りして、髪も綺麗に編み込んでまとめられてしまいました。



『ご主人様ぁ〜きれ〜きれ〜でふぅうう!』



 出来上がった時には、私は鏡の前でぽかんとしちゃったけれど、ロティは小さな手で何度も拍手してくれた。



「これ……私?」



 お決まりの文句が出てしまうくらい、チャロナは貴族までとは言わずとも、それなりに身綺麗な格好のお陰でお嬢様に変身。


 化粧は、肌を潤す程度の化粧水程度。


 リップも同じだけど、ここまで見違ってみえるのか。貴族様の使用人さん凄いと感動を覚えちゃう。


 さすがに頭の包帯は取れないけれど、こればっかりは傷が治るまでの我慢だ。



「水を飲んでから、中庭に連れてってあげるわ」



 そう言って渡された水は、部屋で飲んだ浄水の水より塩分を感じた。


 これにロティも気づくと、彼女のイヤリングから鈴のような音が響き出す。



『取り込んだ飲料水は、『温泉水』。弱アルカリ性を含むも、料理に活用出来ます』



 ロティの口調が天の声と同じようになり、疑問を解決してくれた。



「あら、不思議。普通の精霊とは違うのね?」



 そして、多少事情を知ってても、ロティの性能?を初めて見たメイミーさんも少し驚いてた。


 当然私も驚いたが、ロティの口から出た情報の方が気になった。



「め、メイミーさん。このお水って、ほんとに温泉?」


「ええ、そうね。ここから少し離れた場所に源泉があるんだけど、このお屋敷に水脈が通っているから蛇口にも通してあるの。でも、ちょっとだけしょっぱいし、繋げてあるのは洗面所以外はごく一部よ」



 だから、湯治目的で旦那様の知人達の来訪や、けが人の療養に使われる事も多いそうだ。



「さ。とりあえず、行きましょう? 体が辛くなったら、すぐに教えてね?」



 スリッポンのような靴を履かせてもらい、肩の上くらいにロティが付いてくる形でお屋敷散策も兼ねてのお散歩に。


 目的の中庭へは、今いる一階の大浴場からそう遠くないそうだ。



『にゅふふ〜おしゃんぽ〜』


「離れちゃダメだよ?」


『でふ!』



 肩の上くらいでゆらゆら揺れながら、ロティはとっても楽し気だ。


 無理もない。私がこの世界で生まれて16年も眠っていれば。


 いつチャロナに宿ったかどうかも、アップデートされるまでは不明のようで。とにかく、早いうちにパンを錬成で作ってみないとアップデートはいつまでもされないようだ。


 まだまだ中庭への道は遠いようだから、メイミーさんに今のうちに聞いてみよう。



「メイミーさん、あの」


「あら、歩くの早かった?」


「いえ、それは大丈夫です。え……っと、実はお聞きしたいことが」


「いいわよ?」



 言え、言うんだ、と一度深呼吸をした。



「……わ、私とロティの錬金術を試すのに……厨房って少しお借りしてもいいでしょうか?」



 実に大胆な発言だが、いきなりパンを作りますとは言いにくかった。


 自分で言ってしまった、庶民の『激不味パン』の事を伝えたのもある。


 だから、少しオブラートに包ませていただきました。



「厨房? 料理を作るのも錬金術になるの?」


「ロティを通じて使える錬金術が、どうも料理が関係してるそうなので」



 まだ言ってなかったが、これくらいがいいだろう。


 ロティはパン、パンと言いそうになる前に、私がすばやく抱っこしてお口は隠させてもらった。



「そうね……契約精霊が言うなら、そう言う錬金術もあるのかもしれないわ。いいわ! 料理長には話を通しておくから、もう二、三日傷の様子を見て実践させてあげるわね?」


「ありがとうございます!」



 時間は空くが、パン作りが出来るのなら少しくらい待つのに支障はない。


 約束が決まってからロティを抑えてた手を離し、私達はその後到着した中庭で心身ともにリフレッシュ出来た。


 いい具合にストレスも抜けたせいか、眠りにつく時もぐっすり寝れたりと。



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