一人部屋にて ①
霜月学院を卒業していった人たちのことは、本当のところよく知りません。善良で信じやすく、 自分の魅力にまったく気づいていない人以外は。
僕は確かに、実年齢で中学生の時あたりから拾われるこの年齢まで警察の管理下に置かれ、外に出ていなかったことは事実ですし、ほぼ浦島太郎状態であることに間違いありませんが。それにしても、普通気付きませんかね?僕の中身がいわゆる「オーバー二十歳」だってことくらい。
最初に勘付いたのは多分久松さんでしょう。明らかに胡乱げな目を向けてきましたが、なり切っているとしょうがないという顔をして、黙っていることに決めたらしいです。次は言わずと知れた八重川・・・忌々しい。
「どうした、小さいの。顔怖いぞ。」
「うるさいですよ。」
「取り繕うのもやめたのか。」
「浪花さんがいないならその必要ないですし。」
久松さんとの身長差は一体どれくらいでしょうね?羨ましいことこの上ないですけど、人の思考がだいたい読める、つまり脳の発達の方に全精力注がれちゃったわけですから、肉体の成長の早さが二十歳に至るまで人の二分の一くらいだとしても仕方がないです。僕の両親は・・・まあ、父親に似さえすれば背は高くなるはずです。・・・少なくとも、平均くらいは。
「それから、小さいのってなんですか。あなたが大きすぎるだけですよ。」
「浪花と同じこと言うよな。」
爽やかに笑ってまた勉強に戻る久松さんは、今は僕と浪花さんが使っていた部屋にいて、寂しくないかとかいらん気を使ってきます。どちらかと言えば八重川の方が大丈夫かなって感じなんですけどね。・・・だって、倒れそうな勢いで頑張っちゃってるんですもん。僕の立場と違って、明らかに八重川は守られるだけの存在じゃない。それはちょっと羨ましいんですけどね。
「あいつが知ったらどう思うだろうな。」
「何をですか?」
「お前の実年齢。」
「変わりませんよ、たぶんですけど。」
「まあ、あいつはな・・・」
実際、変わらないでほしいです。ナンパかと疑うような声をかけて来た不審者、それなのに、全て受け入れた上側にいてくれ、しかも護衛としてずっと一緒にいてくれると言ってくれた。秘密も嘘も咎めることなく、ちょっと(ものすごく)びっくりした顔をするだけで、結局いつもと同じように笑って優しく撫でてくれた。この歳でなんだとは思いますが、本当に兄がいたならこんな感じかと思ってしまいます。それくらい優しくて、本当に大切にしてくれていて、(なんとなく弟ポジションにされていますが)誰より好きな人です。でもきっと、本当のことを言ったら困惑するのは確かでしょう。少なくとも、絶対にこれまで通りにはならない。
だから、波風立てずにこのままでもいいかな、とか。
「不安そうな顔するなよ。言わない。ったく、わざわざ部屋まで呼びに来るなんて、どんだけ寂しがりなんだ。」
・・・かっこつけてたのに!
「違います!ただ八重川さんが嫌いなだけですから!」
「・・・ おまえ、本当に二十歳超えてんのか?」
「どういう意味ですか。」
「いや、嫉妬の仕方が子どもみたいだなと。」
「どこからどう見ても子どもですよ!もしあなたが僕に手出ししたら、客観的にはあなたの負けです。」
「実際的にはお前の方が法に触れるがな。俺は未成年だ。 」
全く可愛げのない人です。なんの間の言って頭がいいから教えてやるって踏ん反り返る事すら出来ないんですから。
「それで?こんなに可愛い外見の少年に対して、子供っぽい嫉妬とか言います?普通。」
「その話続いてたのか。ちなみに一般的な普通にお前は当てはまらないだろ。普通じゃないから子供っぽいで正しい。」
「あのですね・・・」
スルーされちゃいましたけど、なんとも思わないんですかね?この人。
「そもそも僕は男ですよ?・・・なんで、浪花さんを取り合ってる前提でおっしゃっているんですか?」
「いや、それ割と今更だけどな。側から見てれば明らかに浪花のこと好きなんだなってわかるよ。」
「・・・これでも一時期葛藤があったったのに。」
初恋が死刑囚の男性なんていう、割と終末的な経験をした僕はそれからずっと恋愛なんかできませんでした。死ぬのが確定している人間に特別な思いを抱くこと、それは同性に思いを寄せてしまったことよりも、怖いことでした。でも普通に生きている人間だって、本当は死刑囚の方と何の変わりもない。
「そんな葛藤するものか?」
「あなたが軽すぎるだけだと思います。」
「軽いくらいでちょうどいいだろ、そんなの。誰が好きとか、元々生々しい問題なんだから。」
宿題は終わったらしく、久松さんは思い切り伸びをした。
「でも、男同士は相当生々しいでしょ。」
「そうか?少なくとも妊娠騒動はないだろ。」
「うわ、それは生々しい。」
「だろ。男女の方がよっぽど醜いよ。」
嫌だ嫌だと言いつつそのまま寝転がり、居眠りを始めました。ここもなかなか気候が良くなり始めていて、僕も折角なので、隣で寝ることにしました。
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