第16話
今日から6月に入った。もうすぐ暑い夏がやってる予兆なのか、気温が徐々に高くなっていく中、玄関に赤いランドセルを背負い、黄色い帽子を被っている空がワクワクしながら立っていた。うん、マジで可愛い。
今日から空は地元の小学校に転入することになった。
エプロン姿の母さんがリストを手に持ちながら空の方に近づき話しかける。
「筆箱、ちゃんと持ったか??」
「持った………」
「上履き、ちゃんと持ったか??」
「持った………」
「任天堂Switch、ちゃんと持ったか??」
「え!?持ってない…………」
「当たり前だろ!!変なボケをするな!!」
俺はそう言いながら、ちゃっかりと任天堂Switchを取りに行こうとした空の腕をつかみ、止める。
「冗談だよ、冗談。ほい、空。これ、持ってけ」
母はそう言うと、『母龍守』と刺繍してあるお守りを空に渡す。
「これ、何??」
「お守りだ。中に私の鱗が入ってる。なんか、あった時にそのお守りに強く念じてみ。そしたら私がすぐ駆けつけるから」
「因みに、俺も持ってるぞ」
「え!!」
俺は首から下げていた空と持ってるやつの色違いで少しだけボロボロになっているお守りを取り出し、空に見せる。昔、母さん達の正体を知ったあと、母さんに貰ったものである。
しかも、母さんが言ってることは事実で、俺が中学3年生の時、家族でキャンプに言った時にトラブルで大きくて深い穴に落ちたことがあった。その時に、このお守りに強く念じたら、母さんが助けに来てくれた思い出がある。それ以降は、ちゃんと身に外さず持っているようにしていた。
「隼兄ぃのお揃い??」
「まぁ、そうだな」
「空!!大切にするよ!!」
そして、空は嬉しそうにそのお守りをランドセルに付けていた。
「今日、1日だけは両親は付き添いしていいらしいから隼人は安心して行ってきなさい」
チワワの姿ではなく、人間の姿でシャキッとスーツ姿を身につけている父さんがやって来た。
「え?あんたらも行くの??」
「ダメなのか??」
「いやぁ、ダメじゃないけどぉ」
身長190越えのイケメンチワワに身長120のロリドラゴンが揃って両親ですってやって来ると、先生はもちろん、生徒さんもびっくりするだろう。
「難しいなぁ」
「お前が考えすぎなんだよ。ほら、早く行かないと遅刻するぞ」
「はいはい。じゃ、空。兄ちゃん行ってくるでな」
俺が高校用のリュックを背負い、空の頭を撫でながら靴を履き、外に出ようとした瞬間、空が微笑みながら一言呟いた
「隼兄ぃ………行ってらっしゃい。空、頑張るね」
空のおかげで俺は今日、1日テンションMAXで高校を過ごした。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
〜空視点〜
「今日からこのクラスに新しい子が来ます。ささ、入って来て」
先生の声が聞こえたので空は扉を開けた。すると、20人ぐらいの子供たちが私の方をじっと眺めた。
「さぁ、自己紹介してちょうだい」
先生にチョークを渡されたので、空は黒板に自分の名前を丁寧に書き、そしてクラスのみんなの方を見る。
「犬龍 空です…………。今日から…………よろしくお願いします」
空はペコッと頭を下げる。すると、わぁぁぉぁぁぁとクラスの子が歓喜が起きる。
「かわいー!!」
「ドッジボールやろうよ!!」
「よろしくねー!!」
「ねぇ、何が好きぃー??」
「嵐聞いてるー??」
「プリキュア知ってるー??」
「友達になろー!!」
など、一斉にクラスのみんなが空に話し掛けてきた。少しだけうるさい。まるで、お猿さんみたい。
「はいはい。みんな、空さんが困ってるからそれくらいにね。あと、今日だけ空さんの御家族に付き添いで来てるから迷惑をかけないように!!」
「「「「はーい!!」」」」」
先生がママとパパの方向に腕で指すと、廊下に揃って立っていたママとパパが頭をペコッと下げた。パパは朝と一緒でスーツを着ていたが、ママはあれから着替えてちゃんとワンピースを来てお洒落な格好で着ていた。そして、隼兄ぃから貰ったピアスも付けて。
「それじゃあ、空さんの席は山口さんの隣の席に座ってちょうだい」
「わかりました」
先生の指示に従って、空は山口という女の子の隣の席にちょこんと座った。
「私、山口(やまぐち) 洋子(ようこ)。よろしくね、空ちゃん」
山口さんは小学生の縦ロールの髪型にお嬢様が着てそうなふりふりのドレスを身に付けていた。
「よろしく……………。」
山口さんは空の手を掴み、ブンブンと手を上下に振って来た。
「それじゃあ、みんな!!空さんに色々と教えてあげてね。」
「「「「はーい!!」」」」
「それじゃあ、今から椅子で円を作って、『空さんと仲良くなろう会』を開きましょうか!!」
クラスのみんなは「はーい!!」と言いながらキャッキャッと机を一旦後ろに下げ、ぱぱっと椅子で円を作った。空は先生の指示で円の中に座り、囲まれるような形となった。
「それじゃあ、みんな。手を上げて当たった人から空さんに聞きたいこと聞いてあげてね!!はい、どうぞ!」
すると、みんなが一斉に「はいはい」とうるさく手を挙げ始める。先生が適当に何人かを指名して質問した。
「私、佐田(さた) 神奈(かんな)。好きな食べ物は何?」
「隼兄ぃが作ってくれるパンケーキ…………」
「俺、貴田(きだ) 龍平(りゅうへい)。趣味とかはあるか??」
「隼兄ぃと一緒にゲームすること…………」
「僕、南山(みなみやま) 怜治(れいじ)。好きなスポーツとかある??」
「隼兄ぃと一緒にやるバドミントンが好き。」
「私、旭(あさひ) 欄(らん)。さっきから出てるその隼兄ぃって誰なの??」
「私の大切な人。そして、1番好きな人…………。」
この言葉で、周りの女子はきゃーきゃーと叫ぶ。うるさい。
「え?空のやつ隼人の事が好きだったのか??」
「え?今更!?」
廊下で見守っていたママが驚いたような表情でパパに言葉を投げかけると、パパも「知らなかったの!?」みたいな感じでツッコミを入れた。
こうして、このリクリエーションのおかげで空はクラスに馴染むことができ、無事に小学4年生となった。
〜おまけ〜
「ねぇ、空ちゃん。あの子って妹??」
旭さんが母さんに指を指して空に質問する。すると、空は真顔で答える
「空のお母さんだよ」
「え??嘘でしょ??年下にしか見えなかった」
「40超えてるよ…………」
このやり取りを見たママは
「ねぇ、パパ、泣いていいか??」
「家に帰ってからね」
とクラスのみんなの前で半泣き状態になっていた。それをパパが優しく励ましていた。
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