第7話

 「いらっしゃいませー」


 1週間前から俺は家の近くにある喫茶店『きらら』でアルバイトを始めた。始めた理由は、ただお金が欲しかったのと、前々から喫茶店で働いてみたいと思っていたので、思い切ってやってみた。


 いざ、やってみると案外、楽なものだった。基本的に注文はコーヒーだけだし、コーヒーマシンのボタンをピッと押すだけでコーヒーはできるから、すぐに提供に行ける。俺にとってはまさに天職そのものだった。


 しかし、あることを除いて………


 「隼人くん、どぉ??仕事は慣れたかい??」


 店内を掃除している途中で、1人の女性が俺に声を掛けた。彼女の名前は角田(つのだ)梨花(りか)さん。通称、つんさんだ。この喫茶店の店長である。金髪にロングヘアでいつも穏やかな表情をしている。とても親切で教え方も上手い。それに、胸がとても大きい。どっかの雌ドラゴンに少しでもいいから分けてあげたいぐらい大きい。


 そして、これは俺の思い込みだが、恐らくつんさんは人間ではないと思う。なんで、そう思うかって??じゃあ、教えよう。先程は触れなかったが、彼女の頭には二本の角が生えていた。


 もう〜、ビックリするよね。ここのバイトの面接に来たとき、初めてつんさんの角を見た時は言葉が出なかったからね。どうして、周りのスタッフさんは彼女の角を気にしていないのか謎である。


 「はい、つんさんの教え方のお陰ですぐに覚えれました」


 俺は笑顔でそう答えた。


 「ふふ、ありがとうね。うち、人数不足だから学生さんでも助かるわぁ」


 つんさんが可愛らしく微笑んだ瞬間、カラカラカラーンと、入口のベルが鳴った。


 「いらっしゃいま…………」


 「おーす!!隼人!!来てやったぞ!!」


 やって来たのは、母さんだった。しかも後ろには父さん(もちろん、人間の姿)も一緒だった。


 「すみませんお客様。当店は人間しか入店できないのでお帰り願います」


 俺はズバッとそう言って、帰るように2人を誘導させようとすると


 「馬鹿たれ!!客に帰れって言うやつがいるか!!」


 と言って、ボコッと俺の頭を叩いてきた。いや、めちゃくちゃ痛いんですけど。これって営業妨害で訴えてもいいんじゃないのか??


 「こら、母さん!!他のお客さんもいるんだからやめなさい。ごめんな、隼人。母さんがどうしてもって言うからさ」


 父さんが申し訳なさそうな表情で謝罪した。あー、なんとなく状況は察したわ。これ以上、なんも言わないでおこう。


 「へいへい、2人は禁煙でいいよね??こちらの席へどうぞ」


 俺はそう言って、2人を席に案内したあと、厨房から水とおしぼりを持って来て母さん達が座っているテーブルに置き、ハンディを手にして注文を聞く。


 「ご注文はお決まりですか??」


 「肉!!」


 肉!!じゃねーんだよ。ここは喫茶店だ、バカ!!肉を食いたかったら隣のガ○トにでも行ってろ!!


 「ごめん、母さん。ここは喫茶店だから肉は置いてないんだ」


 「マジか。じゃあ寿司で!!」


 いや、まずメニュー表見て!?メニュー表を見てから決めよ!?


 「母さん、まずはメニュー表を見てくれ。喫茶店に寿司なんか置いてあるはずないだろ。よく考えて」


 「分かった」


 母さんはテーブルの横に置いてあるメニュー表を手にしてじっくりと見る。そして、


 「じゃあ、塩ラーメンで」


 あんたは何を見てたんだ!!何で、メニュー表見て塩ラーメンが出てくるんだよ!!


 「いや、だってここに書いてあるぞ」


 「え!?」


 俺はすぐ様、母さんのメニュー表をひったくり隅々まで目を通す。


 すると、メニュー表にはマジックペンか何かで「塩ラーメン 450円」と書かれていた。


 いや、なんで書いてあるの!?俺、知らないんだけど!?


 「あ〜、言うの忘れてたけど塩ラーメン新メニューで入れてあるからよろしくね〜」


 つんさんがひょこっと厨房から顔を出して呟いてきた。そして、すぐに厨房へと戻って行った。


 てか、なぜ喫茶店でラーメンやろうと思ったん!?他にまだ候補あっただろ!!しかも、塩だけなん!?味噌とか醤油とかも入れとけよ!!


 「じゃあ、私は塩ラーメンで。パパは何にする??」


 「そうだね、このチョコレートワッフルを貰おうかな。あと、ホットコーヒーね」


 「へいへい、かしこまりました。少々お待ちくだせー」


 疲れ気味で俺はそう言って、伝票を出して厨房の方へと向かった。


 勿論、塩ラーメンの作り方は分からないので、俺はホットコーヒーとチョコレートワッフルを担当する。


 ワッフル機に生地を入れてボタンをピッと押す。その間にコーヒーマシンにカップをセットしてホットコーヒーを入れる。


 先にホッとコーヒーを父さんに提供して、すぐに厨房に戻り、ワッフル機から出来上がったワッフルを取り出す。


 そして上にバニラを何枚か山になるように積み上げて、その上からチョコレートソースを格子状にぶっ掛けて完成だ。


 俺は出来上がったチョコレートワッフルを持って、母さんたちのいるテーブルに向かう。


 「おまちどー様〜」


 「おぉー、これ隼人が作ったのか??凄いね」


 俺の作ったチョコレートワッフルを見て、父さんが目を丸くする。この前、軽い気持ちでチーズフォンデュを作っていた父さんに言われるとちょっと腹が立つけどね。


 「ふん!!こんなん、どーってことねぇよ」


 母さん、あんた、そんなこと言ってるけど自分の口元見てみ??よだれの滝だよ??


 「ママも1口食べるかい??」


 「じゃあ、あーんして」


 「しょうがないなぁ〜」


 おい、やめろ!!てめぇら!!こんな所でバカップルを発揮するんじゃない!!周りがニヤニヤして見てるだろ!!息子の身にもなってくれ!!


 「はいはーい、お待たせしました〜。こちら、塩ラーメンとなり………」


 美味そうな塩ラーメンを手にしてこっちに来たつんさんが母さんを見た瞬間、ピタッと動きが止まった。


 母さんもつんさんの姿を見て、「んん!?」と少し驚きの反応をしている。



 「お前、もしかして赤鬼(つん)か??」


 「私のこと知ってるってことは、やっぱり終焉龍(しゅう)さんでしたか。お久しぶりです。」


 どうやら、母さんとつんさんは知り合いだったらしい。

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