8.あの手紙

※章の区切りの関係で、下校から別れるまでの時間が飛んでいます。読み難くなってしまい申し訳ありません。その下は次の話で書きます。




様々なことがあったその日も終わりに近づいている時、新しく買った本類を片手に道場へ立ち寄った。なんでも、もう殆どマンションの方は整理できてしまったらしいので、解かれていなかった行李の方も含めて荷物の整理を行う。

・・・こんな短期間でも、やれ裏紙用にいつか使うかも、と思った広告の裏紙とか、マートの袋とか結構な勢いで出てくる。不用品ナンバーワンだな。マートの袋は一応使えるが、顔見知りになったおばちゃんがオマケのつもりかごっそりくれたこともあって、なんのかんの50枚近くある。環境破壊だ。

「浪花君いるかな?」

そんな時、いきなりひょっこり部屋に顔をのぞかせたのは・・・忍川兄弟のどちらか。分かりやすい目印が欲しいよ。どっちも強いけど、布教を始める方か否かは大事ですよ。ある程度共感してしまったのがさらに恐ろしいのに。

「そうか、学校ここから遠いんでしたっけ。」

「はい。」

だから、どっちだ。

「これ弟から。私が迷惑かけたからとかなんとか。・・・それにしても、あの手紙ずっとそのままのようですが、封を開けないんですか?」

兄の方だったかと思いつつ、例の、霜月に送られて来た担任からの手紙の存在に行き当たる。確かに、そろそろ読んでも問題なさそうな感じだ。

「じゃあ、確かに渡しましたからね。それから、遅くなりましたけれどもAランク獲得おめでとうございます。あなたは確かに強者ですよ。」

「ありがとうございます。・・・でも忍川さん、俺別に強くないですよ。周りがいるから、頑張ってるだけです。」

「周りのために何かできるなんて強者の証でしょう。それでは、私も仕事布教がありますのでこの辺で失礼します。」

大量の栗と、開かずの手紙の存在を置いていった忍川さん。次にあの説教の餌食になるのは誰だろうと思いつつ、手紙の封を切った。


爺ちゃんの字だ。すごく懐かしい匂いのするそれは少し茶ばんでいたりして、当然だが、かなり前に書かれたことを物語っている。

『爺ちゃんだよ〜って、歳でもないよね。雅都がこれを読むのは確か、もう高校三年生になっていて、入学式のある日の放課後のはずだから。

でも、中々実感が湧かないんだよ。隣にいるのはまだ小学生の雅都だからね。でも、この子がこの後何年も苦しい思いをすることも、それから今、懐かしい仲間たちと再会し、その子達を守るために、自分自身を守って来たものを突き崩した後だということは知っている。驚いたか!

それから、気になっているかもしれないから雅都の簡単なルーツについて少しだけ書いておくことにしようかな。

爺ちゃんは昔それはお転婆でね?浪花姓は雅都のおばあちゃんに当たる人と駆け落ちして、勘当された時に作った苗字なんだよ。』

ちょっと待たれい。爺ちゃん何しとんだ。というか、これ書かれたのってそもそも十年とか前だよな?・・・・突っ込みたいところは色々あるとして、とりあえず先を読もう。

『そのおばちゃんにあたる・・・金月沙織さんっていうんだけどね、彼女は爺ちゃんとは比べものにならないくらい身分の高い人で、こっそり付き合ってたのがバレると大変なことになってね。それで爺ちゃん、闇に乗じて物凄い美女だった彼女をさらっていったのさ。』

爺ちゃーん!何してんの?それ立派な誘拐では?俺が言えたことでもない気がするけど。

『爺ちゃんの真似はしちゃいけないけど、これまで沢山、辛いことがあったんだから、これから先の人生を楽しんでもバチは当たらないよ。


どんな特殊な力を持っていたとしても、触れられるのは今ある時間だけということに変わりはない。爺ちゃんがしてやれたことの限界は、ちゃんとした家、皆んなで住める家を残すこと、大学までのお金を用意すること、それから死期を悟った時に以前の君・・・今爺ちゃんの横で寝息を立てている君を知る先生に、見守るようお願いすることくらいだった。でも、今を生きている雅都は違う。自分のためにできることをちゃんと考えて、最善を尽くすことができる。

いいかい、他人が幸せにしてくれるのを待っていたらいけないよ。他人に人生を委ねてはいけない。大好きになったお姫様を攫うのも、勘当されるのも、会社に勤めることも勉強することも、自分がしたいことでないなら愚かなことだ。自分がどうしたいのか、その想いに正直になること、一生涯を共にすることになるだろう、素敵な出会いにも恵まれた今こそ、自分に正直になることが必要だよ。いいね。(駆け落ちしろって言ってるわけじゃないからね!)

じゃあ、この辺で。いつも君の幸せを願っていることを忘れないでね。爺ちゃんより。

追伸 この手紙を永久保存版にしようと考えるのはいいけどね、恥ずかしいから誰かに見せちゃダメだよ。

追伸その二 多分まだ数枚あるから、見逃さないように。』

確かに封筒にはもう一通、元担任の先生からのものもあって、そこには、できる限り干渉しないようにしていた旨と、俺を労わる言葉が連なっていた。

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