第17話
「ただいまー………え!?」
ガチャっとリビングの扉を開けると、ソファに見知らぬ禿げた男性が座っていた。
しかも、驚いたことにその男性がいるというのに母さんは普段通りドラゴンの翼と尻尾を生やしながら台所でゴソゴソしており、父さんはチワワフォームでソファに座ってその男性と会話していた。
「やぁ、隼人くん。大きくなったね」
見知らぬ男性がニコニコと優しそうに微笑みながら俺に話しかけてくる。当然、ビビる俺。会ったことのないおっさんに急に話し掛けられたんだ。無理もない。
「警戒するのも当然だね。君を最後に見たのはよちよち歩きしてた頃だったから………」
「いや、そんなことより、あんた誰だよ!!そして、父さんも母さんも何、正体明かしてんだよ!!馬鹿なの!?」
「順に追って説明するから、まずは落ち着きなさい。彼の名前は黒柳(くろやなぎ) 鉄雄(てつお)。昔、パパとママが新婚さんの時に色々と世話になった人物だ。」
父さんがチワワフォームで説明すると、黒柳さんはペコッと頭を下げた。
「にしても、前もって連絡してくれれば、ちゃんとしたやつ用意したのによぉ!!急に来たからびっくりしたぜ」
母さんが茶菓子と急須を持ってきて、それらをテーブルに置き、「あるものだけですまんな、鉄ちゃん。」と言ってぼふんっと父さんの隣に座った。
「いや、たまたま仕事関係で日本に戻ってきてね。久しぶりに会いたくなったから寄ってきたんだ。このあと、すぐに仕事だから長居は出来ないけどね」
「そかそか。それで、仕事の方はどうなんだ??」
「あぁ。海外でも奴らは沢山いるからね。順調だよ」
「それは、良かったな!!」
母さんは犬歯を見せながら笑い、黒柳さんの肩をバンバンと叩く。おい、やめたれ。黒柳さんめっちゃ痛そうな表情してんだろ!!
「ち、因みに、黒柳さんはどういったお仕事を??」
俺は先程、黒柳さんが言葉に出した「奴ら」が気になった質問をした。見当はある程度付いている。
「あぁ。僕は異世界生命体の研究をしているものだ。」
「異世界生命体??」
「そそ。君のお母さんみたいに、異世界からこの世界にやって来た生き物達を保護しているんだ。」
「へぇー、そんな活動があるんだ」
「あ、これ世間ではトップクラスの人間しか知らないシークレット情報だからね。内密によろしくね」
黒柳さんは人差し指を口に近づけ「しーっ」のポーズを取る。勿論、言うつもりはさらさらない。
「俺、家族以外で父さんと母さんの正体を知ってるの、拓也だけかと思ってた。」
拓也とは俺の小学校からの幼馴染であり、母さんと父さんが見事に色々とやらかしてしまった結果、2人の正体を知ってしまった人物だ。しかし、拓也も母さんと父さんには小学校からお世話になっていたのでバラさないと約束してくれていた。そして、現在は東京の高校に通うため、東京の方に引っ越してしまっていた。それ以降、LINEはしているが、会ってはいない。
「あぁ、だから僕達の正体を知っているのは拓也と黒柳くんの2人だけだね」
父さんが茶菓子を頬張りながら答える。
「それにしても、相変わらず2人は仲良しなんだね。安心したよ」
「あったりめぇよ!!私たちは今でもラブラブだ!!鉄ちゃんはどうなんだよ??彼女、出来たか??」
「仕事が、仕事だからね。付き合う時間がないよ」
「いい歳してんだから、そろそろ結婚しろよ」
見た感じ、黒柳さんは40代は超えているだろう。黒柳さんは禿げた頭に手を置き、困った表情をしている。本人は少しだけ気になっているようだった。
「幸子さんだって、10年以上ぶりに会うっていうのにちっとも成長してないじゃないか。」
「あっ」
「………………………………」
この言葉で母さんは先程までのテンションが嘘のかのようにシュンとなり、俯いて一言も喋らなくなった。
「ごめん、黒柳くん。今、その台詞は彼女にとってタブーなんだ」
その理由を1番知っている父さんが申し訳なさそうな表情で答える。未だに空のクラスメイトに背を小さいことをバカにされたのを引きずっているようだった。
「お、おう。聞かなかったことにしておくよ」
と言った瞬間、黒柳さんのスマホからピピピと着信音が鳴り始めた。
「失礼。私だ。ーーーーーーーーーーーー、分かった。すぐに向かう。」
ピッとスマホを切り、胸ポケットにしまうと、黒柳さんは申し訳なさそうな表情で
「すまない、2人とも。すぐに仕事場に戻らないと行けなくなった。」
「そうか。じゃあ、玄関まで見送ろう。ほら、ママもいい加減、うじうじするのやめなさい。」
「しくしく………妹じゃないもん。母親だもん」
「めんどくせぇな!!ほら、行くぞ!!立てや!!」
俺は無理やり母さんを立たせ、父さんと一緒に玄関の方に向かった。
「また、時間が空いたら来るよ。」
「うん。今度は2人目の子供に会えるといいね」
と、父さんが笑顔で言うと、黒柳さんは目を丸くする
「え!?2人目いたの!?」
「うん。ちょっとした事情でね。今日はお友達の家に遊びに行ってるからいないけど」
「そうか。また会えるのを楽しみにしておくよ。………あ、そうだ!!これだけは伝えておかなきゃ!!」
黒柳さんはペチンと禿げた頭を叩き、真剣な表情で俺らを見つめる。
「最近、『龍狩り』の連中がこの世界にやって来ているという情報が入った。」
「………何だと??」
いじけていた母さんが急に反応し、低いトーンで答えた。
「それは本当か??」
「あぁ。だから幸子さんも気をつけてな」
「分かった。ありがとうな、鉄ちゃん。今度、3人で飲みに行こうぜ」
「いや、幸子さん、絶対に誤解され………何でもないや。了解!またね、隼人くん。」
そう言って、黒柳さんはニコッと微笑み、玄関の扉を開け、出ていった。
「母さん………『龍狩り』ってなんだ??」
黒柳さんから出た単語に俺は気になって知ってるような素振りを見せた母さんに聞く。
「私たち、ドラゴンを悪の生物だと認識し、ドラゴンを殺すことを目的としている集団だ。……………クソ野郎共だよ。私たちにとって」
そう言った後、続けて母さんは「そろそろ夕飯の準備取り掛かるわ」と言って台所の方へと向かった。
俺と父さんは互いに見つめたあと、言葉に出さなくても「今後、気をつけよう」という気持ちになり、頷いてからリビングの方へと戻って行った。
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