無敵は……素敵!?
「……ふへ……?」
オーフェが話した最後に付いていた言葉に、俺は何度目かの間抜けな声を出してしまっていた。
何か、途轍もなくがっかりするフレーズが付いていた様に思ったんだが……。
「えー……っと……。俺はその異世界で、どんな能力でも使えるようになるんだよな?」
「ええ、その通りですよ? ただしその際、私が了承をした場合に限りますけどね」
俺の再確認に、オーフェは笑顔でそう答えてくれた。
でも、彼の優しいと思える言葉とは裏腹に、その内容は俺の期待を大きく裏切る様に思えた。
「あのー……それは異世界で生活する俺に、四六時中監視の目が付くって事なのか……?」
「ええ、大変不本意ですけれど、私が異世界で生活するあなたの傍に24時間就く事となります」
「俺が使いたいと思う能力は、いちいちオーフェの承諾が必要って事なのか?」
「そうですね。あなたが望む力を行使するに問題なしと判断した場合のみ、あなたはどんな力も使う事が可能となりますね」
「じゃ……じゃあ、俺が力を使いたいって思っても、オーフェが許可をくれなかったら一切使えないって事なのか?」
「当然です。あなたの能力は、言わば私の力を行使すると言う事なのです。私の許可なく使える訳が無いじゃないですか」
「ちょっ!? それってなんだよ―――っ!?」
幾度かの押し問答の後、俺は思わず叫び出してしまっていた。
確かに神の如き力を使えるってのは魅力だ。
何より能力の種類に際限がなく、使える能力は神と同等なんだからな!
でもそれも、オーフェの許可がいちいち必要となると話は大きく変わってしまう。
それじゃあ、オーフェが一切許可を出してくれなかったら、俺は最強のチート能力を全く使えないって事なんだからな!
「ここであなたにハッキリと言っておきます」
困惑する俺に、オーフェは挑戦的な笑顔を湛えて俺に説明を開始した。
「あなたはその異世界で、私と共にいる間は一切の外的要因で力尽きる事はありません。当然、戦闘や攻撃などで死ぬと言う事は有り得ません。また、戦いに際しても私の力を使う事が出来ます。それは『能力』とはまた違う、純粋な戦闘能力です。勿論、その攻撃力においても私の許諾が必要となり、真の力を解放する為には私の力添えが必要となるのですが。それ以外の行使したい異能力に関しては都度私に相談して頂き、そこから私が包括的に判断して、あなたに使用の是非を伝えます」
淡々と説明するオーフェの言葉が俺の頭に染み込んできて、俺は失望感を感じずにはいられなかった。
特殊な力「チート能力」次第では、例え異世界と言う世界でも面白楽しく過ごせるはず……だったんだ。
物語に登場する主人公達は、なんだかんだと言って楽しく異世界生活ライフをエンジョイしてるからな。
でもそれも、いちいち神であるオーフェに許可を貰わないといけないとなると話は大きく変わってくる。
下手をすればどんな要望も却下されて、俺は結局何の能力も持たないに等しくなってしまう。
……もっとも、絶対に死なない、殺されないってのは安心出来る能力ではある。
それに、武術に全く明るくない俺の運動能力と知識を考えれば、ある程度の戦闘能力があるのも安堵すべき情報だった。
それだけでも結構なチート能力なのかもしれない。
「……でも、何でいちいちオーフェの許可がいるんだよ……? それに四六時中俺と一緒だなんて、そんなに神様って暇なのか……?」
俺の質問はがっかりしたショックで、どこか拗ねた様なものになっていた。
勝手に抱いていただけだったが、期待が大きかった分その反動も大きかった。
「……暇……?」
でも考えなしで口にした俺の言葉に、オーフェはそれと分かる怒気を纏ってそう言葉を返して来た。
その余りに強い怒りのオーラで、恐らくは意識体であるだろう俺は、思わず吹き飛ばされて掻き消えるんじゃないかと言う錯覚を覚える程だった。
「……いや……あの……」
「こんなシステムとなっているのは、あなた方がこれまでにくだらない結果しか残していないからなのですが……そんな事も分からないんですか?」
怯える俺に、オーフェの静かな怒りは言葉となって俺に突き刺さって来た。
「過去にあなたの先達たちが、その望むままの能力を与えてやったにも拘らずこの
確かに、未だに攻略されずに残っていると言う事はオーフェの言った通りなんだろうな。
でも、そんなに攻略が難しい設定とは俺には思えなかった。
それに、望むままのチート能力が与えられるんなら、攻略はもっと簡単な筈に思えたんだ。
―――その時の俺は、この異世界に設定された「落とし穴」にまだ気付いていなかったんだ……。
「と……兎に角、能力についてはそれで良いよ。俺としても今一つだけ選ぶより、神と同行して色んな能力が使える方が助かるしな」
未だに怒りのオーラが治まらないオーフェに、俺はそう告げて何とか話を終わらそうと試みた。
神の怒りってやつ程じゃないだろうけど、このプレッシャーを受け続けるのには、どうにも耐えれそうになかった。
特殊な能力は使用制限もあるけど、「絶対不死身」ならやり様はあるんじゃないか?
むかつく奴や目障りな敵、敵対国なんかも俺一人で倒して回れば良いんじゃないのかって考えたんだ。
「……これは失礼、少し取り乱してしまいましたね。それでは能力についてはそれで了承と言う事で、早速異世界へと赴く事になりますが宜しいですね?」
漸く落ち着きを取り戻したオーフェが、最終確認よろしく俺にそう問いかけて来た。
もっとも、俺にとっては良いも悪いも無い。
カエルも嫌だけど、現実世界に戻って“あの思い”をするのはもっとごめんだった。
だったら選択肢は一つしか無い。
「……ああ……」
俺は観念してそう呟いた。
「分かりました。それでは早速あなたを目的の世界へと転送しますね。安心してください、その世界で私も近くに居りますので、必要な情報はその都度説明差し上げます」
そう語ったオーフェの体が淡く光り出した。
その光は徐々に強くなり、俺も呑み込んで周囲を真っ白に変えていった。
「う……うわっ……!」
「それでは頑張ってくださいね。それからくれぐれも諦めないでください。あなたが諦めれば、その時点であなたは永遠にカエルとなりますので」
光に溶けていく感覚の中で、オーフェのその言葉だけが最後まで耳に残っていた。
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