第14話

 「あなたから、邪気を感じる」


 「はい?」


 俺が自分の席で小説を読んでいると、急に気になる要素が満載な言葉を投げかけられる。声の方に向くと、ひとりの女性が「フフフ」と不気味そうに微笑んでいた。


 彼女の名前は岡本(おかもと) 直美(なおみ)。クラスメイトである。髪型は前髪がパッツンでショート。顔は可愛いのだが、左目に眼帯を付けており、着ている制服の上には呪文がびっしりと書かれている黒いローブを羽織っていた。そして、度々とよく分からない発言を繰り返し、クラスでは結構浮いている存在だった。


 この時点でお気づきの方もいるかもしれないが念の為、言っておこう。


 そう、彼女は厨二病だ。


 「邪気ってどういうこと?」


 「フフフ、そんなこと言っても無駄よ。なぜなら、私の『真実の目』はそんな戯言など容易く見抜けることができるからだ。」


 『真実の目』なんかどうでもいいんだよ!!さっさと説明しろや。


 「君は恐らくここの世界の人間じゃないね。普通の人間である両親を騙し、いつかこの世界を乗っ取ろうとしている!!」


 いや、逆逆!!逆だよ、岡本さん!!世界を乗っ取ろうとはしてないけど、俺は普通の人間だから!!そして、両親が普通の人間じゃねぇから!!ドラゴンとチワワだから!!


 「……………俺は普通の人間だよ」


 俺が顔をしかめながらそう答えると


 「じゃあ、証拠を見せて」


 「証拠!?」


 え?何この子、めっちゃ面倒くさ!!もう、どっか行ってくれよ!!頼む!!


 「隼人氏〜」


 「笹島君!!いい所に!!」


 笹島君が笑顔で手を振りながらこちらの方へとやって来た。本当にナイスタイミングだった。これでどうにか彼女と距離を離れよう。


 「これ、頼まれていたものでござる」


 そう言って、笹島君は鞄の中から1つの紙袋を取り出し、俺の方に差し出した。当然、この厨二病はそれを見逃さなかった。


 「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!これから物凄く邪気を感じる!!まさか、お前、こいつの仲間か??」


 「は??」


 岡本さんがテンションを上げながら笹島君に指を指し、大声で叫ぶと、笹島君はポカーンとした表情をする。


 「中身を見せてみなさい!!」


 「中身って言われても、小説でござるよ??」


 笹島君は紙袋から小説を何冊か取り出す。俺が岡本さんに声掛けられるまで読んでいた小説は実は笹島君に借りていた本であり、もうそろそろ読み切るため、笹島君に次巻を何冊か持ってくるようお願いしておいたやつだ。


 ちなみに、小説の作品名はあの「キラキラ☆リンリン☆ランランラーン」だ。読んでみると案外面白い作品で主人公の母親がドラゴンだったという話は本当に感動すぎてガチ泣きし、ノリでその日の夜に母さんの為に花束を送った程だった。


 岡本さんはその小説を笹島君からひったくり、パラパラとしてじっくりと眺めた。


 「むむ、確かに普通の小説ね」


 「隼人氏。岡本氏は何をしているのでござるか??」


 「知らん。俺もぶっちゃけ困ってんだ」


 「そうでござるか。でも、そろそろ……」


 笹島くんが喋ってある途中、バァン!!と教室の扉が開く。そしてズカズカと1人の男性が入ってきた。岡本さんはその男性を見て「うわ」と嫌そうな顔をした。


 「ほら、来たでござる。」


 「おい、岡本!!また、おかしな格好しやがって!!その眼帯とローブを取れっていつも言ってるだろ!!」


 岡本さんに怒っている男性の名前は、東山(ひがしやま) 透(とおる)。髪型は黒髪で短髪。隣のクラスの子で、岡本さんと幼馴染らしい。あと、風紀委員会に入っていて、よく分からない格好をしている岡本さんに毎日、注意をしている。


 「うっさい!!私は今、世界の恐怖の起源を絶とうとしているのだ!!」


 おい、恐怖の起源って俺のことか??ん??はっ倒していいのかな、この子。


 「犬龍君が困ってるだろ!!お前の趣味に関しては何も言わんが、それを人に巻き込むのをやめろ!!」


 「フッ、分かってないな、透よ。私には『真実の目』がある。だから、心配は無用だ」


 会話が成り立ってねぇ!!重症にも程があるだろ、この人!!


 「とりあえず、お前、こっち来い!!」


 東山君は岡本さんの腕を掴み、教室から出ようとしていた


 「放せ!!透!!早く放さないと、私の『毒(ポイズン)手(ハンド)』が発動してお前を死に追いやるぞ!!」


 「ハイハイ。それは分かったから職員室に行くぞ!!」


 東山君は岡本さんの言葉をスルーして教室を出ようとした瞬間、


 「犬龍 隼人!!他の者が気付いてなくても、私は見抜いてるからな!!必ず、貴様の野望を阻止してやる!!首を洗って待ってろ………ちょ、透!!腕が痛い痛い痛い!!」


 そう叫びながら、岡本さんは無残に教室から出ていった。クラスは暫くシーンとなった。


 「………隼人氏、今日、カラオケ行くでござるか??」


 「……………行く。豊川さんも誘ってこようぜ」


 「承知」


 今日のことは気にしないことにしよう。そもそも、俺は普通の人間だし。


 そう思って俺は笹島君と共に豊川さんがいる方へと歩き出した。

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