第7話 黄金に輝く神々しい水魔法
「全てを穿て!
ホワイトミルクトルネードレーザァァァ!」
魔王の股間から放たれた猛烈な魔力の気配で意識がひっぱられる。
さっきの光景はなんだったのかを考える暇もなく、私は彼の股間から放たれた魔力の塊の直撃を回避するために体を捻って避ける。
白く輝く真っすぐな軌道は私がさっきまでいた場所を地面ごと抉りながら遥か彼方にある壁を突き抜けてどこかへ飛んでいった。
アレを喰らったらひとたまりもないな…と嫌な汗が背中を伝うのがわかる。
「アレを避けるとはな…。だてに表世界のZカップ保持者ではないということか」
まだ余裕のある魔王の表情で、彼が全力を出していないことはわかる。
「
彼の股間が金色の光を帯びていったかと思うと、黄金に輝く神々しい水魔法が床を抉りながらいくつも飛んでくるのが見える。
鋭利な床の抉られ方を見る限り…アレが切断系の魔法で私が出す魔法障壁では破られてしまう。
「なんの!私の
胸の谷間に設置した無限収納空間から、私は業物である一本の刀を取り出す。
柄の部分に鳥の羽の紋様を刻まれたこの刀は、その刃が当たったところの魔法を無効化し破壊できるという貴重な剣だった。
私は前に飛び出し、彼の放った黄金の水魔法を切り伏せながら彼へと近付いていく。
「近接戦闘を挑むとは、見直したぞ。
しかし…俺とて魔法だけではないのだ」
彼がどこからともなく取り出したのは一本の黄金の武骨な槍だった。
古代史の授業で確か見たことがある…アレは。
「
その顔は、この槍、
「その昔あったという椿という植物のように…相対した敵の頭を落とす魔性の切れ味の槍…その槍は見目より長く伸び、その刃は触れるもの全て斬り落とす」
「…上出来だ。この槍、
風を纏いながら、その軌道の空間丸ごと切り裂くように伸びてくる槍の一撃一撃を躱していく。が、やはり魔性の槍、
頬や腕、腹が微かに傷つき熱を伴った痛みがジワジワとこちらを焦らせていく。
このままでは競り負ける…そう思った私は覚悟を決め槍を刀で受け止めたまま一歩、いや、二歩、三歩と前に出る。
一瞬焦った魔王の手の動きが鈍った瞬間、巻き込むような動きをした槍を跳ね飛ばそうと刀に力を入れると、私の刀と槍はものすごい勢いで空中を舞い遠くの方でカランカランと床に叩きつけられた。
私たちは武器が手を離れたと察知した瞬間、恐らく同時に後ろに跳び、お互いに距離を保ちながらにらみ合う。
且つてない強敵、その存在に心躍る自分がいるのを感じる。
それと同時に、きっと魔王である彼も同じ気持ちなのだろうということが不思議と分かった。
なぜなら、私と魔法を打ち合っている彼の顔は憎悪だけでなく僅かに楽しいという感情が浮かんているように見えたからだ。
「拡散チクビィィィム☆シャワー!!!」
私の胸の双丘の頂点からは幾筋もの青白い死の光が放たれて縦横無尽に辺りを焼き放つ。
魔法に耐えるための手が咥えてあるだろう壁や天井は崩れ瓦礫と埃で視界が悪くなる。
彼はやられていない…そういう確信をもって私は姿勢を低くしながら辺りを警戒する。
「自分の実力を確信しないのはいいことだ…」
背後から声が聞こえ、振り向こうとするが一瞬遅かった。
「だが、反重力魔法を睾丸にしか使えないと思っていたのは最大の過ちだな」
彼が近付いてくる物音がしなかったことを不思議に思っていたところを言い当てられ私はハッとする。
私の背後を取った魔王が腰辺りに当てた冷たい手の感触が服の上からもわかる気がした。
「さようならだ。お前とは、いい仲間になれると思ったんだがな」
少し寂しそうにそういった彼は、思ってるよりもいい男なのかもしれないな…なんて思った。
きっと、私みたいに親が捨てないでくれるとか、魔法使いが彼を見つけてくれて王立学校へ連絡を取ってくれたら彼は孤独になんてならなかったんじゃないか…そんなことを考えながら私の体を貫くであろう衝撃への覚悟を決める。
――― 貴女が何を求めてこの世界へ来たのかを思い出して
どこかで聞いた可憐な少女の声と共に脳裏に浮かんだのは、灯りの消えた無機質な空間の机の中に置き去りにされた一枚の紙。
『退職願
私儀
この度、一身上の都合により、誠に勝手ではございますが○○年○○月○日を以て退職いたしたくここにお願い申し上げます。
○○年○△月□日 株式会社 π凸 技術開発部リーダー 高橋 優』
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