第15話
「むぅ〜」
俺は手に顎を当て、ズラリといろんな商品が売っている棚をひたすら眺めていた。
今日は5月12日。そう、『母の日』である。
昨日、つんさんに初のバイト代を渡された時に日頃の感謝を込めて母さんに何かプレゼントを贈ってあげたら??と言われたので、何か買って贈ってあげようと思い、空と一緒にデパートに来ていた。
しかし、俺は過去に母さんにプレゼントを贈ったことが数回しかなく、何を送ったら喜ぶのかが未知数だった。
最後にプレゼントを渡したのが、『キラキラ☆リンリン☆ランランラーン』の主人公の母親がドラゴンだった話を見て、感動したノリで母さんに贈った花束なのだが、次の日、なんとびっくり揚げ物にして食されていた。これに関しては言葉が何一つ見つけられなかった。なんて言えばよかったのだろうか。
そんな感じで、出来ればやっぱり喜んでもらいたいので今回ばかりは慎重に考えて選ぶようにしている。
「隼兄ぃ。あれとかは??」
空がとある場所に指を指す。ちなみに、今の空の服装は可愛らしい青色の水玉模様のTシャツに淡い色のスカートを履いていて、さらに帽子も被っていた。どれも父さんが空のために制作したやつである。流石はパーフェクトチワワ。センスが分かってる。
そして、そんな天使のような可愛さを誇る空が指すの指の先には………………『18禁』と書かれているピンク色の暖簾(のれん)だった。
「うん、ダメだね。」
俺は即座に否定をする。確かに、母さんは終焉龍の他に『歩く変態』という2つ名があってもいいぐらい変態だ。けど、日頃の感謝で18禁アイテムを贈るのは流石に人としてヤバイ。マジやばたにえんだ。
「でも、ママ、最近パパが相手してくれないから、よっきゅーふまんって言ってたよ」
10歳の天使に何を言ってんだ、あのロリババドラゴンは!!この子を汚すんじゃねぇよ!!
「ま、まぁ色々大人の事情ってやつだよ。子供の俺らは気にしなくていーの」
「でも、隼兄ぃもう16歳でしょ??」
「何歳になろうが、父さん母さんにとっては俺たちは未熟な子供らしいから大丈夫大丈夫。」
俺は空の髪の毛を撫でながら、苦笑いで答える。その後、空にアイスクリームを買ってあげて、2人でぶらぶらと母さんの贈り物を探していた。
「あのー、ちょっとだけいいっすか??」
「あ?」
空とぶらぶらしていると、1人の男性から声をかけられた。スーツ姿で、少しだけチャラい系の男性だった。俺は即座に警戒して、空を背後の方にやり、その男性と対応する。
「私、芸能事務所『かぐや姫』の関係者の渡部(わたべ)と申します。」
「芸能事務所??」
「えぇ、もしよろしかったらそちらの……………妹さんかな??妹さんを我が芸能事務所に入りませんか??絶対にヒットするっすよ!!」
まさかの芸能界からスカウトだった。
「アイドル、歌手、タレント、女優、モデル!!恐らく娘さんだったらどれもイケると思います!!」
アイドルか…………と、アイドルで可愛らしい衣装を着て踊っている空を頭の中でイメージしてみる。何それ、めっちゃ可愛いんですけど!!
「すみません、俺だけの判断じゃ決めかねないのでここでOKとは言えないっす」
流石にここはお断りしておく。この件に関しては空の同意はもちろん、母さん父さんに要相談だ。
「まぁ、そりゃあそうっすよね!!じゃあ、名刺の方を渡しておきますので決まり次第、ご連絡下さいっす!!」
渡部さんは名刺入れから1枚の名刺を取り出し、俺に丁寧に渡す。俺はペコッと頭を下げながらそれを受け取ったあと、「いい返事を期待してるっす」と言ってどっかに去って行った。
「凄いじゃん、空。」
「アイドルって何??」
「みんなを幸せにするお仕事だよ」
「じゃあ、もし空がアイドルになったら隼兄ぃも幸せになる??」
「もちろん。幸せすぎてきっと天に召されるよ」
すると、空は俺の方に身体を寄せ、上目遣いしながら一言ぼそっと呟いた。
「じゃあ、空、隼兄ぃだけのアイドルになる。」
俺は空の一言で胸がズキュュュュュュュュュュュュュュン!!!となり、手を抑えた。嬉しすぎて涙もちょっとだけ出た。ヤバイ!!誰か………誰か救急車を呼んでくれぇ!!
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「隼兄ぃ、大丈夫??」
「お、おう」
俺は空の爆弾発言によって、ベンチでグダーとなっていた。まだ、あの破壊力の余韻にやられていて幸せすぎて動けなかった。
「なんか………ごめんなさい」
「気にすんな。………っと、プレゼント選び再開するか」
俺はベンチから立ち上がって、空に手を差し伸べる。空は「うん!!」と言って俺の手を取り、立ち上がった。
そして俺たちは暫くプレゼント選びをしていると
「お母様にプレゼントですか??」
1人の女性の定員さんが声を掛けてくれた。
「えぇ。でも、何をあげたらいいか分からなくて」
「そういう人、多いんですよね!!良かったらお手伝いさせてください。」
「え、じゃあお願いします。」
もう3時間くらい探してもピンと来るものが無かったため、第三者の意見も取り入れることにした。特に定員さんとかはずっと贈り物選びをしている人を見てきまはずだからこういうのには強いはずだ。
「うちの店だと、洋服とかが結構プレゼントとして多いですよ」
「でも、うちの母親、背が低いんですよね。」
「どれくらいなんですか??」
「……………120ぐらいです」
「は??」
いや、「は??」て!!真顔で「は??」はダメでしょ!?気持ちは分かるけど、失礼だぞ!!
「すみません、お客様。当店ではちょっと扱ってないですね」
「ですよね。こちらこそ、すみませんでした。…………ん?空??」
「この水、いい匂いする」
空が香水コーナーで香水の匂いを満喫していた
「香水か…………」
「香水もよくプレゼントとしてお選びされていますよ。どうですか??」
確かに、普段、買い物とか家族で出掛ける以外では全く外出をしない母さんはこのような香水とかは持っていないはず。いいかもしれない
「候補の1つにしておきます。」
とりあえず、香水を候補に入れ、まだ他にいいものがあるかもしれないと他の商品も見てみる。
次にアクセサリーコーナーに行くと、俺は1つの商品に目をやる
「これは」
俺がそれに手を触れると、店員さんが
「それは、綺麗な鉱石で作られたやつですね。」
「空…………」
「うん。間違いないよ」
空も俺の読みを察してくれたのか、俺の目を見て頷く。俺も頷き返し、
「これにします。」
「はい、ありがとうございます!!きっとお喜びになられると思いますよ!!」
「そうだといいですね」
代金を払い、それを受け取ると、空と手を繋いで我が家へと向かっていった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「はい、これ。プレゼント」
デパートから帰ってきた俺と空は疲れて一緒に昼寝をし、夜になってから母さんに買ってきたプレゼントが入っている紙袋差し出した。母さんはポカンとしながら煎餅を齧っていた。
「あん?どうしたの??」
「今日は『母の日』だろ??だから日頃の感謝を込めて買ってきたんだよ」
「へぇー、隼人の癖にやるじゃん。空も選んできてくれたのか??」
「うん。ママ、多分喜ぶ」
「お、言うねぇ。何かなぁ〜」
母さんは紙袋を、受け取り、中身開ける。そこに入っていたのは
「これは………ピアスか??」
そう、母さんの為に買ってきたもの、それは虹色に輝いているピアスだった。しかもただのピアスではない。
「しかも、これ、『虹龍(レインボードラゴン)の鱗』で出来てるやつじゃねぇか!!」
「やっぱりか」
俺がこのピアスを見た瞬間に、異生物の素材でできているやつだと理解した。今までドラゴンの母さんとチワワの父さんを見てきた俺だからこそ見抜けたのだろう。
「これ、市場とかで出回ると金貨1500枚分はあるのになぁ〜」
「そんなのは知らん。こういうピアスとか付けたら多少は大人感出るかなって思って買っただけだからさ」
俺はそう言って、宿題をやろうとやリビングから出ようとすると
「おい、待てやコラ」
母さんに声をかけられる。ピアスがきにいらなかったのか、もしくはさっきの発言で気を損ねてしまったのか、俺は少しだけ嫌な表情で母さんの方に振り向くと
「ありがとな。すっげぇ嬉しいよ」
と、少しだけ目を潤わせて母さんが犬歯を見せながら笑顔でそう言った。俺はちょっとだけ照れながら何も言わずにそのままリビングを出た。
「ただいまー」
すると、同時に父さんが家から帰ってきた。なので、俺は父さんの肩にポンと手を置き
「仕事とかで疲れてるとは思うけどさ、ちゃんと母さんの相手してやれよ。母さん、寂しがってるぞ」
と父さんに告げ、そのまま部屋に上がって行った。
そして、その日の夜、隣の部屋からギシギシという音が聞こえたので、寝ている空の耳に念の為、手を当てながら俺は寝た。
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