*君の日常

彼はその後、朝帰ると私の布団で寝ていることが増えた。合鍵まで手に入れた上、さらにいつの間にか、仕事関係ばかりの連絡帳の中に、すぐには バレないよう自分のを紛れ込ませたくらいのやつだから仕方がないとは思いつつ、それでもその都度家に帰れとは言う。・・・言うのだが、私に迫力がないせいか、食事まで出しているせいか、ずいぶん舐められている気がする。

「今から寝るのか?」

「まだ早いから、しばらくしたら。」

「あっそ。」

そんなことを言いつつ朝の四時だ。帰る時間を把握し始めているらしい。夕方五時に家を出るときにはいないから、一応学校には行っているのだろう。

「・・・今日は何かあったのか?」

「昨日だけどな。いつも通りだよ。・・・西條って小ちゃいやつが、ヤンキーみたいな八重川って言うのと取っ組み合いになって。でもその勝負、いつも決着が付かないんだよな。」

八重川、何をやっているんだ・・・子ども相手に、というよりは名門のお坊ちゃん相手に・・・そのうち捕まったりしたらどうしよう。

「でも、この間立て続けに三回、変な連中が学校に来てさ。一回は西條を狙ってたらしくって、こっちが見ていて可哀想になるくらいズタボロにされてた。浪花と久松、いつもは喧嘩ばっかしてるのに、そういう時だけは息が合うんだよな。」

少し寂しげに笑う鮒羽は、この部屋に来るたびに霜月組の話をしてくる。そんなに気になるなら声をかけてみればいい、と言うと、ただ首を振るだけで理由も話そうとしない。

「でも、この間のはすごかったんだよ。うちの学校、アニメの主人公みたいなやつがいるんだ。まさか、高校生のポケットから銃が出てくるとは思わないじゃん?」

「え、銃?」

「そうそう。もう何回か来てる浪花目当ての不良・・・の格上っぽい連中だったんだけど、そいつら浪花とか、あとから加勢してきた久松や神田に勝てないってわかると、銃ぶっ放したんだ。それを、後ろで控えてた八重川が銃だけを狙って一撃。すごいよな。」

・・・・・警察官の立場からするとそれはいささか微妙な情報だ。八重川よ、一体お前に何があった。

「しかも向こうはバットとか刃物持ってるのに、八重川と神田はともかく他は皆んな素手だからな。映画のワンシーン見たいで、子どもが見たら泣いて喜びそうな所なんだけど・・・西条はそうでもなかったらしい。」

子供って言っても、多分二十歳そこそこだし。どちらかというと参戦したがったんじゃないか?まあ、たぶん知らないんだろうけど。

「それで警察沙汰になって・・・もしかして、松永って人知ってる?可愛い系の。」

「知ってるも何も。同期だよ。」

「あいつらも知り合いだったみたいで、伸びてる奴ら放ったらかしてのほほんとしててさ。なんか襲撃して来た方が可哀想な感じだった。」

そんなに楽しそうに話すくらいなら、少しでいい、距離を詰めてみればいいのに。特に神田や浪花は気にしないだろう。少なくとも、普通に生きることすらできない非社交的な私のところへ来るより、余程楽しいはずだ。

「黒部、もう話しかけてみろ、なんて言うなよ。別に気を遣ってるわけじゃない。爺さんとの約束だから。その約束だけは破ろうとは思わない。」

壁に立てかけてあった花子(人体模型)を膝に乗せて遊びながら、もう少しだけ居させろと言ってくる。私だって朝の五時に追い出すほど鬼ではない。明日はちゃんと家に帰れと言いつつ、弁当やカップ麺じゃ健康に悪いので、浪花を見習い食事を用意してやる。

なぜかそのたびに変な顔をする鮒羽だが、取り敢えず口に合わないことはなさそうなので良しとしよう。

「・・・本当に家に帰れって思ってんのかよ。」

「明日は帰りなよ。」

本格的に眠くなって来て、そのまま寝落ちした。本格的に絆される前に、なんとかしなければ。

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