第4話

 「あれ、父さん。珍しいね、休日で家の中で人間の姿してるなんて」


 休日の朝にリビングに出ると、普段はチワワで休日を過ごす父さんだったが、珍しく人間の姿でテーブルに座り、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。


 「お隣さんの斎藤さん夫婦にちょっと用があってな。どうやら、最近、農業機械の調子が悪いみたいで見てくれるようお願いされたんだ。」


 「マジか」


 斎藤さん夫婦とは、犬龍家の隣に住んでいる老夫婦のことであり、俺はこの2人に本当の孫のように可愛がって貰っていた。斎藤さん夫婦は、農業をやっており、近くに大きい農園があって昔はよく手伝いに行っていた。そして、収穫時期になると米やら野菜やら果物を大量に渡してくれる良き人達だ。


 「てか、機械なんて直せるのかよ」


 「もちろん。…………あれ?知らない??今、斎藤さん夫婦が使ってるやつ父さんが作った奴なんだぞ??」


 「初耳なんですけど!?」


 父さんはチワワの癖に何気に器用で何でも出来る。


 大工さん並に木材の扱いは何故か熟知しているし、料理も三ツ星がつくんじゃないかっていうぐらい美味しく作れる。

以前に、具材にドッグフードを使ったグラタンを作っており、恐る恐る食べてみたらほっぺが落ちるかっていうぐらい美味しかった。

あと、裁縫も完璧だ。この前に、暇だから作ってみたー、と言ってハイクオリティのウェディングドレスを作っていた。しかもたった半日で。その上に、機械も作れるだって??このチワワなんなん??有能すぎるだろ!!


 「隼人も一瞬に来るか??」


 「そうだなぁ、ここ最近、会ってなかったから行こうかな。」


 「そうか、分かった。午後の1時くらいからって約束してるからそれまでに準備をしておきなさい」


 「はーい」


 俺は気軽に返事して、2階に上がり、部屋の中に入る。今はまだ10時前後だ。学校の宿題をやろうと思い、勉強用具を出した瞬間、ある視線を感じ、顔をそちらの方に向けると………


 「母さん………、何やってるんだよ??」


 「ひょっ○りはんのモノマネ」


 「本当に何をやってるんだ、アンタは」


 母さんが俺の部屋の入口から無表情で顔だけをひょっこりと出して俺の方をガン見していた。確かに、今話題になっているけれども、それをやろうと思った意図を教えてくれ。いや、マジで


 「お前、斎藤さん夫婦のところ行くらしいな」


 「そうだけど」


 「じゃあ、これ渡しておいてくれない??」


 すると、部屋に入ってきた母さんは小瓶を俺に渡す。


 「これは??」


 「エルフの森の葉を使った長寿薬だ。」


 「それ、どうしたん??」


 「昔、知り合いのエルフに貰ったんだ。」


 「それ、絶対飲んだら何百年も生きれる薬だよな??」


 「エルフの森の葉を甘く見るな。何百年じゃない。何千年だ!!」


 「馬鹿じゃねえの!?却下だ!!却下!!なんつーもん、渡そうとしてたんだ!!」


 俺はそう言って、小瓶を下に叩き付ける。当然、瓶は割れて、中身の液体がびちゃあ、と床に広がった


 「てめー!!それ、貴重なやつなんだぞ!!何してくれてんだ!!」


 「母さんこそ、何、考えてんだ!!斎藤さん夫婦の寿命を伸ばそうとするんじゃないわ!!」


 「じゃあ、どうすんだよ!!斎藤さん夫婦には色々と頂いてるのにこっちは何もしてないんだぞ!!たまにはお返しとして豪華なやつ送りたいじゃん!!」


 何気に母さんも何かお返しをしてあげたいという気持ちはあったみたいだ。


 「じゃあ、旅行とかに誘ってみればいいじゃん!!」


 「それ!!採用!!」


 「採用なのかよ!!即決早いなオイ!!」


 母さんは「パパとちょっと相談してこよ〜」とルンルン気分になって父さんの方にスキップしながら向かって行った。


 今度こそ、勉強するかと思った時、下の方から母さんの声が聞こえてきた。早速、旅行の件について話し合うそうだ。


 「ねぇ、パパ。今度、今までのお返しとして斎藤さん夫婦を連れて異世界旅行に行かない??」


 俺はすぐに勉強用具を放り投げ、陸上選手並の速さで母さんの方に向かった。

異世界はマジでアカンて!!せめて、下呂温泉とかにしろよ!!


 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 「こんにちは〜。お待たせしました〜」


 道具箱を持った父さんと、俺は斎藤家に行き、インターホンを押す。すると、1人のおばちゃんが「はいはーい」と言って姿を現した。


 「あら、犬龍さんいらっしゃい。ごめんなさいねぇ、折角の休日なのに………」


 「いえいえ、大丈夫ですよ。斎藤さんには色々とお世話になってますし」


 「あら、隼人ちゃんまで来たの。いらっしゃい」


 「お邪魔します」


 斎藤ばあちゃんは相変わらず、ニコニコでとても優しそうな表情をしていた。

そして、奥からは、斎藤おばちゃんとは正反対で、とても厳つく、鋭い目付きをしている白髪の斎藤じいちゃんが姿を現した。顔つきはとても怖いが、根はとても優しい老人だ。


 「おう。今日は本当にすまねぇな」


 「大丈夫ですよ。僕もそろそろこんな感じになるかなっていう予感はしてたんで。」


 「お、隼人も来てたんか。久しぶりじゃねぇか!!」


 斎藤じいちゃんはニカッと笑って、俺の頭を雑に撫でてきた。


 「うん。久しぶり………って、じいちゃん痛い、!!」


 俺が斎藤じいちゃんの手を振り下ろすと、斎藤じいちゃんはガハハと豪快に笑っていた。


 「斎藤さん、機械の方見せてもらっていいですか??早く作業の方に入りたいので」


 「おぅ!!分かった!!車庫に案内するから着いてきてくれや!!」


 「父さん、なんか手伝えることある?」


 折角、来たんだ。何かやっておきたい


 「んー、こっちは特にないかな。」


 ないんかい。


 「じゃあ、今から私、農作業の方やるんだけど隼人ちゃん手伝ってくれるかしら??」


 俺の目の前に、マザーテレサがいた。


 「分かった!!」


 こうして、俺とばあちゃんは農園へ、父さんとじいちゃんは車庫の方へと向かった。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 「隼人ちゃんがいたおかげですぐ終わったわぁ。ありがとうね。」


 「いいって!!俺も楽しかったし」


 あれから俺とばあちゃんは農園へと向かい、草むしりや、田植え整理、野菜や果物の収穫などをばあちゃんとたわいない世間話をしながら行っていた。久しぶりだったが、幼い時にずっとやっていたお陰があってか身体がどうやら覚えていたらしく、スムーズにやることができ、作業は2時間ぐらいで終わった。


 「家に戻って、冷たいお茶でも飲もうか」


 「賛成。今日は暑かったからね」


 そして、すぐに斎藤家に着き、ガララと扉を開けると父さんとじいちゃんがいた。


 「あら、早かったわねぇ」


 「えぇ、どうやら中の電池が切れてたみたいだったのでそれを交換しただけですからすぐに終わりました。あとは他に異常がないかチェックしたぐらいですからね。」


 「剛志ちゃんったら、あんな大きいやつをバラバラに分解してすぐに元に戻すんだからすげぇよ!!」と興奮するじいちゃん


 「そんな大したことじゃないですよ。」と、照れるチワワ。


 「いや、大したことだろ。」と、ツッコむ俺氏


 「ということは、もう機械の方は大丈夫なんですか??」


 「あぁ!!バッチリだ!!さっき、起動させてみたが、すっかり元気になってたぜ!!」


 「そう、良かった。本気にありがとうね。犬龍さん!!」


 「いえいえ。斎藤さんには色々とお世話になってますから」


 それから、冷たいお茶を飲み、ばあちゃんが先程収穫したキュウリやらトマトなどを出してくれたので、それを食べながら喋ったりして時間を過ごした。


 「あ、そういえば来月あたりに旅行に行こうかという話になってるんですけど、良かったら斎藤さん達も一緒に行きませんか??」


 と、父さんが斎藤さん夫婦に午前の時に話していたお返しの件について話題を振った。もちろん、旅行先はこの世界のどっかだ。


 「いいんですか??」


 「えぇ。日頃から斎藤さん達にはお世話になっていますし。そのお礼として。そして………」


 父さんは、斎藤さん夫婦に近づき、小声で


 「妻がうるさいんです。どうか、一緒に来てやってくれませんか??」


 そう言って、父さんはニコッと笑顔でウィンクしながら、お願いをする。すると、斎藤さん夫婦はお互い見つめたあと、プッと同時に吹き、


 「ふふ、幸子さんがうるさいならしょうがないわね。是非、私たちもご一緒させていただこうかね」


 「そうだなぁ、幸子ちゃんの声はうるせぇからな。2人のために付いてってやるよ。ありがとな!!」


 斎藤さん夫婦が喜んでる中、俺と父さんは2人が見えないところでガッツポーズをした。きっとこの話を母さんが聞いたら、喜ぶだろう。


 来月が楽しみだ。

 

 

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