僕らは…17

「冬夜。少し遅かったけど、人多かったの?」


「あ、あぁ」


俺は紙袋に入った神崎紅の新作本を見られないようにすぐさまスクール鞄へと本を入れた。

あからさまに動揺している俺を紅蓮は少し不思議そうに見ていたが、深くは追求されなかったので、そのまま、何気ない会話をして


「冬夜、また明日」


「ああ、また明日な、紅蓮」


俺と紅蓮は別れの挨拶をして、互いの帰路へ着いた。

家に帰宅した俺は、購入したマンガを軽く読んだあと、すぐに神崎紅の新作本を読むことにした。


ページをめくるごとに俺は違和感を覚えた。

何故なら、そこに書いてあるのは、俺と紅蓮が中学時代に起きたこと、そのものだったからだ。


教師から見捨てられた問題児の不良がいて、何もかも面倒だと将来を諦め、授業をサボっていた不良を主人公である風紀委員長が更生していく物語。


「……」


俺は食事することを忘れるほどにその本に没頭していた。最後まで読まなくとも、俺と紅蓮に似ていると思った。


久遠先生と話していた時も、好きな人との次は作品として書くと言っていたことを思い出していた。

ただ、もし紅蓮が俺のことを一人の男だとして好きだというならば、わからないことが一つだけある。


それは、俺が初めて紅蓮の前で神崎紅の話をしたとき、紅蓮は「これ以上、神崎紅を好きにならないでほしい」と言った。その意図はなんなんだ? 俺のことが好きなら、自分が神崎紅ということを隠す必要はない。

紅蓮、やっぱりお前の本音がわからない。


神崎紅の新作は俺の学校でもまた話題になるんだろうな……などと、脳裏に浮かんだ。


それから一週間後、星ヶ丘高校は、またも神崎紅の話題で持ちきりだった。

だが、今回は悪い意味だった。


生徒会室前に張り出された掲示板を見て、俺は愕然とした。

そこにはこう書かれていた。


「星ヶ丘高校の生徒会長である如月紅蓮は同性愛者である。そして、人気沸騰中の作家、神崎紅本人である。彼の書く小説はただの自己満足だ」


「なんだよ、これ……」


それはまぎれもなく、俺の親友(紅蓮)のことだった。


おそらく新聞部の記事だ。

何故なら、新聞部は一度紅蓮に部活停止を言い渡されている。

その腹いせに次は紅蓮を標的にしたのだろう。

だが、学校の新聞部はたまにデマなどを流す。

しかし、これがデマじゃないことは俺にはわかっていた。


何故なら、夏休みの最終日に紅蓮が神崎紅ということを知ってしまったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る