第12話

 「さて、まずは名前を決めようか」


 父さんがチワワフォームでお座りポーズをしながら、そう呟いた。確かに、名前があった方が便利だ。


 「馬刺しとかでいいんじゃね??」


 いや、馬刺し好きすぎん!?そろそろ馬刺しから離れろ!!


 「却下」


 「なんでだよ」


 「逆に何でわかんねぇんだよ。少しは真面目に考えてくれ」


 俺の言葉で母さんは腕を組んで「うーん」と真剣に悩み出した。


 「因みに、俺の名前ってどうやって決めたん??」


 前々から思っていた事を聞いてみた。隼人ってどうやって決めたんだろう


 「あん?子供の名前表みたいなものを買ってパラパラってページめくって、バン!!と止めて適当にココ!!って指を指したら隼人だったんだよ」


 いや、適当ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!適当すぎたよ!!養子とはいえ、子供の名前よ??もっと真剣に考えろよ!!


 「じゃあ、この子もそれやる??」


 「そうしようか。考えても出なさそうだし」


 そして、母さんは本棚から『赤ちゃんの名前表2012ver』を持ってくる。せめて、今年のやつを買ってこいよ、と思うがもうめんどくさいので言うのをやめた。もし、変な名前だったら止めればいいし。


 そして、運命の名前決めルーレットが開始する。



 「だあぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁ!!」



 ぱらぱらぱらぁぁと母さんは勢いよくページをめくっていく。そして、



 「ストォォォォォォォォォプ!!」



 と父さんが叫ぶと、母さんはピタァとページを止める。



 「ここおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 そして最後に俺が開いているページのところに勢いよく指を指す。勢い付きすぎてポキッと聞こえてはならない音がしたが、まぁ、今はそれどころではない。


 さぁ、俺の指はどんな名前を指したのか。俺たち3人は指が指している名前をじっと見つめた。そこに書かれていたのは



 空(そら)。




 「空か………、案外いいんじゃね??」


 母さんが呑気な声でそう呟いたが、素直に言って同感だった。ペガサスって空飛ぶイメージがあるし、ピッタリな名前だ。この名前が気に入ったのか、ペガサスも嬉しそうな表情をしている。


 「よし、今日からお前の名前は空だ!!よろしくな、空!!」


 俺はそう言って空の頭を撫でる。すると、もっと撫でて欲しいのか、空は頭を下げたので、更に撫でてあげた。なにこいつ、すっごい可愛いんだけど


 そして、その様子を見ていた母さんはそわそわしながら


 「な、なぁ、空。こ、こっちにもおいでぇ……」


 と言って、母さんも空と遊びたいのか、猫じゃらしを揺らしながら空を誘う。てか、猫じゃらし!?この子、ペガサスだぞ!?ナメてんのか、この人は!?


 しかし、空は猫じゃらしに釣られて母さんの所にパカラパカラと向かっていった。


 「お?」


 母さんはあることに気付く。


 「こいつ、よく見たら翼壊れてるじゃねぇか。」


 本当だった。よく見て見てると、片方の翼の構造がおかしかった。


 「だから捨てられたかもしれないね。………ママ、治せる??」


 と、父さんがボソッと呟いたあと、母さんの方へと見る。すると、母さんは犬歯を見せながら「へっ」と笑い


 「こんなの、余裕のよっちゃんだ。見てろよ、てめぇら。『上級回復(ハイヒール)』」


 母さんが呪文を唱えると、空の翼に優しい光が包まれる。そして、そのまま翼が変形し、徐々にもう片方の健全な翼の形へとなっていった。


 「うし!!これでもう大丈夫だろ。空、飛んでみ??」


 母さんの言葉で空は翼をパタパタとさせる。すると、空はゆっくりと宙に浮いたがそれは数秒の話だった。すぐにバタンと落ちてしまった。


 「まぁ、今まで飛べる状況じゃなかったもんな。飛び方は私が教えてやるよ」


 母さんはそう言って、空を優しく抱き締めた。空は嬉しそうに「ひひーん」と鳴いた。ドラゴンに飛び方を教えてもうペガサス………、なんかイメージしたらめちゃくちゃな状況だな。


 「ご近所さんに空のことを説明しないとな。明日、父さんがやっておくよ」


 「でも、ペガサスだぞ??」


 「安心しろ。僕と同じ、母さんに魔法かけてもらって人間の姿になればいい。」


 なるほど。人間の姿で過ごせば大丈夫なのか。てか、空の人間の姿って気になるな


 「というわけでマザー!!」


 「まっかせなさぁい!!」


 流石は母さん。話が早い。恐らく、母さんも父さんの言葉で、空が人間の姿になったらどのような感じになるのか気になったのだろう。すぐさま、空に魔法をかける。


 魔法にかかった空は光り輝き、徐々に人の姿へと変わっていった。


 そして、そこにいたのは








 全裸な美少女だった。








 「「「ふぁ!?」」」


 俺たち3人はマヌケな声を出す。


 空はどうやら雌(メス)だったようだ。人間の姿の空は身長は150ぐらいで顔は言わずもがな美人だった。髪は白くロングヘア。不本意で見てしまったが、胸は小さいが少なくとも母さんよりはあった。そして、背中からぴょこぴょこと翼が生えていた。


 「とりあえず父さん、ここから出ていこうか。ここは一旦、母さんに任せよう」


 「そうだね。じゃあ、母さん。空に服を着せてあげて。それまで、ちょっと隼人とコンビニでも行ってくるから」


 そう言って、素早くこの部屋から出ていった。流石に、これ以上、全裸の姿は見てられない。特に思春期の俺には刺激が強すぎる。生理的現象で俺の息子も少しだけ元気になっていた。


 俺と父さんはコンビニで時間を潰し、母さんから連絡が来たので戻って来た。


 「「おぉー!!」」


 そしてそこに立っていたのは、可愛らしい服を着た空だった。服を着ると、一層空の可愛さは増していた。


 「へん!!どうだ!!私のファッションセンスは!!」


 「凄いよ!!母さん!!ちゃんとファッションについて勉強してたんだね!!」


 「ったりめぇよ。私を誰だと思ってる??国を3つ崩壊させた終焉龍だぞ!!」


 「終焉龍万歳!!うぇーい!!」


 空の可愛さで変なテンションになってしまったが、よくよく考えると国を3つ崩壊させたことは自慢にならないな。あとで、お詫びとして黙祷しておこう。


 「ん??」


 気付いたら、空が、俺の服をつまんでいた。そして上目遣いで一言。






 「隼兄ぃ……………。」









 この言葉で、俺と母さんと父さんはズキュウゥゥゥゥゥゥゥンとなり、胸を抑える。天使や、天使がここにおる。



 そして、俺にはペガサスである妹ができた。

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