第2話 両親の大切な家が全焼

 そもそも、私が年齢に対してこんなに落ち着いているには理由がある。

 なんといっていいのかわからないし、頭がおかしいと最初は言われたものだが前世の記憶とやらが朧気ながら残っているのだ。

 私が覚えているのは、摩耗する日々、ディスプレイと呼ばれる絵と文字が移る板のようなもの、押すとその部分に描かれている文字が書かれるキーボードと呼ばれる器具…。

 狭いスペースの中で身動きすることさえ見張られ息が詰まる思いをしていた日々、そして灰色の空から飛ぶ視点、空を飛ぶまで灰色だったはずの空がいきなり青くなったこと、そして痛みと真っ赤な景色。


 こういった記憶の継承は魔力を無尽蔵に生み出してしまう体質の生き物にはよくあることらしく、他にも自分と同じような存在がいると初めて聞いた時は安堵した。

 もちろん、私の両親の安堵はそれ以上の物だっただろうというのは想像に難くない。


 最初の魔力暴走をしたのは物心ついた時、胸の皮がつっぱるような感覚と痛みが段々増してきた私は、耐え切れずに服を脱いで大泣きをした。

 すると、露わになった当時はまだ小さかった胸部から真っ青な光の束が発せられ縦横無尽に暴れたのだった。

 幸い、当時の魔力は大したことがなかったのか先祖代々受け継がれていた両親の大切な家が全焼するくらいの被害で済んだ。

 真っ青な破壊の光を見た当時住んでいた村の魔法使いが異常に気付き、王都にある魔法学園とやらに使い魔を飛ばし、わざわざ王都から辺境の国境堺にある村に魔法学園の偉い老人どもが速馬を走らせて半月かけて来た結果、私はどうやら本来は成熟をし、子を孕んでから母乳を作る機関から魔力を無尽蔵に作り出してしまう体質らしいということがわかったのだった。


 王立魔法学園から来たという老人は、私に魔導拘束具ブラジャーを手渡しながらこう約束をしてくれた。


「お嬢ちゃん、それに親御さん方聞いてください。

 この子は、かつて存在していた勇者様と同じ才能があるのかもしれない。

 彼女の力を抑える魔導具や、彼女が破壊したものについての責任は私たちが持ちます。

 決してこの子を見世物小屋に売ったり、捨ててはいけません…」


 その言葉と、王立魔法学園との間を行き来してくれる賢い梟、そして魔導拘束具ブラジャーのお陰で私たちは何度も住処を変えるお金や手段にも困らず、破壊した村や街へは王立魔法学園からの金貨や食料を施される約束のお陰で滅ぼした村の人々からもせいぜい罵倒や物を投げられるといった小さな被害だけで生きてこれた。


 しかし、暴走の頻度が上がっている上に、声に出すだけで文字を記してくれる魔法の紙も尽きそうだ。

 更に、大袈裟に記したとはいえ頻繁な移動と、安住の地が得られないといった焦燥感で両親は疲弊をしていた。

 王立魔法学園からもらった金で酒を浴びるように飲み、昼間はずっと寝ているといった生活を続ければ待っているのは破綻だろう。

 今は酒におぼれている両親も、小さな私をなんとか守ろうとしてくれてここまで育ててくれた恩は感じている。

 根は真面目な人たちだ。私という重荷がなくなり、根を下ろせる場所さえ見つかればきっと元のように生活を営み、新しい子供を何人か設けて平穏に暮らしてくれるだろう。


 私は、酔いつぶれて眠っている両親の顔を見つめる。

 白髪が増えた。父親は不規則な生活のせいか顎がたるんでいる。昔はもう少し精悍な顔立ちをしていると思ったのだがな。

 母親は反対に頬がこけて肌の張りがなくなっている。


 文字が読めない両親でも、きっと誰か女神教の宣教師や魔法使いに頼んで愛娘からの最後の手紙くらい読んでくれるだろう。

 王立魔法学園から返ってきた梟が持っていた声を文字にしてくれる魔法の紙の最後の一枚に向かって私はこう言って家を出た。


『おとうさんおかあさん今までありがとう。

 わたしのことは忘れてしあわせにいきてください』

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