4:イクスペクト
そんな最高の頭脳によって強度計算されたセラミックのピラミッドだが、素材は全て超耐久特殊セラミックと少しの接着剤で作られる。
接着剤は数百年で効果を失うから、セラミックの強度だけで建物の重さを支える設計だ。
直下型大地震は、タクラマカンの地盤なら起こらない。おそらく。
ピラミッドの入口を入ってすぐ、右側にある部屋は生物学の部屋だ。
まず最初に自己紹介をしよう。という事らしい。
もっともだ。
生物学的分類
地球 繁栄生物
第1期 恐竜全般
脊椎動物 主に爬虫類 翼竜
大型から小型まで生息と推定。
化石は出土するが、研究者は少ない。
ヒューマンが詳しい研究をしていた。
ヒューマンの映画に登場する。
第2期 ヒューマン
脊椎動物 哺乳類 サル目 人科
ホモサピエンス 人間
(霊長類、人、男女、知的生命体)
身長平均 約170センチメートル
寿命 最長で約100年と推定
約11万年前に絶滅
1万年ほど繁栄と推定
暦は西暦 約2000年で終了
第3期 ビースター
脊椎動物 哺乳類 猫目 人型2足歩行科
ビースタンスロープ ビースター
(霊長類、人、男女、知的生命体)
身長平均 約140センチメートル
寿命 最長で約50年と推定
約10万年前に絶滅
2000年ほど繁栄と推定
暦は獣歴 約1000年で終了
第4期 我々
節足動物 甲殻類六脚亜門 人型2足歩行科
イクスペクティエンス 我々
(霊長類、人、オスメス、知的生命体)
身長平均 約160センチメートル
寿命 卵100日 幼虫10年 繭1年
幼虫変態脱皮後 成虫10年
成虫変態脱皮後 完全体50年
薬剤接種完全体脱皮後 50年
約30年に1度の脱皮が一般的
寿命的死亡は回避可能
約1万4千年ほど繁栄 文明継続中
現在の暦は約10000年
《イクスペクト》
我々はヒューマンやビースターのような種族名を持っていない。
我々は我々だ。
ヒューマンにホモサピエンスという生物学的名前が付いているように、我々にはイクスペクティエンスという生物学的な名前が付いている。
だが、生物学者が名付けたわけではない。
レンガ文明考古学者が名付けた。
レンガ文明のレンガにこう書かれていたそうだ。
【発掘レンガ】
9140108 レンガ職人 トーマス・ホワイトベアー
私たちの文明は滅亡する。もう私たちの文明は滅亡したと言っていいだろう。
種として滅亡するのか、生き延びる者が少しでもいるのかは未知数だ。
私はこのレンガを最後に焼き、冬眠する。
食料は無い。再び起きる可能性は少なそうだ。
氷河期と核の冬が同時に来ている。希望は少ない。
遠い未来に地球が温かくなり、再び繁栄することがあるかもしれない。
どこかで誰かが生き延び、命を繋ぐことを願う。
我々の子孫よ、英知は残した。雪の中から掘り起こしてくれ。
その為のレンガだ。
だがもしも、私たちが絶滅し、地球上から消えたとしても、
いつか遠い未来に、新しい知的生命体が生まれるかもしれない。
その新しい知的生命体は、かつてないほど繁栄することがあるかもしれない。
新しい知的生命体よ、私たちのレンガを使ってくれ。
滅亡しないで歴史を作ることを、
私たちは期待している。
期待している。
期待、イクスペクト。
我々のことだ。
我々はビースターに地球を託された。
「オオタの功績がこのプレートに載ってるな。」ツキモトが言った。
2人は建設現場の横に作られた作業スペースにいた。作業は夜に進行する。
空には一面に星が輝いている。
セラミック記載内容最終確認部の仕事内容は、運ばれてきたセラミックの内容をチェックすることだ。
数字が記載されているものなどは間違いが許されないから、個別にチェックされる。
文学作品などはチェックしない。誤字は大きな問題ではないからだ。
「どれどれ。」オオタがツキモトのスキャンチェックしているプレートをのぞき込む。
「イクスペクティエンス。」ツキモトがレンガに刻まれた文字を読む。
「お、本当だ。」それを見てオオタが言った。
「我々はイクスペクティエンスである。」ツキモトがふざけた。
「自分の功績が1億年も残るっていうのは、気持ちがいいね。」
未来を夢見ながら滅びてしまった、悲しきレンガ文明、ビースター。
ビースターは新たな哺乳類の頂点を目指し、古代人であるヒューマンの科学文明の遺跡を掘り起こし続けた。
そして急速に科学文明を発展させた。
しかし、彼らの種が繁栄するには、あまりにも問題が多すぎたように見える。
地球は依然として氷河期の中にあり、大部分の大地は氷に閉ざされていた。植物は短い夏に命を繋いだが、地球環境の平均気温は低すぎたはずだ。
そんな自然環境の中でも彼らは、千年ほどをかけて文明を発達させた。
最初に小さなコミュニティーを作り、戦争や話し合いで徐々に征服や統合を繰りかえし、大きな国を作った。
世界中で同時期に高い知能を持ったのは、生物学的に猫目全般。
アメリカ大陸では犬や猫や熊が多く、ヨーロッパからアフリカ大陸では、ライオンや豹などの攻撃を好む種からの進化が目立った。
肉食種と雑食種、草食種が共存し、道具を発達させていった。道具の発達は戦争の為であり、勝つための武器開発の為であった。
彼らの世界は戦争が絶えなかった。
脳の進化も平均で見れば低能であり、知能発達の進化が急速な文明発達に追いついていなかった。
早い段階で知的進化を果たしたのは主に犬だった。数学者や文明機械の開発者の大半を犬が占めた。
しかし、国の代表や軍の上層部に選ばれるのは、力のあるライオンや熊などの強者であった。
彼らの科学文明は、犬に依存しすぎていたにもかかわらず、リーダー達はそれを理解していなかった。
彼らは寿命も足りなかった。
体を大型化し医療技術を駆使しても、1個体20年から40年程度の寿命では、いくら優秀な指導者が表れようとも、社会を安定発展させる仕組みを組み上げることは出来なかった。
優れた指導者の下での安定した社会の発展には時間が必要だ。指導者が数年でコロコロと変わってしまっては社会は不安定になる。
優れた指導者が500年間、同じ方針で国を統治するのと、5年間だけ統治するのとでは明らかな違いが出る。
彼らには寿命的な時間が足りなかった。
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