第10話
「いやっふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!」
チワワの姿である父さんは普段の生活では出さないような歓喜の声を上げて楽しそうに他の犬と走り回っていた。
今日はドッグランという所にやって来ていた。ドッグランとは、いわば犬の為にある広場みたいなものであり、他の犬と一緒に自由に運動させることができる場所だ。
最近、運動不足だと悩んでいた父さんの悩みを解消させるために母さんが近場にあるドッグランを見つけてきて父さんに勧め、今日、家族3人でやって来たということである
しかし、ここでアクシデントが発生していた。
他人の犬と楽しそうに触れ合っている父さんに対して、何か、母さんがめちゃくちゃ不機嫌そうな表情をしていた。
「あの人、他の雌犬と一緒にいて楽しそう…………」
そう、当然何十匹の犬がいるわけなのだから雌犬もいるのは自然のことである。今現在だって、父さん含め数匹の犬と一緒に行動しているが、中には可愛らしい雌犬もいた。
それを見て、母さんは嫉妬していたのだ。
「あ、あの雌のプードル、今パパに触れた??あの人に触れていいのは私だけなのに…………」
「あ、あの雌のダックスフンド、今パパの匂い嗅いだ??あの人の匂いを嗅いでいいのば私だけなのに………」
「あ、あの雌の柴犬、今、パパの事を舐めた??パパを舐めていいのは私だけなのに…………」
「ちょっと!!あの雌のゴールデンレトリバー、パパのこと誘惑してない??いい身体してるからって調子に乗りやがって!!あの人の夜の相手は私だけなのに!!」
あんたはヤンデレか何かかっ!!しかも、セリフが次第に卑猥になってきてるからやめろ!!
「ちょ、母さん。気を確かに………。」
「あぁぁぁぁぁあ!!あの雌のパグ、パパに吠えやがった!!一体どーゆー育て方してきてるんだ!!飼い主と一緒にぶっ殺してやろうか!!」
待て待て待て待て待て待てぇい!!それは洒落にならんからマジやめて!?ちょ、翼生えかけてきてるんだけど!!ダメだって!!あ、尻尾も!!どんだけ嫉妬してんだよ、この人は!?
「Hey、シロォォォォォォォォォォォォォォ!!!一旦、戻ってきてぇぇぇぇ!!」
あ、一応言い忘れていたが、チワワフォームの時で公共の場にいる時はシロと呼ぶようにしている。チワワで名前が剛志(つよし)ってなんだか似合わないしね…………。てか、父さんの名前って何であんなカッコいいんだろう………、チワワの癖に生意気だな。
俺の言葉のトーンで察してくれたのか、チワワフォームの父さんは急いで戻ってきてくれた。
「わん??」
わんじゃねぇよ!!喋れや
「わおーん」
わおーんじゃねぇんだよ!!雄叫びじゃなくて日本語話せや
「そぉしてぇ、かぁがぁやぁく」
ultra(ウルトラ)Soul(ソウル)、Hey!!じゃねぇんだよ!!はっ倒したろか!!
「そんなノリはいいから、早く母さんをなんとかしてくれ!!」
俺が指を指すと、ゴゴゴゴゴと交換音が出てきそうなぐらい殺気を漂わしている。もうすぐさま、パグと飼い主を殺しに行く勢いだった
「…………何があったんだい??」
「父さんが他の雌犬と戯れているのを見て母さんが嫉妬してんだよ。」
「それは早くなんとかしなくちゃね。おーい、ママ〜」
父さんが軽いノリで今まさに動こうとしていた母さんの方へ向かう。母さんは向かって来る父さんを見た瞬間、ぱあぁぁぁと喜びの表情をした後、すぐに頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いた。この人、なんなん!?
「おいおい、どうしたの??可愛い顔が台無しだよ??」
「ふ、ふん!!何よ今更!!どうせ、ドラゴンな私なんかより他の雌犬と一緒にいた方が楽しいんでしょ!!もう、あっち行ってよ!!」
母さんがほぼ半泣き状態で、ギャーギャー叫びまくる。子供かあんたは!!
「そんなことないよ。僕にとって君は大切な人さ。だから、安心して」
父さんが、母さんの膝でお座りポーズをして、可愛らしく微笑む。
「本当に??」
「本当さ」
「本当の本当??」
「本当の本当の本当に??」
「本当の本当の本当の本当さ。」
「…………じゃあ、許す」
「ありがとう、愛してるよ、ママ。」
「私もよー!!嫉妬なんかしてごめんねぇ!!」
そして、父さんと母さんはガシッと抱き合った。会話だけ見るならば、本来、感動するシーンのはずなのだが、どっからどう見ても幼い女の子にしか見えないやつとチワワが抱き合ってるだけなので感動要素がゼロなんですけど…………。
因みにさっき、通りかかったお姉さんに「あちら、妹さん??ワンちゃんと仲いいわねぇ」と言われた。
ごめんなさい、お姉さん。あれ、俺の母さんと父さんなんです。
その後は普通にドッグランを楽しみ、家に帰った。
そして、次の日、父さんは全身の筋肉痛と寝不足で仕事を休んだ。
ドッグラン程度なら余裕であるはずなのだが、話を聞くに昨晩の夜の大運動会で母さんの勢いがとんでもなかったらしく、朝までハッスルしていたという。いや、母さん普通に今、何気ない顔で朝飯作ってますけど!?
「もう母さんを嫉妬させるような行動は控えなきゃな。身体が持たないや」と父さんはHAHAHAと笑っていた。
この話を聞いて、俺はニコニコとしながら、とりあえず筋肉痛で動けない父さんの身体中をつついてあげた。
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