第9話 彼の睾丸が風に揺れているのがわかる

「ぷっはぁ~青空の下で飲むホワイトミルクは格別に美味しい」


「まさか、本当にやりきるとはな…」


「真紅の魔女がいなければ失敗していたかもしれないけど…ね。

 まだまだ私には修業が必要ということだってことはわかった」


 黄金の椿ちん牧場で採れたてのホワイトミルクを一気に飲んだ私は、口の周りに着いたホワイトミルクを拭って目の前に佇む銀髪の青年に微笑んだ。

 彼は私のことを頬杖を突きながら呆れた目で見ていたが、私が胸を張ってえへんというポーズをとると思わず吹き出すように笑う。

 その穏やかな笑顔は彼がかつて魔王と呼ばれていたとは誰もわからないだろうと思えるほど素敵な、さわやかな笑顔だった。


 あの時、真紅の魔女の記憶が流れ込んできたすぐ後、私は体に流れ込んできて限界ギリギリまで膨らんだ乳房の中の魔力を、その巨大に膨れ上がった乳房の頂点に聳え立つ小さな出口から徐々に解放しながら少しずつ術式を組み上げた。


 それは、世界を破壊してしまったり、混乱に陥れてしまうかもしれない危険な魔法。

 成功するかは賭けだった。でも、きっと成功する…そう信じて私は造り上げた『人間が人間を認識する範囲を少し広げる』というこの時点から終わりのない未来永劫人間の認識を歪め続ける精神魔法…。


 強大な魔力をすべて放出して描いた空を覆いつくすほどの魔方陣。

 あれだけ膨れ上がっていた私の両胸は、空っぽの革の水筒を押しつぶしたみたいに皮だけ余ってペタンコの状態だ。


 掲げた腕が疲労によって下に下がりそうになるのを必死で耐える。ここで腕を下げたらギリギリ維持できている魔法がどうなるかわからない。

 あと一歩…そう思った瞬間私の両腕は疲労と扱う魔力の大きさによる負担によって血が噴き出てバキバキと不穏な音を立て始める。

 無言で焦る私の腕を誰かが撫でた気がした。誰かに撫でられた手からは痛みが引き、私は無事に魔方陣を書き終えることに成功する。

 一体なにが起きたのか確認してみたけれど、みんな手をつないだままだ。そうじゃないとこの魔方陣は崩壊しているはずなので誰かが手を離したはずはない。じゃあ、私の手を撫でたのは一体…と視線だけど動かすと、視界の隅を綺麗な金色の髪の毛先が蠢いているのが見える。

 そうか…真紅の魔女は髪の毛の長さに魔力を蓄えて…。


「届いて…私の願い…」


 真紅の魔女の助けのお陰で無事に描いた魔方陣を発動する。

 大空を覆っている魔方陣は眩く輝きだし、まるで世界に光の雨が降り注ぐように魔方陣から零れた光が地上に降り注いでいく。


 世界が青白い光に包まれて何も見えなくなって、それから元の色に世界が戻ってもしばらく、私たちは無言でずっと手をつないでいた。


「私の物語はこれが終わりじゃなくて始まりなんです」


 そういうと、真紅の魔女はふわりとやわらかく笑って「そうだね。これからも君たちが紡ぐ物語を楽しみにしているよ」と言って煙のように消えた。

 それからはお茶会の誘いをしても、例の部屋へ行こうとしても彼女とは会えずにいる。

 でも、きっと彼女はどこかであの不思議な光の板を通して私たちを見ていてくれているのだろう。一人で優雅に紅茶のカップを傾けながら。


「ココノクッキーモ オイシイデスヨ」


 やけに甲高い声でクッキーの入った籠を持ってきてくれたのは、私位の背丈の足首に目鼻口がついているような見た目の稀人の成り損ない…いや、今では人間に立派な稀人と認識されているフッティーという私と同じ年の少女だ。

 私が王立学園を卒業してすぐ、元魔物の領域にある土地に牧場を立てようといったのは私だった。

 学園首席、そして伝説のZカップの魔導拘束具ブラジャーの持ち主、そして世界を魔王の脅威から救って魔物に取り込まれた王子アウレウスを救った伝説の勇者という過剰なまでに積み上げられた私の属性は、荒れ果てた魔物の領域で復興もかねて牧場を営みたいという要求に対して莫大な資金を投入して貰えた。


 私が使った人間の認識を歪めた魔法のお陰で、どうやら魔王を倒したのではなく魔王と呼ばれた彼がどこかの滅びた国の王子アウレウスとされたことは少し笑ってしまったが、名前のなかった彼はアウレウスになりすまし、私と共にこうして牧場を営んでいる。


 広場では、牧場に取引をしに来た商隊の子供たちが、ピンクの肉塊に目玉を置いて適当な位置に手足をつけたような愛嬌のある稀人と楽しそうに戯れているのが見える。


 魔王…ではなくアウレウスは立ち上がると足元に巻き付けた布を揺らしながら私の方を見た。

 

「ありがとう…。お前のおかげで、俺達もあいつらも自由になれた。

 人間の認識を操作することを神様が許すかはわからないが、お前が例え間違っていると真実に気付いた人間たちに罵られても、俺だけはお前の味方でいる」


「そんな…」


 Zカップの魔導拘束具ブラジャーに包まれて永続的反重力魔法で少し浮いている彼の睾丸が風に揺れているのがわかる。

 私の胸は、彼の言葉にときめいて今にも張り裂けそうだった。


 あ…ちがう…ダメ…。最近忙しくてすっかり忘れてた。魔力の放出をしていないから胸が膨張して魔導拘束具ブラジャーに圧迫されて胸が痛いだけだ…。


「え…あっ…ダメ…出ちゃう!そんば…。

 みんなちょっと伏せて!ごめんなさい!」


 私は、みんなが地面に伏せたのを確認すると、魔導拘束具ブラジャーの背面のベルトを手早く外して乳房を露わにする。

今にも射出されそうな乳首から漏れ出る破壊の光を導くように私は腕を前に出し、手で三角形のような形を作る。


「お願い!真っすぐ飛んで!私のチクビィィィィム!」


 手で作った三角形の中を通った私のチクビ―ムは、すぐに上に方向転換をして空高くまで打ち上げられた。

 真っ青な空と、私の出した魔法のお陰で大きく穴のあいた白い雲を見てみんなは大きな歓声を上げた。


『寂しがりやで親切な真紅の魔女様へ


 貴女が大好きな紅茶のお供にと、私とみんなで美味しいお菓子を考えています。

 今度は、2人きりではなくて黄金の椿ちん牧場のみんなとティーパーティーをしませんか?

 どこにでもいて、どこにでもいない貴女がいつ来てもいいようにお待ちしています。 


 貴女の可愛い可愛いお友達の ウーデル・ラーブルムより』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

再臨!おっぱいが大きすぎる女勇者ちゃん 小紫-こむらさきー @violetsnake206

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ