04 河川敷と左打ち
警察はそれ知ってんのかな、ということになった。
現実として縁側開けっ放しで
でも、失踪届けみたいなものは実は、出してもそれほど捜索してもらえない。明らかに事件性が疑われる状況でなければ、まあ家出でしょみたいな感じ。今回は車もなくなってるし、電源は入ってないけど携帯も持っていってる。財布も。いい大人がそれは自分で出掛けたんじゃないの、ということになってしまう。因みに家出は大体一週間くらいで戻ってくることが比較的多いらしい。
そこで私には不思議なことがあった。
それでさっきから、素振りしつつ思い出そうとしている――中塚がどこに倒れたかを。
中塚が殴られた場所に車があり、
あの殴打で出血がないとは考えられない。
「私が
「じいさんみたいなことを言うんじゃないよ……」
新ちゃんが出来損ないだ半端者だと言われるのは、霊との会話ができない
何しろ私は新ちゃんより空間認識能力が高いのだ。気付いたことは何でも共有しちゃうんだぞ。
「あのさ、視た映像が薄暗くて何ともアレなんだけど、犯人の身長に比べて、中塚の倒れてた場所が高すぎる気がすんだよね」
「高すぎる?」
「それに血溜まりも視た覚えないんだよな。だから中塚は多分、」
ここで、中塚の霊が新ちゃんに訴えたことを整理しておきたい。整理ったって、大した量ではないのだ。死者の霊の言うことは鬼切にも全部は聞き取れないことも多い。霊自体がまた、それほどたくさんの情報を含んでいない。
とにかく中塚(霊)が言ったことは次の通り。
練習行かなきゃ。
久し振り。
おれは正しい。
死者に鞭打つのもなんだが、本当に中塚だし、本当にうざい。うざいんだけどそれはそうとして、久し振りって何だ?
私と新ちゃんはそこから考えることにした。中塚と久し振りに会い自宅まで行く関係で、恐らく車の免許がある人物。
そこで中塚の自宅を確認したところ、これが、野球部員たちがよく自主トレをする河川敷に面した一軒家だった。恐ろしいことにあの部活バカどもは遅くまで学校グラウンドで練習したあと更に河川敷でダッシュとか素振りとかをするらしい。何時に家に帰っていつ勉強してんだよ。してねえか。そうか。
ちょっと取材すると、その河川敷にはOBもよく顔を出すとか、自主トレ終わりの野球部員たちのうちお気に入りの部員が中塚の家の庭先で麦茶を振る舞われたりするとかいうことが分かった。その話と地図アプリの空撮画像などを合わせて考えると、中塚宅は玄関前に半屋外のような屋根つきガレージがあり、ガレージを通り抜けて庭に入ると縁側に出会う。部員たちが麦茶を与えられるのはその縁側。開けっ放しで中塚が姿を消した縁側だ。
今回も縁側に誰かが来たのでは?
そこで野球部OBから左打ちを洗い出そうかという話になる。左打ちで、長期休みでも土日でもない平日に中塚宅に行ける、つまりこの近辺に住んでいるOB。活躍するレギュラー以外には目もくれないクソ中塚が家の敷地に入れるほどのOB。
現役部員からの情報は期待できない。昨日は中塚の可愛がっているエース級が揃って部活から直帰している。数学の小テストの追々試が今日あったからだ。追試じゃなくて追々試。出来はまあ、今日のあの顔見たら追々々試もあり得るな。
とにかくそんなわけだから、縁側麦茶イベントは昨日は催されなかった、と推定する。
翌日、該当しそうなご近所左打ちOBが絞り込まれた。
正直ちょっとびっくりした。最近は左打者が多いというし、そんなのたくさんいるんじゃないかと思っていたから。
当初私と新ちゃんは、野球部が毎年出している妙に金のかかったアルバムから、それらしい学年の左打者を探し出そうと思っていた。そういうものは図書館にちゃんと所蔵されている。
で、私たちが図書館に入ろうとしたとき、中塚を最後に見かけたという地理の牛島がちょうど出てきて、新ちゃんと少し立ち話をした。それが決め手になった。
野球部OBで甲子園に行った世代の四番だった蟹江が、赴任先でやらかしたらしい、という話だ。
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