第3話 太っちょマーニーからくすねたお菓子
「そうですね…ちょうどよかったです。
過剰供給されている魔力を消費するにはこの胸に施した永続的反重力魔法では足りなくなっていたところなので」
にこりと微笑んで、目の前で腰を抜かしている数人の先輩方を残っている方の目でしっかりと見下ろす。
ズルリと骨をむき出しにしながら溶けるように足元に落ちた私の腕の肉だったものを踏みつけるようにして一歩前へ出ると、ガラス玉みたいな私の目玉だったものが靴へあたり、先輩たちの方へ転がっていった。
転がる目玉だったものに怯えてお尻を床に着けたまま移動しようとする彼女たちはとても滑稽で私の口角は自然と吊り上がっていく。
声を出して笑い出しそうになるのを抑えながら、卸したての真っ白な靴の縁に赤黒い化粧が施されるのも気にしないで、私は先輩方と目を合わせるために屈みこんだ。
「私、腕一本の再生…それに、目玉一つの再生なんてことも出来るんですよ。
知らなかったですか?
それとも、目の前で見たかったからこんなことしたんですか?ね、せーんぱい」
残っていた血まみれの骨を肩から抜き取って振りながらそういうと、彼女たちは顔をひきつらせた。
「ヒィ…ば、化け物」
「もう…失礼ですね」
ズルり…と粘着質な音をたてながら生えてきた綺麗な新しい手で失った方の目を隠していないいないばあをするように見せてみる。
遠近感が元に戻った視界でしっかりと、目の前にいる私に拷問魔法を使ってきた先輩たちを見つめて年相応に可愛らしく頬を膨らませてみる。
何の反応もないので、手に持っていた私の腕だった骨で彼女たちの一人、赤髪の狐みたいな顔をした女生徒の頭を撫でると、声にならない悲鳴を上げながら口から泡を吹いて眠ってしまった。
次は何をしてやろうか…と残りの三人の先輩たちのお尻の辺りを見てみると、情けないことに異臭を放つ液体を漏らしてしまっているようだった。
これで十分だと理解した私は、可愛らしい先輩方に対して優雅に胸元に手を当ててお辞儀をする。
先ほどまで食べごろのブドウのように弾力のあったはずの胸は、身体再生をしたお陰でやわらかな水の抜けた革の水筒のようになったようだった。
「楽しい身体再生ショーを見たいならまたいつでも禁忌の呪文を使ってくださいね。
先生方には黙っていますので」
私は、先輩達の尊厳を守るために辺りの血や謎の液体、そして自分の服を水の魔法と風の魔法を応用した清掃魔法で綺麗にするとなるべく華麗に見えるようにスカートを翻しながら立ち去った。
ここまでしてやればもう余計なことはしてこないだろう。全く、飛び級をした後はこう言った自分の実力を弁えない先輩方が多くて困る。
微笑みを絶やさないまま心の中で溜息を吐く。
王立魔法学園に異例の8歳で入学し、14歳であっという間に最高学年である高等部6年生へと進級したのだった。
とはいっても、かつていたらしい伝説の勇者とやらは私より一つ若い年齢で入学をしたというのだから恐れ入る。
「かつての勇者の生まれ変わり」
「世界を救う新たな光」
そんなことを入学当初言われたせいで、私の実力を試そうとしてか、進級をするたびに先ほどの先輩たちのような真似をしてくる人たちは多かった。
最初こそ、初歩の火炎魔法や氷結魔法といった防御魔法さえ展開していれば避けられるようなものだったが、人というものはどんどんすることがエスカレートするらしい。
私が、魔力の浪費のために故意に防御魔法を複数常時展開しているとわかってからは、あの手この手で私のことを傷つけるために先輩方は趣向を凝らし始めたのだ。
大きくなった乳房と共に生産される魔力も増えてきたので消費する魔力は多いほうがいい。
魔力を大量消費する身体再生の魔法も自力でなんとか覚えた。
しかし、学園生活でいちいち言いがかりをつけられたり、先生方の目のつかないところで足止めをされるというのはなにかと面倒なのは変わらなかった。
キチンと表向きは可憐な年相応の少女を演じているにもかかわらず…だ。
うんざりしていた私は、先代勇者が生まれる以前から生きているらしいという学園の魔女とコンタクトを取れないか画策することにした。
まずは、その魔女とやらが存在するのかどうか確かめる必要がある。
学園に伝わる怪しげなうわさ話によると、どうやら魔女はお茶会が好きらしい。
それならやることは一つだ。
お茶会への招待状を送ってみようじゃないか。
『由緒正しい王立魔法学園に住まう真紅の魔女様へ
紅茶がお好きと聞きました。
願わくば、右も左もわからない私と楽しい2人きりのティーパーティーをしてくれませんか?
とっておきの紅茶とカップ、それに食堂の太っちょマーニーからくすねたお菓子を用意して草刈り月の滴の日から種の日に変わるころ、秘密の部屋でお待ちしています。
学園の可愛い可愛い葡萄色の髪の少女 ウーデル・ラーブルムより』
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