第6話

 今日は本当についてない。


 朝に目を覚ましたら、何故か知らんが母さんが布団に潜り込んでたし、降りる時に滑らせて階段落ちたし、英語の宿題忘れて課題が倍になったし、気付いたら定期券落としたり………と悲惨なことが連続で起きてしまった。そして今は…………


 「おい、1年坊主。調子乗ってんじゃねぇぞ!!コラァ!!」


 学校で問題を起こしている3年生の怖い先輩たちに体育館裏で囲まれていた。理由はシンプルで、この先輩たちが生徒にカツアゲしていたのでやめるよう声をかけたら強制的に体育館裏に連行され、今に至る。


 「これは、痛い目に合わないと分からねぇみたいだな」


 体格の良い金髪の先輩が指をポキポキと折りながら近づいてくる。


 「金千歌(きんぢか)先輩は強いんだぞ!!ボクシングで何回も優勝してるんだぜ!!」


 と、下っ端的な先輩がその金千歌先輩の強さを自慢していた。おい、金千歌先輩、ちょっと褒められたからって嬉しそうな顔をするんじゃない。


 「なんだ、ビビってんのか??今なら財布渡したら見逃してやるぜ??」


 金千歌先輩がニヤニヤしながら俺にそう言ってきた。冗談じゃない。今日、持ってきたお金は学校終わったら笹島くんとカラオケ行くお金なんだ。こんな所で、先輩たちのゲーセン用の金になってたまるか!!


 「嫌です」


 「んだとぉ!!このクソ野郎がぁ!!」


 ブチ切れた金千歌先輩は、俺に殴りかかってきた。本来だったら、これを喰らい無様に吹っ飛ぶところがオチなのだが、


「え??」


 俺はそれを余裕で躱した。金千歌先輩や周りの下っ端たちは目を丸くして驚いていた。


 「兄貴!!今のはまぐれですよ!!殺っちゃえ!!」


 「お、おう!!調子に乗ってんじゃねぇぇぇ!!」


 下っ端の応援で、気合い入れて再び俺に殴り掛かる金千歌先輩だが、俺はそれを再び余裕で躱す。


 「なっ!?」


 なぜ、俺が金千歌先輩の攻撃を躱せているのか不思議そうな顔をしているな??ふっ………。だったら教えてやるよ。


 幼い頃から、悪さした度にドラゴンの母親に猛スピードでパンチやビンタなどを喰らい続けたんだ。そんな一般ピーポーの出す攻撃なんて今の俺にとっては止まっているかのように見える。なんだったら、金千歌先輩の攻撃なんて今日こカラオケで何を歌おうか考えながらでも余裕で躱せる。


 「くっ!?なんなんだ!!こいつは!!」


 しばらく躱し続けると、息があがり攻撃をやめた金千歌先輩は不思議そうに俺の方を見る。


 「もう、いいですか??昼休み終わっちゃうんですけど」


 「ふ、ふざけんじゃねぇ!!おい、てめぇらも入れ!!こいつ、殺るぞ!!」


 「「「はい!!」」」


 今度は、下っ端たちも「おぉぉぉ!!」と雄叫びをあげながら俺の方に駆け寄り、殴りかかってきた。


 ひょいひょいと、俺は360°から殴り掛かってくる拳を余裕で躱し続ける。


 俺は躱すのを飽きたので、少しだけ反撃っぽいことをすることにした。


 と言っても、隙ができた瞬間に相手の足を引っ掛けて転ばすっていうめっちゃ地味な反撃だけど………


 そして、俺は何人かの足を引っ掛けて転ばしたりなどして時間を潰していると


 「こらー!!てめぇら!!何をやっとる!!」


 生徒指導部の先生が鬼のような表情をして、ズシズシと近づいてくる。そして、目をギランとさせた俺はそれを図ったかのように殴りかかってきた金千歌先輩のパンチをわざと喰らっておいた。「うわぁぁぁぁぁ(棒)」と言って別に痛くもなかったが、大袈裟に吹っ飛び、泣いているような声を出して、痛そうにバタバタ動きをしていた。


 「なっ!?」


 「おい!!金千歌!!暴力はやめろと何回も言ってるだろうが!!」


 「お前もしかしてわざとやりやがったな!!」


 もちろん。お前らと一緒にされたら困るのでな


 「何を言っているんだ!!早くこっちに来い!!お前らもだぞ!!」


 ひょいと、金千歌先輩を掴み連行する生徒指導部の先生。金千歌先輩はじたばたと暴れるが、ビクともしなかった。周りの下っ端も大人しく後から付いて行った。


 「おい!!犬龍!!大丈夫か!!」


 英語の担当である松本先生が心配しているかのような表情で俺の方に駆けつける。何で松本先生!?ここは普通、来るのは担任の山田先生だろ!!何やってるんだ、あと人は!!


 「大丈夫………です。」


 「よっしゃ!!おい、桜木!!俺、こいつの家族に連絡するから、保健室に連れてってやれ!!」


 「あ、はい」


 松本先生は、女子生徒に俺を渡し、急いで職員室の方へと向かった。何なんだ??あの先生は………。とてもいい先生じゃねぇか


 あと、よく見たら桜木と呼ばれていた女子生徒は先程、金千歌先輩にカツアゲさせられそうになっていた人だった。


 そして、そのまま俺は痛がっているふりをして、桜木さんに保健室まで連れてって貰った。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 「うーん、特に目立った傷はないわね。少しだけ横になってなさい。桜木さんはどうする??」


 「ここにいます。」


 「そう。私は担任の山田先生に伝えてくるからここよろしくね」


 保健室の白城(はくじょう)先生は、ウィンクをして保健室に出て行った。


 保健室の中ではベットで横になっている俺と側でじっと俺を見つめる桜木さんだけになった。しばらく沈黙が続いている。うん、普通に気まずい。


 ここで俺はさりげなく桜木さんのことを見てみる。苗字通り、桜のような色をしている髪型でロングヘアー。身長は160ぐらい。顔はとても美人であり、メガネをかけていた。


 そして、1番のポイントは桜木さんの制服のリボンだ。リボンが赤い。ここの学校の制服のリボンは1年は黄色、2年は赤色、3年は青色という決まりがある。つまり、彼女は2年生だということであり、先輩であることだ。

だからこれからは、俺は彼女のことを桜木先輩と言わなければならない。


 「ごめんね………。」


 桜木先輩が申し訳なさそうに弱々しく声を出した。よく見ると、目には涙も溜まっている。


 「だ、大丈夫ですよ!!これくらい、痛くも痒くもありません!!」


 事実、本当のことである。


 「無理しなくていいよ。だって、あの金千歌先輩のパンチだもん。痛くないわけないじゃない。」


 いや、無理してませんし、本当に大丈夫ですよ??


 「本当にごめんなさい。」


 そう言って、桜木先輩は頭を深く下げる。そして、ヒクヒクと泣いているかのような声を出す。見てて気まづい。


 俺は、はぁ~と溜息をついて桜木先輩の頭に触れ、優しく撫でる。あ、とてもいい匂いする。なんのシャンプー使ってるんだろ………ちゃうちゃう!! 目を覚ませ!!俺!!


 「え??」


 桜木先輩は驚いた表情でこっちを見る。そりゃ、そうだ。急に後輩に頭なんか撫でられたら誰だって反応するに決まっているだろう。それを分かっていて俺は優しく微笑みをしながら、


 「それより、先輩の方は大丈夫でしたか??多分、怖かったですよね??」


 と、言うと桜木先輩はガバッと俺の方に抱きついてきた。え!?何!?やるの!?ここでやるの!?この人、大人しそうに見えて実は肉食系!?


 「怖かった……………」


 弱々しい桜木先輩の一言で、俺は我に返った。改めて見ると、桜木先輩は俺の胸でブルブルと震えながら泣いていた。


 そりゃあ、そうだろうな。だって、あんな図体でかい男性陣に囲まれて金なんか要求されたら誰だって怖いわな。あれで何も屈しない奴なんてどうせ両親が人間以外の何かしかありえないだろう。


 「隼人くん…………ありがとう」


 俺がよしよしと頭を撫でていると桜木先輩が上目遣いで俺を見てお礼を言った。ヤバイ、クソ可愛いんですけど…………


 このあと、戻って来た担任の山田先生と英語担当の松本先生と保健室の白城先生の3人に色々と事情を説明してたら、午後の授業が終わった。


 そして、解放された俺は笹島くんと2人でカラオケで3時間熱唱し、そのまま帰宅した。


 事情を先生から聞いた母さんはガチトーンで金千歌先輩の家族諸共に終焉をもたらしてやる!!と叫んでいたので俺と父さんで全力で止めた。

母さんが本気で動いたら金千歌先輩家族どころか、日本が終わっちゃう!!!冗談抜きで!!


 そして、寝る直前にピロンとスマホが鳴る。どうやらLINEが来たそうだ。送り主は桜木先輩だった。先輩に頼まれて交換したのだ。


 『助けてくれて本当にありがとう!!かっこよかったよ!!』


 そんな大したことやってないのにな………、と思った俺はお気に入りのチワワのスタンプを送って寝た。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 一方、桜木家では…………(桜木視線)


 「あ、隼人くんから返信きた。」


 スマホがピロンと鳴り、送り主を見ると隼人くんだった。嬉しくなった私は即、トーク画面を開くと、OKと書かれている看板を持っている可愛らしいチワワのスタンプが送られていた。


 ボブっとベットに乗った私は天井を眺めながら図書室帰りに、急に男性陣に囲れたあの時を思い出す。


 『おい、ちょっと金貸してくれや』


 『やめてください……』


 『貸さなかったら酷い目見ちゃうよ??いいの??』


 『うぅ………誰か』


 私は諦めて、楽しみにしていた小説を買う為のお金を渡そうとした瞬間、彼が現れた。


 『あのぉ、カツアゲは良くないと思います。』


 決してかっこいい登場では無かったが、私にとってあれは…………


 「本当にかっこよかったな………」


 ぼそっと呟いた私はハッとし、なんだか恥ずかしくなって、逃げるかのように布団に潜り込んだ。


 私はその日から、隼人くんを見かける度にドキドキするようになった。



 私、もしかして隼人くんに……………


 


 

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