第13話
新しく犬龍家の家族となったペガサス、空については父さんが上手くご近所さんを周り、説明した。
空は父さんの親戚の娘という感じにして、両親を交通事故で亡くし、引き取り身がいないということで父さんが引き取ったという設定になった。
この話をご近所さんに説明したら、ほぼ全員の人が泣きながら空のことを歓迎したという。気持ちは分からなくもない。
お隣の斎藤さん夫婦も空のことを歓迎し、しかもお孫さんが着ていたという可愛らしい服を「もう着れないから」と言ってダンボール2箱分くれた。やっぱり斎藤さん夫婦は優しい。空も斎藤さん夫婦のことを気に入ったらしい。
あと、空はペガサスとしての年齢はまだ1歳らしいのだが、人間年齢だともう10歳ぐらいらしい。なので、近々、小学校に通わせるという話になった。言語とか読み書きなどは大丈夫らしいので、最低限の学力は俺か父さん、空の飛び方は母さんが教えることとなった。
と、まぁこんな感じで空を我が家に迎え入れ数日が経過したのだが、少しだけ困ったことが出来た。それは
「隼兄ぃ…………」
「隼兄ぃ、遊ぼう………」
「隼兄ぃ、これ読んで………」
「はい、隼兄ぃ。あーん……」
「隼兄ぃと一緒の部屋がいい……」
「隼兄ぃ、一緒にお風呂入ろ………」
「隼兄ぃ、一緒に寝ちゃダメ??」
空がブラコン並に俺にひっついていることだった。いや、嬉しいよ??嬉しいけど、まだ少しだけ抵抗があるというか…………なんというか…………、もどかしい気分だった。
「コラ!!空!!兄ちゃんを困らせたらダメだぞ!!」
そんな俺の姿を見て、母さんが空に注意する。流石、マミー。分かってらっしゃる!!あとで、肩もみと翼の手入れをしてあげよう。
「ママ…………私、隼兄ぃと一緒にいちゃダメなの??」
目に涙を浮かべながら上目遣いで空は母さんを見つめる。
「ごォらぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!隼人ぉ、早く空のとこ行かんかい!!ぶっ殺すぞ!!」
マミィィィィィィィィ!!負けちゃったよ!!空の可愛さで手のひら返しちゃったよ、この人!!
俺は溜息を吐いて、空の所へと行く。すると、空はパァァァァと顔を笑顔にして俺に抱き着いてくる。可愛いんだけど、ちょっとこのブラコンな感じがめんどくさいかなぁ。
「あ!!隼兄ぃの服から女の匂いがする」
「はい?」
さっきまで笑顔だった空が急にジト目になってこっちを見つめる。女の匂いというか、今日普通に学校だったから、服にクラスメイトの女子の匂いがかすかでもついてしまったのだろうか。たった、それだけなのに何でこいつ、ちょっと怒った表情してんだ??
「…………誰なの??」
「知らん。きっとクラスメイトの匂いだろ」
「その人、殺す」
「何故、そうなんの!?」
声のトーンが明らかに低い空はそのまま玄関に歩き出したので、俺は慌てて腕をつかむ
「おい、待てや。どこに行く気だ??」
「隼兄ぃに匂いをつけた人のとこ」
「行って、何する気だ??」
「殺す。」
いや、怖っ!!俺の妹、怖っ!!天使じゃなくて、悪魔に見えてきた。
「ダメです」
「どうして…??」
「そんなことしたら、俺、空のこと嫌いになっちゃうよ??いいの??」
「な…………ん……………だと!?」
どっから覚えてきた、そんな言葉は!!とツッコミを入れたくなるぐらい溜めながら空は呟いた。どうやら、相当ショックだったようだ。
「じゃあ、空、殺さない。」
「分かればよし。」
そう言って、俺は空の頭をナデナデする。すると、空は嬉しそうに微笑む。そうだよ、コレだよコレ。空は、怖い顔よりも笑顔の方が素敵だ。
「よし。宿題やるか」
「空、隼兄ぃの部屋で絵本読んでていい??」
「おう、いいぞ。」
そう言って、俺と空は俺の部屋に来た。ちなみに、近々、空の勉強机やら本棚やらが、俺の部屋に設置される。リアルな話で俺の部屋が、俺と空の部屋になるのだ。夜とかに襲われないか、少し心配ではあるがまぁ、大丈夫だろう。なんかあったら母さんに頼めばいいし。
「さて、やりますか」
俺は勉強机に座り、英語の宿題をやり始める。松本先生の宿題は多いので大変だ。俺のすぐ側で空がちょこんと座って本を読んでいた。
勉強してる途中になんの本を読んでるのかな〜と思って俺はこっそりと本の作品名を見てみると
『想像力のスイッチをあげよう』
いや、空よ。それ、絵本じゃなくて評論文な。絵なんてどこにもないぞ。
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